第5話 生きている意味なんて

「うう...。ここは...?」


目を覚ました私は、暗いところにいることに気づいた。


使われておらず埃まみれになった家具、読まれないで投げ捨てるように置かれた魔法書。色んなものが床や箱の上に乱雑に置かれている。

どうやらここは物置部屋のようだ。

光は一切入ってこず、唯一の光は部屋の上の隅についている小窓から差し込む光のみ。

明るさ的に、今は朝方のようだ。

私が昨日出かけたのが昼過ぎだから、恐らくは一日程度気を失っていたのだろう。


「そうか...。私殴られて、それからここに攫われたんだろうな。ここがどこかも分からないし、多分もう助からないんだろうな」


少し前から街で盗賊紛いの悪党がいる、という噂は聞いていた。

自分がまさか狙われるとは思ってもいなかった。

多分、もう助けは望めない。

家に情報が伝わるまで時間がかかるだろうし、対策をするのにも時間がかかる。

その上、場所もどこか分からない。


「痛っ...そういえば、手と足が動かせないな」


腕と足にも違和感を感じ、見てみるとキツく縄で縛られていることに気が付いた。

腕と足が鬱血してしびれているし、赤紫色の痕が大きく残っているのが見える。

痛さも感じるがもうどうでもいい。どうせこれから私は死ぬか売られるのだろう。

怖いという感情は少しある。だけど、この憧れと劣等感をごちゃ混ぜになったこの苦しさから、悲しさから逃れられるのなら。


いきなり入口のドアが乱暴に開けられた。

重たそうなドアが壁にぶつかり重厚音が部屋中に響き、驚いて振り返る。

そこには、朧げな記憶の中で、私が意識を失う前に殴られたあの男が立っていた。


「ああ、やっと目が覚めたか。遅かったなぁ?『無属性』のアルネ子爵令嬢ぉ?やっぱ魔法が使えないと弱くなっちまうのかぁ?貴族なのによぉ!!」


胸がまたチクリと痛んだ。

やっぱりそうか。私が、私が弱いのがいけないのか。

私が『無属性』で何もできないのが悪いのか。

守られるだけの存在で、他人に迷惑をかけながら生きているのが悪いのか。

私を見て、男は壁を大きく蹴った。

それだけで壁には穴が空き、大きな音が響いた。

私の心にも、小さな穴が空いてしまった。


「ああ、いっけね。もう使われていないとはいえ、あまり傷つけるとモルーテ様に怒られちまうんだよなぁ。まあどうでもいいか」


「で。お前、今どう言う状況か分かってんのか?」


男が問いかけてきた。


「...お金目当てでしょう。貴族である私を攫い身代金を要求するか、私を売り飛ばしてお金にしようとしているのでしょう」


私がそう答えると、男は少し笑いながら答えた。


「はっはっは。やけに冷静だねぇ?まあ大体正解だ。だけど、その前にお楽しみがあるよなぁ?おい!お前ら!!モルーテ様もどうぞ!」


男が大きな声を出すと、部屋の外からあの時の二人の男、それに一番最後にモルーテ伯爵もいた。


「ああ。私もたまには参加したいからなぁ。だが、お前ら気をつけろよ。こいつは商品だ。もうすでに出荷先は決まっている。あまり傷つけないようにしないとだからなぁ?」


「分かってますよ。でもどうせ治癒魔法を使ったりして証拠隠滅するんで対して変わらないですけどね」


少し太り気味で、気持ち悪い笑みを同じように浮かべていた。

子供の頃、社交パーティーで会った時にはもう少し痩せていて優しそうなおじさんだと感じていたのにこれか。

人は簡単に変わってしまうのだなと感じてしまった。


「...一つ、最後にお聞きしていいですか」


「ああ?なんだ。まあ許可してやる」


「私は、この世に生まれてきた意味はあるのでしょうか」


魔法が使えないと分かってからの二年間。

ずっと思っていたことがある。

『魔法が使えないのに、生きる価値はあるのか』と。

憧れにしがみつくだけの人生に意味はあるのかと。

それを最後に、誰かに聞きたかった。


「ああ?何だいきなり。子供のくせに何言ってやがる」


「いえ、どうせもう私の人生は死んだも同然。だから、最後に生きている意味を確かめたいと思っただけです」


「難しいこと言ってんじゃねえよ。まあ、答えるならなかっただろ!!強いて言うなら最後に俺たちを楽しませることだけだったんじゃねえのか?」


ガハハ、と男達のうるさい笑い声が大きく響いた。

ああそうか。

結局、私の人生は何でもなかったんだ。

その事実に気づいた時、絶望で涙が止まらなかった。


「うう、ぐすっ。ぐすっ」


「何泣いてんだよ!?泣いてんじゃ...ああ何だ?この足音は」


突然、スタスタと、廊下から少し古くなった廊下から足音が鳴り始め、部屋の前で止まり、部屋に入ってきた。

御伽噺の魔女のような格好。帽子から覗く美しいとまで感じる青長髪の髪の毛。


「──いけないねえ。寄ってたかって女の子を虐めるなんて。お前たちは、人間の屑だ」

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