第4話 作戦会議
アルネが攫われた翌日の早朝。
俺は、レリアを家に招いていた。
レリアは目をこすり寝そうになりながら、俺の部屋まで来た。
部屋に入り、紅茶を出し本題に入る。
「レリア、単刀直入に言おう。アルネが攫われた。おそらく、最近街で噂になっている盗賊団の仕業だ。俺一人でもどうにかできないこともないが、安全のためともう一つ......ってどうしたレリア?そんな苦虫を噛み潰したような顔をして」
レリアに今回の事件の詳細や、俺の推測を話していたらレリアの反応がないことに気づいた。
そのことを疑問に思い、レリアの方を見ると先程までの眠気はなくなり、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
というか、あの顔は怒っている。
長い付き合いだから分かるが、こいつが怒るのは珍しい。
「当たり前じゃないか。私の弟子(仮)のような存在のアルネが攫われただと?冗談じゃない。私の知り合いに手を出した時点で命はない。で?そいつらは今どこにいるんだ?」
「落ち着け。今からそれを話すところだ。あいつらのアジトの目星は大体つけ終わっていて三箇所まで絞れたところだ。街外れの空き家、北の森にある小屋、それから、モルーテ伯爵の領地にある旧館。この三つが現在の候補だ」
モルーテ伯爵はティレイア公爵家が守護しているイレーヌ王国東部の中でも有力な貴族だ。そのような人物がここで関与しているとは考えたくない。
しかし、モルーテ伯爵は前々から黒い噂が立っている。可能性としてはあり得るだろう。
「モルーテ伯爵とは、これまた面倒くさい人物が上がったね。それで、作戦はどうするんだ?相手はバックに貴族がいる可能性がある。君が大々的に動いたら危ないだろう?『英知』のハルト?」
「その名前で呼ぶな。それで呼ばれていたのはもう何年も前だ。全盛期でもお前には勝てていないしな。お前を差し置いてその名で呼ばれてたまるか」
昔、冒険者として活動していて二つ名としてついた『英知』。しかし、知識や実力であったらレリアの方が上だろう。だからこそ、その名で呼ばれるのは複雑な気持ちだった。
「はは、君はそういうところが面倒くさいんだよ。人に褒められているのなら素直に受け取ればいいものを。それにしても、愛娘が誘拐されたというのに随分と冷静だね。何か分かっているのかい?」
「俺も焦ってはいるさ。だが敵は未知数。悩み、後悔するのは全てが終わってからでも遅くない。今、やるべきことは冷静に判断し敵を見誤らないことだ。だから、俺はできることをやるだけさ。だから、お前も力を貸して欲しい。」
焦ってはいる。
だがそれで冷静さを見失っては本末転倒だ。
物事を冷静に見ることができるか。戦いでも勉強でも全てのことに冷静さは必要だ。
これをモットーとして生きてきたからこそ、俺は強大な敵と戦っても生き延びることができた。
「この話を最初に聞いた時からなんとなく感じ取ってはいたさ。いいだろう。私も知り合いに手を出されて腹を立っているんだ。何より、この国にそんな外道がいるなんて私も許せないからね。私はモルーテ伯爵家の方にでも行かせてもらおうか」
「感謝する。俺は街外れの空き家を調べる。北の森の方は俺の部下とセリカが向かう。俺も一応何人か部下を連れて行くが、お前はどうする?」
「いらないよ。私一人で十分だ。それにしても、セリカも動くのか。過剰戦力すぎないか?」
セリカは俺の妻だ。
セリカも冒険者として活動していたことがあり、それなりに名も売れていた。
そんなセリカが行くとなれば安心できる。
むしろ、過剰戦力になるだろう。
もっとも、それは目の前のやつも同じだが。
「だろうな。お前の魔法だと巻き込む可能性だってある。セリカは一応連れて行くそうだ。相手が複数の可能性もあるからな」
「そうか。セリカが用心深いのはあいかわらずだね。じゃあ、私は早速動くとするか」
「ああ。お前も気をつけろよ」
「君もね」
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