第3話 迫り来る恐怖

レリアさんが私の家を訪れて四日が経とうとしていた。


『君はまだ、魔法を使うという夢を、憧れを諦めてはいないはずだ』


そう言われても諦めかけていたものをもう一回追うというのはすぐに言えない。

未だに弱音と理想を求める感情がぐちゃぐちゃだ。。

魔法を使いたいといっても私は『無属性』だ。使う方法なんてあるわけが無い。そう頭では分かっているのに、心の奥底では諦めきれない。


「はぁ...少し出かけるか」


気分転換のため、前々から気になっていた本を買いに行こうと思った。

買うのはやっぱり英雄譚。

強大な敵に立ち向かう英雄はやっぱりかっこいい。

今度買うのは、『水嵐』の魔女様のお話。

短い青髪の魔法使いで、得意な水属性と風属性においては右に出るものはおらず、独自の魔法も作るほどの天才だ。

水と竜巻を同時に起こし、竜巻に水を含ませる独自の魔法『水嵐』。圧倒的な破壊力を持ち、得意の魔力制御で押さえつける。

その破壊力故に、龍種と戦った時にもこの魔法を使っていたらしい。

龍種といえば、この世界でも最上位の存在だ。

同列には悪魔、天使などの存在がいる。

その存在を人の身でありながら単独撃破をするというのは相当な偉業だろう。


この国は、王都は王家直属軍を始めとした守衛軍によって守れており、東はティレイア公爵家、西はラノール公爵家、南はリリエーレ公爵家、北はオルター公爵家、というように建国から王家を支えてきた四大公爵家がそれぞれの領地を守護している。

余談だが、私の家、ヴァンハート家は東の方に位置しているため、ティレイア公爵とは面識が一応ある。

その甲斐あって、イレーヌ王国はしばらくは戦争もなく平和であり、街も多くの人で賑わっている。


「いつもありがとうございます」


「いえいえ。こちらもお世話になってますので。またきますね」


無事いつもの本屋につき、目当ての『水嵐』の魔女様の英雄譚を買うことができた。

英雄譚を買って家に帰るまでのこの時間がもどかしい。かといって、ベンチで読んだりして帰るのが遅くなればお父様に心配をかけてしまう。

なら早く帰ろう、と思っていると街の喧騒が聞こえないことに気がついた。

いつも通りなら、お昼を少し過ぎたぐらいのこの時間はまだまだ賑やかなはずだ。

なのに、今は風の音が聞こえるぐらい静かだ。

不気味さを感じ始め、早歩きになったぐらいで後ろから衝撃を感じた。


「痛っ...!!いきなり何するの!?」


衝撃のまま倒れてしまい、足を擦りむいてしまった。

振り向くとボロボロな服を着た三人の男がいた。

最近街で噂になっていた盗賊紛いだろう。

その男たちは、私の身体を舐め回すように見て、汚い笑いを浮かべていた。

生理的な気持ち悪さを感じた後に、恐怖で動けなくなってしまった。

男達が私を睨みつけ、少しずつ近づいてくる。


「お前、ヴァンハート子爵のご令嬢だろ。これは上玉を引いちまったなぁ?お前ら」


「へへ兄貴、これは金になりますねぇ」


「急げ。さっさとやるぞ。早くしねえと認識阻害魔法がキレちまう」


「い...いや...来ないで!!誰か、誰かああああ!!!」


「うるっせえ!騒いでんじゃねえよ!!」


私が叫んで助けを求めていると、男の癇に障ってしまったのか男は怒鳴り、私を殴ってきた。

そのまま、私は意識を落としてしまった。

意識を落とす前に覚えているのは、少し雨が降ってきたことだけだった。

ヴァンハート家にこの事件が伝わったのは、数時間後であった。

当主、ハルト・ヴァンハートの部屋には彼が机を叩く音と、強くなった雨が地面に打ちつけられる音だけが響いていたのだった。



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