孤独に歩め……。

とどのつまり、人間とは孤独に生きるしかないのだろう。攻殻機動隊シリーズであまりに有名になった言葉を思い出す。確か、こんな感じだった。

「孤独に歩め悪をなさず求めるところは少なく林の中の象のように」ーー法句経20章330節

良き伴侶を見つけたら共に歩めば良い。しかし、愚かな人を道連れにしてはならない。もし、良き伴侶と巡り会えなかったら……。

作中に登場する人物らは尽く孤独に歩むしかしようがないだろう。自殺を遂げた恋人、子どもを孕んだ主人公、主人公に恋人がいると知っておきながら無力な夫。彼らは繋がっているようで繋がっていないのだ。それぞれが隔絶された世界に生きている。

主人公達は林の合間を孤独に彷徨う象なのである。彼らは決してすれ違うことはない。生きている世界、引いては憧れる世界や存在がちがうのだから。

だが、私はこのような登場人物達の生き方や有り様を悲劇だとは思わない。人と人が交わることで生まれるドラマがここにはないからだ(主人公と恋人は死別しているし、夫と主人公の間にもはや愛情はないといえる)。この小説は、もっと観念的な人間としての在り方を訴えているように思えてならない。

良き伴侶に恵まれなかった人々ができる事は一つだけである。自身の業を見詰めて内省を繰り返し、悪をなさずに孤独に人生を歩むこと。孤独の味を噛み締めながら山林を彷徨い歩くこと。そこには悲しみなど存在しない。内側に没入することで得られる法悦がそこにはあるのではないだろうか。そんなことを考えた。