公爵夫人の優雅なティータイム
岡本梨紅
公爵夫人の優雅なティータイム
蓄音機でクラシック音楽を流しながら、
ボーン、ボーン、ボーン。
「あら? ティータイムの時間ね」
エリーゼは裁縫道具を片付けると、蓄音機を止める。そしてチリンとベルを鳴らした。
「お呼びでしょうか」
すぐさまメイドがやってきて、エリーゼからの指示を待つ。
「いつものよ」
「かしこまりました」
メイドはエリーゼに頭を下げてから、本棚の前に立つ。たくさんの本があるなかで、彼女は黒い背表紙の本を奥に押し込んだ。
カチリ。
どこかでスイッチが押され、ネジを巻く音と共に本棚が動き、地下に続く階段が現れる。
メイドはマッチを擦り、ランタンに火を灯した。エリーゼを促し、二人はヒールの音を響かせながら、地下へと降りていく。
階段を降りるにつれて、気温は下がっていくが、エリーゼの顔には笑みが浮かんでいた。
やがて最下層にたどり着き、メイドが木の扉を押し開ける。
ギギィっとさび付いた音と共に開けられる扉。その冷たい地下室に広がっているのは、そこには拘束具やギロチン。大きな斧や棍棒、大量の針などの拷問器具たち。その他、湯を沸かすための簡易キッチンと食器棚があり、棚の中には薬品と赤い何かを漬けたものから、空の空き瓶まで揃っていた。
「うー! ううー!!」
「んー!! んんー!!」
そして部屋の奥からは、呻き声が聞こえてくる。
「フフフッ」
エリーゼは小さく笑って、部屋の奥へと進む。そのあいだ、メイドは部屋のろうそくに火をともしていき、ティータイムの準備を進める。
エリーゼが向かった奥には鉄格子があり、中には鎖で繋がれ、目隠しと猿轡をされた少女たちがいた。呻き声の発生源は、彼女たちからであった。
エリーゼは鍵を開けて、牢の中に入る。メイドはエリーゼの背後に控えた。
「今日は、どの子にしようかしら?」
「んんんー!」
「うう!」
「んうう!! んんんんーーー!!」
「あらあら? みんな元気ねぇ。じゃあ今日は……」
エリーゼはひときわ大きく呻いていた金髪の少女の髪を鷲掴んだ。
「あなたにするわ」
「んんー!! んんんーー!!」
「お黙り!」
暴れる少女にビンタをするエリーゼ。殴られたショックで大人しくなる少女。メイドは少女の首についた鎖を引っ張り、ギロチン台までひきずっていく。
「まったく。手間をとらせないでちょうだい」
「んん!! んんーー!!」
少女はわめき暴れるが、メイドは顔色ひとつ変えることなく、少女をギロチン台に固定する。それが済むと、メイドは再びティータイムの準備に戻った。
エリーゼ少女の顔を指で撫で、耳元に口を寄せて囁くように言い聞かせる。
「安心なさい。あなたの血肉、余すことなく使ってあげるわ。このギロチンで飛ばした首は酒につけて、首酒を。切り口から出た血で、紅茶をいれましょう。あら? あなた、手も綺麗ね。これは、細かくてして、ケーキにいれましょうか」
「んんー! ううーー!!」
エリーゼはふぅっと息をついて、ギロチンの刃を落とすための縄を持つ。
「ものわかりの悪い子ね。あなたはこの私の美しさを保つために死ぬのよ? 光栄に思いなさい」
「んんー! んんー!!!!」
エリーゼはギロチンの縄を勢いよく引っ張った。
スパンッと音と共に、少女の頭が冷たい石の床を転がる。
首から流れ出る血は、台の下に置かれていた瓶に受け止められていく。
エリーゼは愛しそうに少女の頭を拾い、目隠しと猿轡をとってやる。少女の顔は絶望で染まっていた。
「あぁ、本当に素敵な顔。この絶望に満ちた表情こそ、いいお酒が作れるのよ。それにあなたの血はとても赤くて、色も濃い。若く新鮮な証拠ね!」
少女の頭を大きな空き瓶に押し込み、ブランデーを注ぎ込む。
「これで熟成させれば、立派な首酒。あぁ、楽しみねぇ」
「奥様、お茶のご用意ができました。本日のおやつは、人肉のタルトです」
「ありがとう。さぁティータイムを楽しみましょう」
少女たちの呻きと泣き声を音楽とし、エリーゼは血の紅茶を飲む。
彼女には罪悪感などない。すべては己の美貌を保つためにしていること。たとえ街で少女を狙った誘拐で騒がれていても、自分が犯人扱いされていたとしても、彼女にはまったく関係がなかった。
「私は誰よりも美しいの。美しくいなければならないの。そんな私の一部になれるのよ? 恨むのではなく、光栄に思ってほしいものね。フフフッ。アハハハハハ!」
そう言って、エリーゼ公爵夫人は処刑される瞬間まで、高らかに笑っていた。
公爵夫人の優雅なティータイム 岡本梨紅 @3958west
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