第4話
軽快な通知音が鳴った。
『ひま?』
どうせ大した用事ではないのだろう、とか思いながらトーク画面を開けば差出人はやっぱり予想通りだし、内容もやっぱり大したことではなかった。将来はもしかしたら名探偵になれるかもしれない、なんちゃって。
「暇の定義による」
『やることない人のことをひまっていうらしいyp』
「じゃあ暇じゃない」
『さてはひまだね』
「誤字だから無効」
『これは誤字じゃなくてわざと』
醜い言い訳である。
ノートを閉じて大人しく寝転ぶことにした。一旦会話が始まるとなかなか終わらないのは経験上わかっている。
『今電車だからちょっと話そ』
「いいよ」
『面白い話して』
「ふむ」
ふむ。五秒考えた。
「ない」
なかった。
『えー』
「今日記書いてたの」
『えw』『何書くの』『見せてw』
「絶対やだw」
日記見せて、で実際に他人に見せられる人がどれくらいいるのだろう、とかふと考えてみる。私だけの文章。人に読まれることを想定していないから短文の集まり、といった感じで文章と呼んでもいいのかさえ危ういが。
きっかけは自分でもわからない。でもそれは日記をつけ始めた大抵の人がそうだろう。
『まぁいいよ』
押し問答の末、話題が切り替わる。向こうが折れたようだ。
『今年のクラスって静かじゃない?』
「そう?」「わからん」
『えー絶対楽しい方がいい』『よくない?』
「知らんw」「そんなにクラスに未練ないし」「全然現状に満足してるよ私は」
『あーあ』
「いーい」
『w』
「なにw」
『鈴木ほんとにしょうもない』
話題の切り替わりがほんとに早い。
「君にだけは言われたかない」
『鈴木がこんな感じって学校でもっと広まってほしい』『なんで学校では静かにしちゃうの』
「静かな方が生きやすいもん」「目立ちたくないw」
『えーーーー』『もったいないって』
「何がw」
『学校のキャラと違いすぎる』
会話がとんでもないスピードで進んでいく。お互いに既読が早いと気づいてからはずっとこうだ。中身なんてない。
ついた、のメッセージを最後に唐突に会話は終わった。ふう、と一息ついてやるべきことを再開させる。暇潰しの相手をさせられている。確かにそうだ。
なんでこんなに話すようになったんだっけ。
ささやかな疑問は今日も解決しないまま、一日が終わる。
どれだけ願っても二度と戻ることができない、美しかったあの日々に捧ぐ物語 京 @envyyou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。どれだけ願っても二度と戻ることができない、美しかったあの日々に捧ぐ物語の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます