プロジェクトＸｍａｓ ～忍ぶ非公認サンタクロース～

　子（こ）どもの笑（え）顔（がお）でわし嬉（うれ）しい。

　サンタクロースになろうと思（おも）うのに、ためらいはなかった。

――ふたつの課（か）題（だい）――。

　日（に）本（ほん）の防（ぼう）犯（はん）意（い）識（しき）は高（たか）かった。

「メリークリスマス！」

　誰（だれ）も、玄（げん）関（かん）を開（あ）けてくれなかった。

　えんとつがある家（いえ）も、ほとんど見（み）つからない。

「サンタ入（はい）れない問（もん）題（だい）」にぶち当（あ）たった。

　わしは悩（なや）んだ。

「公（こう）認（にん）のサンタじゃないせいか……？」

　グリーンランド国（こく）際（さい）サンタクロース協（きょう）会（かい）主（しゅ）催（さい）の認（にん）定（てい）試（し）験（けん）。

　体（たい）重（じゅう）、言（げん）語（ご）、ふるまい、ほか多（おお）くの基（き）準（じゅん）をクリアした者（もの）は、晴（は）れて公（こう）認（にん）サンタクロースとなる。

　なお、サンタには給（きゅう）料（りょう）がなかった。

　ハードルも高（たか）かった。

――わしも、サンタだ――。

　公（こう）認（にん）サンタにはとてもなれない。

　だから、わしはニンジャになった。

　音（おと）もなく忍（しの）び、寝（ね）静（しず）まる子（こ）ども部（べ）屋（や）にプレゼントを置（お）いていく。

　非（ひ）公（こう）認（にん）サンタクロース、ニンジャ・サンタの誕（たん）生（じょう）だった。

　ニンジャ・サンタはがんばった。

　えんとつがあれば、煙（けむり）の中（なか）にすばやく飛（と）び込（こ）み、暖（だん）炉（ろ）の火（ひ）で焼（や）かれる前（まえ）に抜（ぬ）ける。

　えんとつがなければ、窓（まど）ガラスをくりぬいてクレセント錠（じょう）を下（お）ろすか、玄（げん）関（かん）をこじ開（あ）ける。

　警（けい）察（さつ）に見（み）つかれば、「ホッホッホ」と高（たか）笑（わら）いしながら冬（ふゆ）の星（ほし）々（ぼし）に姿（すがた）をくらます。

　同（どう）業（ぎょう）サンタと訪（ほう）問（もん）先（さき）がかぶれば、プレゼントの中（なか）身（み）でマウントを取（と）り合（あ）ったり、ニンジャらしく死（し）闘（とう）を繰（く）り広（ひろ）げる。

　過（か）酷（こく）なサンタワークだった。

　長（なが）くは続（つづ）かなかった。

　膝（ひざ）にトナカイを受（う）けてしまったのだ。

　わしの涙（なみだ）が、白（しら）雪（ゆき）に溶（と）けていった。

――プロジェクトＸｍａｓ（クリスマス）――。

　わしは信（しん）じている。

『あっ！　プレゼントだ！』

『パパ、ママ、みて！　サンタさんがきてくれたの！』

　子（こ）どもたちは、白（しろ）いひげと赤（あか）い服（ふく）を夢（ゆめ）に見（み）て、プレゼントを心（こころ）待（ま）ちにする。

　防（ぼう）犯（はん）意（い）識（しき）が高（たか）まった昨（さっ）今（こん）においても、時（じ）代（だい）はサンタをお役（やく）御（ご）免（めん）になどしないのだ。

「みなさんもニンジャ・サンタになりませんか？」

　わしは語（かた）る。

「服（ふく）装（そう）、体（たい）重（じゅう）、経（けい）歴（れき）不（ふ）問（もん）。独（どく）身（しん）ＯＫ（オーケー）、試（し）験（けん）なし。必（ひつ）要（よう）なのは、子（こ）どもたちへの愛（あい）とプレゼント、そして忍（にん）術（じゅつ）のみです」

　さあ、無（む）念（ねん）のリタイアを遂（と）げたニンジャ・サンタの意（い）志（し）を継（つ）ぎ、クリスマスに向（む）けて一（いっ）歩（ぽ）を踏（ふ）み出（だ）そう。

　そこから先（さき）は、サンタの世（せ）界（かい）だ――。