第17話 大地震
「おふたりとも、交代です」
レムの後ろには、鎧姿の女の子と、妙に大柄な、トロール族の女の子が立っている。このふたりが代わりの従者なのだろう。
僕らは本陣の入り口から、なかへと引っ込んだ。
本陣のなかでは、姫様が地図を広げたテーブルに着いている。
「ふたりともお疲れ様。少し休んで下さい」
姫様に誘われるまま、僕とアミラは同じテーブルに着いた。レムが紅茶を入れてくれる。
「そういえば姫様。気になることがあるんですけどいいですか?」
「なんですかレイヴ?」
「はい。じつは十日前、姫様から階級章をもらったときに、アミラ様の戦況報告を聞いて思ったんですけど、敵に魔術部隊はいないんですか?」
あのとき、アミラ様は軽装歩兵隊、弓隊、騎兵とかの数や動きを言っていたけど、魔術師部隊のことには触れていなかった。
素人の僕が考えることじゃないと思ったけど、なんとなく気になってしまった。
「それでしたら問題ありませんよ。アミラ、説明してあげて」
「はい。それは相手の趣味よ。この戦場における人間軍の総大将は、とにかく力押しが好きな突進バカっていうのかしら。魔術を騎士らしくないとか軟弱って思っているの。ドラゴニュート族は第一形態のリザードマンのときは魔術が苦手だから、こちらとして助かるんだけどね」
「魔術師部隊はいないんですか? それともいるのに使わないんですか?」
「大勢いるけど、全員後方待機しているみたい。なにせ敵総大将は筋肉馬鹿だもの。次々合流する援軍からわざわざ魔術師部隊を抜いて前線に投入しているみたいね。援軍には知将と名高い少将とか、魔術大隊の隊長さんなんかも来ているのに。意外とあっちは内輪もめとかしているんじゃない?」
アミラは呆れた顔で肩をすくめてみせた。
でも、僕はアミラの話を聞いて、ますます引っかかる。
「姫様。たくさんの魔術師を使わず後方に待機させて、しかもちゃんとした知将や、高名な魔術師もいるんですよね?」
「はい、そのように聞いていますが、レム、間違いないですか?」
生身と陶磁器、四本の腕でお茶菓子を配膳してから、レムは頷く。
「はい。私もそのように聞いております。レイヴ様、何かお心当たりがあるのでしょうか?」
僕は、表情をくもらせながら首肯する。
「うん。前に師匠から聞いたんですけど、もしかして大規模儀式魔法作戦、ってことはないですか? 前に聞いたんです。人間界の戦争で、千人の魔術師が一ヶ月もかけて行う大呪文で、敵軍を一掃した例があるって」
アミラ様はアゴに指を添えてから、イスの背もたれに体重を預けた。
「う~ん、それはないんじゃない? だって大規模儀式魔法がそんなに便利ならどこの戦場でも毎回使っているはずでしょ? どうもあれ、参加者は一流の魔術師でないといけないうえに、発動後三カ月は魔術を使えないし、死人が出ることもあるそうよ。事実上、貴重な一流の魔術師千人を四ヶ月以上使用不能にして一部死亡なんて割りに合わないもの」
「……なら、いいんですけど」
「気になるのですか、レイヴ」
僕は言葉を濁しながら、恐縮した。
「いえ、それこそ僕なんかの素人判断なんですけれど、その力押しの総大将だけじゃなくて、知略に長けた少将さんや魔術大隊もいるのになお力押しなんて、変じゃないですか?」
総大将の性格は、人間の軍もわかっているはずだ。なら、どうしてそんな戦場にわざわざ魔術大隊なんて送りこむんだろう。
僕には、その力押しの総大将さんに前線を守らせながら、後方で何かを準備しているように思えてならなかった。それに……
「それになんか、ざわざわするんです」
アミラが噴き出した。
「あはは、そりゃあんた怖いだけよ。初陣はみんなそんなものよ。いーいレイヴ。初陣を飾る兵は三種類に分かれるわ。アタシのように、姫様に奉公できると嬉々として参加する者、実感がわかなくてなんの感慨もない者、そしてあんたみたいにビクビク怯える者よ。まっ、アンタはアタシと違ってただの一般市民だものね、許してあげるわ。姫様の従者の役目はアンタの分までしっかりとアタシが――」
アミラの言葉を遮るように世界が揺れたのは、そのときだった。
大地震。それも特大のだ。
地面が揺れるなんて生易しいものじゃない。
大地が一斉に崩壊をはじめていた。
本陣を覆う幕や柱は一斉に崩れ、そこら中で地割れが起こっている。
テーブルにしがみつきながら耐える姫様に、僕は手を伸ばした。
「姫様! こちらに!」
大地が裂けて、僕らはそのなかに吞みこまれた。
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とりあえずここまでです。
紹介文に書いた通り人気があったら本格投稿したいです。
魔王の少女と闇の勇者 鏡銀鉢 @kagamiginpachi
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