第49話 エピローグ


 あれから数日後、レイラは学年代表と王族の権限をフルに使って事実を隠蔽した。


 犯人はゴルゴンと正直に報告するがその実力は実際よりも弱く報告し、ゴルゴンは義人と自分、そしてエイリーン、エレオ、チェリス、ハイディの六人で強力してなんとか退かせたという事にした。


 そして説得力を持たせるためにクラス代表の自分とエイリーン、そのエイリーンを倒した義人の三人がゴルゴン戦の中心人物であったとした。


 これによりエイリーンはその名誉を回復すると同時に東洋人であった義人の実力を認める事で義人の学園内での立場も向上。


 さらに流石は国家を代表して留学してきた日本国最強の召喚術師と宣言し、クラス代表補佐という新たな役職を作り、義人をその役職につける事で義人に負ける事はなんら恥では無いともした。


 事実高い戦闘能力を有する事もあり、レイラは王族の一人として義人達五人を表彰、ゴルゴン戦における英雄とした。


 つまり、手柄を義人一人ではなく六人で分割したのだ。


 当然、東洋人がクラス代表並の力を持つという事実は他の生徒達からすれば受け入れがたいだろうが、王族のレイラが義人を表彰、というあくまでレイラが格上、という形式を取る事でその摩擦を弱めた。


 バジリスクではなく、ゴルゴンの魔眼で石化した生徒達の治療は困難を極めたが、百合の力で生徒達は程なく回復。


 日本は魔術治療が進んでいて、義人は石化治療が得意とすれば、日本を良く知らない生徒達は誰も疑いはしない。




 その表彰式を生徒会室から見降ろし、アルメールは紅茶を飲んだ。


「レイラの奴がアジア人を表彰するとは」


 満足げな顔で視線を義人へ投げる。


「彼はおもしろいな」



 そして表彰が終わり、義人達は壇上から降りて生徒達が並ぶ庭園を外回りに通って列の後ろへ戻ろうとするが、その途中で不意にエイリーンが立ち止まる。


「ヨ、ヨシト、そういえばアンタ手袋が欲しいとか言ってたわね」


 緊張気味の声で言って、エイリーンは振り返り、ポケットから平たい小箱を取りだし開く。


 中に入っていたのは白い紳士用手袋、赤面しながらエイリーンはぐいっと突き出す。


「女物の手袋揃えたって使い道無いでしょ、だからこれ……アタシが選んだんだから大事にしなさいよ」

「お、ありがとなエイリーン」

「エイリ……」

「え?」


 聞き返すと、エイリーンはさらに顔を赤く染め上げて強めに言う。


「だから、エイリでいいって言ってるのよ! エレオアーヌをエレオとかチェリスティーナをチェリスとか、だったらアタシもエイリでいいわよ」

「わたくしはハイディのままですが」


 空気の読めないハイディを無視して、義人はその名を呼ぶ。


「分かったよ、エイリ」


 照れくさそうに笑い、エイリはエレオとチェリスの方を向いて頭を下げた。


「今まで、ごめんなさい、アタシ爵位にこだわって、ずっとアンタ達に酷い事してた。だからごめんなさい」


 素直に謝るエイリに、エレオとチェリスも笑顔で返す。


「もういいよ」

「そうだね、まぁこれからは仲良くしようね♪」


 仲直りをして、笑みを交わし合う三人をハイディがすかさずカメラに収める。


 記念写真に後でもらおうと義人が平和な事を思っていると、その平和は急に崩れた。


「ところでヨシトくん、エイリさんからの贈り物受け取ったわけだけど……ヨシトくんは誰が好きなのかな?」


 エレオが急にそんな事を言って来た。


 もちろん、顔は真っ赤だ。


 エイリとチェリスも頬を染めながら義人に注目して、


「誰ってか全員だけど」


 世界の時が止まった。


 本当に、最後の最後までみんなの度肝を抜く男である。


「ヨシトくんそれ何又かけてるの!?」

「ヨッシー! いくらなんでも不誠実すぎるよ!!」

「アタシ達は誰が一番かって話してるのよ!?」

「一番? ああ本妻ってこと?」

「「「ほ、本妻!?」」」


 素っ頓狂な声を上げるエレオ達に義人は不思議顔である。


「だって相手がOKすれば気にいった子はみんな嫁にしちゃえばいんだし、でも本妻って最初に結婚した人だから違うのか? あれ? じゃあ一番好きな嫁は何て言えば……」


 いまいち話がかみ合わない義人にハイディが一言。


「あ、あのですねヨシトさん、もしかしてそれは中東などの一夫多妻制という奴では?」

「一夫多妻? ああそうだな、日本は奥さん何人いてもいんだぞ、だって後取り息子産んでくれないと家を継ぐ人いないだろ? 養子は最終手段だな」

「あちゃー、すいませんヨシトさん、ヨーロッパは一夫一妻制で男性に妻は一人までなのですよ」


 人生初耳の制度に珍しく義人が驚く。


「は!? 奥さん一人って何それ!? じゃあ可愛い女の子いっぱいいたら男はどうすればいいんだよ!? 二、三人の女の子から同時に求婚されたらどうするんだよ!?」


 たちまちパニックになる義人、だがハイディは救いの手を差し伸べる。


「ご安心を、ヨーロッパの貴族社会には愛人文化がございます! 手続きを踏んで正式な妻にしなくても愛人さんにすれば良いのです」

「えー、でもそれって正式な奥さん一人なんだろ? じゃあその一人以外になんか失礼な気がするし」


 エレオ、チェリス、ハイディ、エイリ、四人の顔を何度も往復してから、


「駄目だ! やっぱり俺には女の子に順位なんかつけられない!」

「うむ、では全員と付き合って体の相性などを確かめた上で選ぶのはどうじゃ?」


 いつのまにか実体化した百合が提案して、


『ちゃんと選べぇーー!!!』

 四人の拳が義人を打ち抜いた。

「ぐはぁ! お、俺が言ったんじゃないのに……」

 百合の目の前で放物線を描いて落下する義人、その様子を見て百合が一言。

「相変わらず難儀な人生背負っとるのぉ……」



 次の日の朝、カーテン越しに柔らかな朝日を感じながら百合は目を覚ます。


 いつもの幼年体だが、横で眠る義人の顔を見ると昨日の、誰が本妻かという話を思い出してしまい、義人と同年代の体になって、その唇にキスをした。


「愛しておるぞ義人、お主の本妻の座だけは」


 満開の可愛らしい笑みで百合は告げる。


「わしのものじゃ♪」



★★

本作を気に入っていただいた方には、私がMF文庫Jで書いた

【独立学園国家の召喚術科生】をオススメします。

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義人の召喚獣・女子学園国家で日本TUEE 鏡銀鉢 @kagamiginpachi

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