第48話 セミエピローグ


 義人がエレオ達のいる城の屋根に飛び乗るとヤマタノオロチはその姿を消し、代わりに義人の隣には成年体の百合が立っていた。


 皆、あまりの出来事に呆気に取られていたが、やがてレイラが口火を切った。


「……貴様、あれ程の力があるなら何故使わなかった、ステンノの言う通り死にそうになる事は無かったし、貴様自信が言っていた通り、貴様が奴を瞬殺していれば……助けてもらった身で言いにくいが、我々が余計な怪我をする事も無かった」


「そうよヨシト! それに今思えばアタシと戦った時だってアンタは手を抜いていた。倒そうと思えばいつでも倒せたのに、アタシに追い詰められてからフォースサモンでアタシを呑みこんで、せめて最初からサードサモンでも使っていればアタシにだって楽勝だった筈でしょ!?」


「そうよだヨッシー、ヨッシーがちゃっちゃと倒してくれればエレオちゃん傷つかずに済んだんだよ!」

「わ、わたくしもそう思います。それと、その女性は?」

「それは…………」


 申し訳なさそうに目を伏せ、義人は口をつぐむ。そして、


「そんなの決まってるよ!!」


 エレオが泣きながら叫んだ。


 エレオが言おうとしている事は分かるが、義人は止めない、どうせ最後なのだから、みんなにも自分の事を知ってもらおうと思った。


「ヨシトくんは……ヨシトくんは! 強過ぎるから、あんな、神話の怪物も簡単にやっつけちゃうくらい強いからっ……それで危険だからって留学の名目で日本から追い出されて……だからバレたらまた追い出されると思って……だから、だから……」


「もういいよエレオ」


 泣きじゃくるエレオの頭を優しく撫でて、義人は微笑む。


「でも……でも……」

「…………皆の衆、わしが先程の蛇、ヤマタノオロチじゃ」


 義人の横に立つ美女がそう言って、エイリーン達は驚く。


「自分で言うのもなんじゃが、一応は最強の蛇なんてものをやらせてもらっとる、わしは見ての通り、契約ではなく義人自身に取り憑いておるでな、常に義人と共にあるのじゃが、わしから謝らせてくれ、お主らを救わずすまなかった。

 わしが出ればすぐにカタはついたが、わしが本気を出せば義人の立場が危うくなる可能性があった。わしとて義人が可愛い、義人の為を思えば、義人が決断するまでは出て行けなかったのじゃ」


「それとごめんなエイリーン、シルフ杯めちゃくちゃになったから、これでもうお前やお前の家、助けてあげられなくなっちまった」


 エイリーンの目から涙が流れる。


「そんなこと……アタシよりもアンタはどうするのよ!?」

「俺はこの地上から消えて、オロチと一緒に天界で暮らすよ」

「そんなのやだよヨシトくん!」


 エレオを始めとして、皆が泣きながら義人に抱き突いてすがりつく。


 誰も義人とは離れまいと、必死に抱き突いた。


「オロチ、こんなに愛されて俺って幸せだよな?」

「……そう思ってくれるのなら、わしも幸せじゃ」


 互いに顔をほころばせて涙を流す義人とオロチ、義人やエレオ達を見てレイラは震えた。




 レイラは自分の価値観が崩壊していた。


 レイラは幼い頃から自分は選ばれた存在であると教えられ、信じ、常にアヴァリス王家に相応しい人物たろうと努めてきた。


 だが実際にはゴルゴン相手にあっさりと敗れ、生徒達をみすみす石にされてしまった。


 戦いの天才が聞いて呆れる。


 しかし、今まで極東の島国に住む黄色ザルだと嘲笑い、ジャップと言って来た義人はゴルゴンすら軽く葬り去る力を持ち、自分の人生と引き換えに仲間を守り、それでもなお自分は未熟者だと反省している。


 オロチを見て、これほどの怪物を従わせ、否、家族のように接し対等の立場にある実力を含めても、レイラは義人を見て勝てないと思ってしまった。


 レイラの白人至上主義が崩れて、レイラは決断をした。


「なぁヨシト、私から提案があるのだが……今回の事は皆の心の内にしまうというのはどうだろうか? 無論私は今回の件については嘘の報告をするつもりでいる」


 その提案に義人は驚いて、だがすぐに顔を伏せる。


「でも嘘の報告書なんて、王族がそんな事していいのか?」

「構わん、それに他の生徒にしても石になるか城の奥で怯えていただろうし窓から外の様子を見ていたとしてもオロチはでかすぎる。でかすぎてオロチの体が邪魔でどうせ何をやっていたかなんて把握できていないだろう、だからヨシト、全て私に任せろ」


 頼もしい表情を見せて、レイラは自分の胸を叩いた。

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