第47話 キングオブチート
曰くそのモノ、八つの谷と八つの峰を跨ぐ巨体を持ち、その背中は森林ができる程に広く杉や松の木が生え、眼は鬼灯(ほおずき)のように赤く、腹は血でただれ、口から火や毒を吐く。
伝承によれば戦神須佐之男命(すさのおのみこと)が酒に酔わせたところを殺したとあるが、これは誤解を招く表現だ。
厳密に言えば、神の国高天ヶ原最強の荒ぶる戦神、須佐之男命(すさのおのみこと)ですらオロチを泥酔させた状態で死力尽くし、ようやく退治できた。である。
戦神・須佐之男命(すさのおのみこと)。
ギリシャ神話でいうところのアレス、メソポタミア神話のイシュタル、ローマ神話のマルス、そして北欧神話のオーディンに当たり、こと殺し合いにかけては神界随一の戦士である。
そのスサノオをして泥酔させねば倒せぬこの蛇は、果たしてどれ程途方も無い蛇だったのか。
どれ程規格外のバケモノだったのか。
蛇の伝説は世界に数あれど、蛇神ナーガラージャは人に崇められる神、サタンは悪魔崇拝者に崇められる悪魔王、ヨルムンガルドにしても神の子で、ゴルゴンは髪が蛇というだけの女神だ。
だからあえて言おう。断言しよう。
最強である筈の神を越える彼(か)の者を、神でも悪魔でも人でも英雄でも無いその者を。
最強の蛇であると!
最強の怪物であると!!
最強の存在であると!!!
彼の者の名こそは最強のバケモノ
八俣遠呂智(ヤマタノオロチ)
「そん……な……こ、こんな……こんな…………」
全長キロメートル級、重さ兆トン級、超ド級の蛇がステンノの目の前にいた。
体はアータム島のから海へと大きくはみだし、頭一つが屋敷のようにデカイ。
目玉一つが民家よりも大きい。
城の屋根にいるエレオ達でさえ余りの巨大さに、山が動いているようにしか見えず、視界に収まらず全体を把握できない。
鮮血の赤(ブラッディ・レッド)の蛇眼が一六個、ソレが一斉に宙に佇む矮小な蛇女を睨みつける。
ただ、蛇に睨まれたカエル、とはならない。
ステンノは全身をガクガクと震わせ、涙を溢れさせ空に立ったまま失禁し尿と涙を地上に垂れ流して失神寸前だ。
そして八つの口が開き、空に八つの巨大な孔(あな)が生まれる。
その奥に破滅の光りが灯って、オロチの頭の一つに立つ義人はステンノを見下ろした。
「解ったかステンノ? これが俺達の力だ、これが俺とオロチの力だ!」
ついに思考が止まり、石化したように佇むステンノ、恐怖を映したまま固まったその顔に、神話のバケモノたる誇りはもう無かった。
「敵を撃ち滅ぼせ! 吼(ほ)えろ!! オロチ!!!」
ジシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッ!!!!!!!!
一発でも島一つ消し飛ぶ破滅の奔流が八つ、束になってステンノを呑み込み、一瞬で蒸発させ消し飛ばす。
眩くも苛烈な光は周囲を零秒で灼熱に変えながら、ステンノを巻き込んでも一切威力を衰えさせず、嵐を突き抜け水平線のさらに向こうへ突き進み、地球の丸みから離れて綺羅(きら)星(ぼし)の彼方へと消え去って太陽系の端まで届いた。
オロチの咆哮が消えるまでには無数の小惑星が消滅、神との戦争に負けた後、水星まで逃げたと言われるベルゼバブが聞いたら目を回すだろう。
義人がエレオ達のいる城の屋根に飛び乗るとヤマタノオロチはその姿を消し、代わりに義人の隣には成年体の百合が立っていた。
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