第46話 主人公の真の力
「ハハハッ!」
翼を羽ばたかせ、ステンノが一瞬で義人の背後に回る。
義人の背中を爪で切り裂く。
義人も振り返りざまに一撃見舞ってステンノの腹を浅く切る。
だがそれでは足りない。
ステンノの傷はみるみる塞がり、切断した足もすでに半分以上が生えてきて、また距離を取られている間に足首が作られている。
対して義人の傷は塞がるが、それは小さな傷で、深い傷は完治とまではいかない。
そこはやはり、化物本体のステンノと、化物の力を授かっているだけで本人も未だ化物になりかけの人間である義人との差だ。
オロチも不死性は持っているが、ステンノの不死性は神が与えた不死殺しの鎌ハルペーでも倒せなかったほど、今の義人ではどうしても負けてしまう。
「所詮はこの程度か、キサマがどれほどのバケモノかはシラヌが、脆弱な人間を依り代にしている事が仇とナッタナ、それに」
ステンノが突貫してくる。
義人はすかさずムラクモで迎撃、ステンノの再生した左腕を切断したが、ステンノはまるで最初から承知のように、左腕を捨てるようにして斬らせ、右手の爪を義人の胸板に抉りこませる。
「ぐあっ……」
義人が吐血し、空から落下した。
地上に無防備に叩きつけられ、義人は胸を抑えて苦しむ。
切断された腕を生やしながら、ステンノは右手に着いた血を嘗(な)めた。
「不死性は心臓を貫かれると減退する場合が多い、果たして貴様はその例に漏れるか見てやろう!!」
ステンノが連続して爪を振り乱し、地上の義人へ斬撃の雨が降り注ぐ。
エレオ達が悲鳴を上げる中、義人の体はみるみる生命力を失い、傷は再生するが今までよりも明らかにスピードが遅い。
「ヨシトくん!」
「目障りだ!」
ステンノが爪を振らずに手の平で空を叩く。
すると斬撃ではなく衝撃波そのもの放たれ、見えない手に叩きつぶされたようにレイラのバリアーが砕け、エレオ達が血を吐き倒れて伏す。
バリアー越しとはいえ、神話の怪物ゴルゴンの一撃を生身で受けては危険過ぎる。
召喚術を使っていない時の彼女達はただの年若い娘でしかないのだから。
「ハハハハハ! 脆いなニンゲン! 何が本物のバケモノの力を見せるだ!」
ステンノの斬撃を喰らいながら、義人は涙が出た。
「痛いか! 苦しいか! 自分の無力が悲しいか!? これがワタシに逆らった罰ダ!」
義人は自分の無力さではなく、自分の身勝手さに涙が出た。
(なぁ百合、俺ってどれだけ自分の身が可愛いんだろうな)
(…………)
(なぁ百合……高天ヶ原って住み心地いいかな?)
(何を言う、真犯人が目の前におるのだ、こやつを倒せば学園に残れるであろう)
(でもこのままじゃ倒せないだろ? あいつを倒すには一撃で全身消し飛ばさないと)
(…………覚悟はできておるのか?)
(ああ、エレオもチェリスも、みんな凄いイイ子だ、だから、俺あいつら守ってやりてぇ)
(わかったぞ義人……わしはいつもお主の心と共にある)
「ドウダ、これでワタシの力が……!?」
斬撃の嵐の中、義人が立ち上がり、ステンノの手と口が止まる。
全身から血を流し、心臓を貫かれ、それでなお立ち上がる義人は虚ろな目でエレオ達を見て、ゆっくりと歩み寄る。
「ごめんなエレオ、俺が腐ってたせいで」
言葉の意味が分からないようで、エレオは義人を見上げた。
「何言っているのヨシトくん……そんなこと、これはステンノが」
「違うんだ」
否定する。そう違う。エレオ達が苦しんでいるのはステンノが攻撃したからだが、そもそも、
「俺が手を抜いてなきゃ、みんなは苦しまずに済んだんだ」
「ヨシトくん?」
義人の目から大粒の涙が流れて、エレオの頬に落ちる。
泣いた。義人は顔をぐしゃぐしゃにして泣き続けた。
「ごめんみんな……俺が自分勝手だったから、俺がここにいたくて、みんなと離れたくなくて、それで……そのせいでみんなこんな目に…………」
義人は情けなくて、悲しくて、裂けた心臓がさらに裂けそうな程辛かった。
エレオ達は義人の言っている意味が解っていないのだろう。
不思議そうな顔で皆義人を見つめる。
「じゃあみんな……さよなら」
言って、義人はステンノへ向き直る。
「アレホドの攻撃を受けてマダ立てるとは、正直驚いているぞ」
「そうだな、じゃあもっと驚かせてやるよ」
「何?」
「俺の本気を見せてやるよ」
義人の言葉にステンノが大笑する。
「クハハハハッ、何を言い出すかと思えば、今まではホンキではな無かったと? なんという世迷言だ!
ならばその傷はなんだ? 心臓を貫かれ、全身を切り刻まれ、余力を残す必要がどこにある? それとも貴様はマゾか? この局面でまだ上の力があるなど馬鹿げているにも程があるわ!」
しかし義人は冷静に、あくまで静かに語る。
「見ろよステンノ、これが本物の」
次の瞬間、義人の言葉に灼熱の殺意がこもる。
「バケモノだ」
義人の霊力に天地が叫ぶ。
周囲の空間が歪む。
その過程でエレオ達の体が宙に浮かび、城の屋根まで運ばれた。
エレオ達の眼下で地上の全てが翡翠色の眩い光に満たされて、その光が世界を照らす。
その光のあまりの美しさに見惚れ、感嘆の声を漏らす間にも光はさらなる成長を遂げてついに城を越え、城の屋根に座るエレオ達の視界が翡翠色の光の壁に覆われて見上げても空すら見えない。
光から伝わる力の波動はあまりに大き過ぎて、逆に恐怖を感じない。
大き過ぎる音を耳が聞き取れないように、あまりに大き過ぎる力にエレオ達の魂は逆になんの反応もできない。
だが一つ言える。これは味方だと。これは義人だと。
そして神話が姿を現す。
エレオ達が息を飲み、ステンノすらその威容に目を奪われた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます