第11話 名誉のために多くを失った兵士A
「ジャ……ジャンにあげようと思って……な……」
みんなが首を傾げると、俺は勢いよく立ちあがる。
「ほほ、ほら! ジャンはこの前元服したろ!? 元服祝いだ! 達人は道具を選ばないけどジャンは達人じゃない! ジャンの生存率を高めるためには装備ぐらいいいもの持たないとな!」
「で、でも隊長! これ、ものすごく高いんじゃ、隊長の年収ぐらいの値段しましたよね?」
申し訳なさそうにかしこまるジャンの両肩につかみかかり、俺は勢いに任せた。
「馬鹿野郎! 部下の命には代えられないだろ! 金は稼げばいい! だが命は取り戻せないんだぞ! お前が死んだとき! 俺は一生後悔することになる! 大切な部下の命をのことを思えば! 俺の年収なんて毛ほども痛くないぜ!」
グッと親指を立てて、俺はウィンクをする。
どうだ? 誤魔化せたか?
いくらなんでも無理だったか? と俺は不安になる。
常識的に考えて、どれだけ部下想いだったとしても、年収をはたいて部下の装備を整える上官なんているはずがない。
こいつらが底抜けの馬鹿でかつ目が節穴だったとしても、欺けるはずがない。
ジャンが、
「隊長! 隊長はそこまでおれのことを! うおおおおおおおおおおおおおおお!」
号泣だった。ジャンは涙と鼻水を垂らしながらその場で叫んだ。
エリック、スタンが感動に打ち震えながら、
「隊長! 隊長の心は宇宙一イケメンだよ! さすがの僕も隊長には勝てないよ!」
「感動であります! 隊長のような上官のもとで働けて自分は幸せであります!」
トモエ、エリス、ルーチェが滝のような涙を拭いながら、
「日の本を出てはや十年! 隊長殿こそ真の主でござる! 拙者は果報者にござる!」
「あんた凄いじゃないレオン! さっすがあたしらの隊長様ね!」
「やや、やっぱり隊長はカッコイイです。ッ、じゃなくて、フッ、惚れ直してあげますよ」
エル、ジュリア、アリッサは満開の笑顔で(ひとりドス黒い)、
「レオン。うん、やっぱりレオンはレオンだよね」
「ふふ、レオンてば本当に部下想いだよねぇ」
「ククク、本当に最高よレオン。見ていて飽きないわ。これからもずっと一緒よ」
それから九人はみんなで俺のことを担ぎ上げ、胴上げがはじまった。
『たっいっちょ! たっいっちょ! たっいっちょ! たっいっちょ! たっいっちょ! たっいっちょ! たっいっちょ! たっいっちょ! たっいっちょ! たっいっちょ! たっいっちょ! たっいっちょ! たっいっちょ! たっいっちょ! たっいっちょ!』
惜しみなく送られる隊長コール。
湯水のごとく溢れだす隊長エール。
広がる青空はどこまで美しく、俺の胸のなかに広がる曇り空とは雲泥の差であった。
胸のなかに、しとしとと雨が降り出した。
ああ、俺のエクスカリバー(偽)……
◆
その日の夜。俺は独り、月明かりに照らされた自分の部屋のベッドで、枕を涙で濡らしていた。
「ぐすん……俺のエクスカリバー。クスン……まだ一度も使っていないのに……メソメソ……三年がかりでためた貯金が……全部流れちまった……」
わんわん泣きだしたい気持ちを噛み殺していると、ドアがノックされる。
こんなときに誰だろうと、俺は涙を拭ってから威厳を取り繕った。
部屋の鍵をあけると、エルがゆっくりとドアを開けて入ってきた。何故か枕を手にして、寝るときの装いでだ。
「どうしたんだエル?」
エルは昼間のように、おくゆかしい態度でおそるおそる俺の顔を見上げる。
「うん。あのねレオン。昼間はレオンああ言っていたけど、あの剣、本当は自分用に買ったんじゃない?」
「ヴぇ!?」
「それで、もしもそうなら、いまごろ泣いているんじゃないかなって……」
これが幼馴染の勘なのか。エルは的確に俺の心を読み、預言者並の力を欲しいがままにしていた。
「そそ、そんなわけないじゃないか」
「でもレオン、子供の頃から強がっちゃうでしょ? そんなこと言われても、ちょっと信用できないなぁ」
まただ。
エルはまた、あの強情さを発揮した。
強情なエルをどうやって納得させようか、そう俺が悩んでいると、エルは勝手に俺のベッドに座りこんだ。
「今夜は、いっしょに寝てあげるね」
ちょっといたずらっぽい笑みで、エルはそう告げた。
俺の胸がズキュンと高鳴る。
「わたしもね、兵士になったばかりの頃、いろいろ不安な日もあったんだ。でも、そんな日はジュリアとアリッサが同じベッドで寝てくれて、すっごく安心できたんだよ。だからほら、レオン」
幼女のように純真な笑顔を浮かべて、エルは俺を手招きしてくる。
いつもなら『馬鹿なことを言うな』とか言って追い返すのだが、あいにくといまの俺にはそんな元気がなかった。
悲しくて辛くて、なにかにすがりたい気持でいっぱいだった。
平気な顔をとりつくろっても、心のなかは宝物を失くした少年だった。
だから俺は、
「ま、まぁ俺は全然平気なんだけど、それでエルが納得するならいいや」
と強がりを言って、ベッドに入った。
エルと枕を並べて寝ると、幼い日を思い出す。
体を横にすると、目の前にエルの可愛らしい笑顔があった。
その笑顔を目にすると、ずぶ濡れの気持ちが少しずつ温まる感じがした。エルは、俺にとって可愛い暖炉だった。
「レオン。焦らなくてもだいじょうぶだよ」
エルの右手が伸びて、優しく俺の頬に触れた。
「レオンは、子供の頃から、ずっとわたしの勇者だから」
だから俺は言った。
「別に、俺は勇者に憧れてなんてないし」
エルはやわらかく目を細めた。
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人気になったら続きを書きたいです。
どうしても勇者になりたい 鏡銀鉢 @kagamiginpachi
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