第36話 鼠捕り
蛇の蒲焼きを食べて、お腹は膨れた。
ナツメが私用にと回してくれた一番大きなひと切れ(他の倍以上あった)に、串を持ってワイルドにかじりついたので、そこそこ満足感が得られている。
醤油ベースの甘辛い味付けは、繊細さよりも手軽に食べられる屋台を彷彿とさせるものだったけれど、これはこれで有りだ。
ひと口食べたイライジャが未知の味付けに、これは何だと騒ぎ始めたのを、「大人しくしないなら、食わせないぞ」と料理人の権限をフル活用して鎮圧するという一幕があったのをここに述べておこう。
「何か一つでも目新しい事を見つければそれを逐一解明しないと気が済まないなんて、研究者ってなんて面倒な生き物なの? 謎は謎のままでいいじゃないの」
「いや、今のお前のその台詞にはさすがに賛同し兼ねるぞ。謎は謎のままでいいとか、学者を全否定してるだろ。そんなだから、半年も歯磨き粉用の草を食うはめになるんだ。だいたい、俺もその研究者だって事を忘れているだろう?」
「だってナツメは研究者らしくないんだもの。独特の頭が良さそうな雰囲気が無いというか……」
「俺が馬鹿っぽいって言いたいのか?」
「そうじゃないけれど、何というか……そう! 全体的に子供っぽいのよね。お姉さんの私から見たら、貴方はまだまだお子様なのよ」
「一応言っておくが、俺はこれでも十九だからな。日本人はやたら幼く見られがちだが」
「嘘! 年上!?」
そんな何気無い会話から、衝撃の事実が判明しつつもボスエリアの手前、戦いやすそうな少し道幅が広がっているところまで戻る。
サイラスとイライジャ、それからクレアさんのあちらはあちらで、何か小難しい話で盛り上がっていたようだけれど、私にはさっぱり解らないのであちらに首を突っ込む事はしなかった。
一部洩れ聞こえた内容はサイラスが石を金に変える方法、クレアさんが不老不死の妙薬がどうとかだった気がする。
どちらも熱心にイライジャを質問攻めにしていたように見えたけれど、彼は早口で専門用語満載に答えていたのできっとサイラスとクレアさんもよく解らなかった事だろう。
「この辺りが戦闘にお誂え向きですわね」
「おお、ちょうど探していた薬草が群生しているではないか……」
イライジャが薬草を採取している傍らで、私たちはいつ魔物が現れても良いように迎撃体制を取る。
程無くして魔物はやってきた。
「キラーラット5体」
「ここへ来て団体さんね!」
「んじゃまあ、サクッと片付けるか」
ナツメのその言葉が、キラーラットの群れに向けられたものなのか、実演の約束に対するものなのかは判らない。
だけど、私はいつも通り突っ込むだけだ。
「いらっしゃいませ!」
タッと地面を蹴り、一気にキラーラットとの距離を詰めると、両手に形成させた武器で薙ぎ払う。
「ナツメ!」
「ライブラリ!」
初撃で洩れ無くキラーラットの視線と敵対意識を獲得した私は、次いで自慢の俊足を遺憾無く発揮した。
ぞろぞろと追い掛けてくるのを確認して、合図する。
私の走った軌道上に地面から生えるようにして突如出現した本棚にキラーラットは四方を囲まれ、内側に閉じ込められる。
「鼠捕り完了ー」
「驚いた……。今のは召還魔法なのか?」
「まあ、似たようなものだ。ただし呼び出せるのは本と本棚だけだ」
「私もそんなスキル、聞いた事がありませんわ」
イライジャ、クレアさん共に目を丸くしている。
「二人を連れて来る時、いったいどんな戦い方をしていたの?」
「いや、普通に本でぶっ叩いてたけど?」
「それを普通と呼ぶのは間違っていますわ」
初見っぽい二人の言動に思わずナツメに確認すれば、本当に初見だったらしい。
つまりは能力は殆んど使わず、ひたすらぶん殴っていたようだ。
本を武器にするのは間違っているというクレアさんの指摘は今更だった。
「いや、だって俺が頑張らなくても二人が魔物を瞬殺するから」
「クレアさんはともかくとして、イライジャまで強いと言うの?」
「強いというか、惨いというか……」
ここらの魔物なら瞬殺という言葉を聞いて、いったいどんな地獄絵図を魔物に見せつけてきたのかが気になる。
しかし、ナツメの口から語られるのはどうも煮え切らないものだった。
「だがこれだけでは、あの全身打撲は説明がつかぬな」
「ああ、悪い。そいつはこれだな」
私の疑問をよそに、イライジャは自己の探究心を優先させる。
先に片付けてしまおうとしたのか、ナツメはパチンと指を鳴らした。
クラッシュ・ラッシュだ。
あの時と同じように中の様子が見えるよう、同時に足元に本棚を出現させている。
本棚の内側ではやはり、本が全自動で乱舞していた。
魔法使いだけど、面倒なので殴ります! 紫月 朔彌 @SHIAN
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