第228話 嫌な空気
ジン達はその後特に何事もなくベータルへと帰還を果たした。
「なんつーか静かだな」
「だな」
ジンはネムの言葉に頷くと、以前の帝国との戦争時よりも静かな王都を馬車で走っていた。
「この国は戦争する度こんな空気になんのか?」
「いや、以前はもうちょっと活気があった筈だ」
イーサンがそう言うと、腕を組む。
「活気がないって言うより、緊張感が高まってる......嫌な空気だな」
ジンがそう補足すると、馬車が止まる。
護衛の兵士が、誰かと喋っているが、ジン達にその内容までは聞こえてこない。
「お迎えか」
「関所から連絡がいったんだろ」
恐らく兵士と話しているのは王都に入る時に通った関所で、ジン達が帰国したことを早馬で知った、ベータルの騎士だろう。
しばらく馬車で待機していると、馬車のドアがノックされる。
ネムがそれに返答する。
「どうした」
「ベータル国の騎士団の方がネム殿達とお話がしたいと」
「身元は」
「確認しました」
外にいるガオンが話に入ってこない所を見ると、危険はないだろうと、ネムの視線にジンが頷く。
ネムが大丈夫だと伝えるとドアが開き、一人の男が入ってくる。
「失礼します」
玄武の紋章が入った制服の男にジンはどこかで見た顔だなと思う。
自国の騎士で、ジンも一応は貴族端くれ、いくら貴族間のことに興味が無かろうと、顔を知っている人間はいくつか居る。
だが、そうではなく、直接話した事があるような気がしたのだ。
馬車に入って来た騎士は片膝をついて頭を下げる。
「此度は長旅、お疲れのところ申し訳ありません。私は玄武騎士団第二師団長を任されております。ヨードル・タッシュバーンです」
「ああ!受験の時の」
ジンはそう声をあげてヨードルを指差してしまったので、慌てて手を引っ込める。
「ははは、久しいな少年」
ヨードルも覚えていたようで、ジンの不敬とも取れる行動を笑いながら許す。
「すみません」
ジンは笑ってくれたヨードルに一応の謝罪を入れると、ヨードルは気さくに笑って許してくれる。
「構わんよ。君には以前良いものを見せてもらっているしな。っと、再会を懐かしむのはこの辺で本題に入ろう。長旅で申し訳ないが、身を清めた後すぐに陛下に謁見する流れになっている。よろしいでしょうか?」
ヨードルが確認を取ったのは、あくまで侯爵家のリナリーに対してだ。
リナリーは頷いてそれを了承する。
「ホイル王国のお客様も長旅の疲れもありましょうが、よろしくお願いします」
「わかりました」
ネムは自分にも礼儀を持って接してくれるヨードルに好感を覚えながらそう返すと、ヨードルは一礼する。
「ここからは私が王城までご案内と護衛をいたしましょう。あなた方には何人も指一本触れさせませんのでご安心ください」
「よろしくお願いします」
リナリーの言葉に頷くと、失礼します残してヨードルは馬車の外に出る。その後馬車は再び動き出すのだった。
ヨードルが出ていったあと、ノアがジンに質問する。
「先程の方とお知り合いなのですか?」
「ああ、知り合いってほどでもないが、俺が学園の武術試験を受けた時の試験官をしていたんだよ」
ジンがそう言うと、ノアの顔がイーサンに向く。
「俺は武術試験は顔パスだ」
「なるほど」
王立の学園ともなると受験者は中々膨大な数になる。そのため武家の貴族は最低限の強さがあると武術試験は免除される。
逆に言うと、武門の出は武術以外のところでクラス分けが決まるらしいと、以前ダーズリー家での使用人に聞いたことをノアは思い出す。だが、ここでノアが一つの疑問を抱く。
「イーサン様が顔パスであるのはわかるのですが、それで言えば救国に英雄と名高いジゲン・オオトリ様は戦さ場にて功績を残した歴とした武門と呼べるのでは?」
「あ〜それについてはうちのミスというか、手続きをギリギリまで忘れててな」
「なるほど」
「まぁ、それは置いておいていきなり謁見てのは、だいぶ性急じゃねーか?」
そう切り込んだのはネムだった。
「まぁ、たしかに」
「いくら戦争が目の前だって言っても、お前ら学生だろ?帰国したならもうちょいゆとりがあっていいと思うがな」
ネムの言っている事は、確かに常識で考えればその通りなのだが、ジンはポツリと自分の考えを呟いた。
「学生でも必要な可能性か」
ジンの一言に全員が黙る。
「......まさか、あり得るのか?」
「わからんが無くはないだろう」
「だけどよ、それが一般的だったのって俺たちの親より更に上くらいの時代だぞ?半世紀以上前って事だ」
「それは知ってる。けど、だとしたらこの王都の謎の緊張感にも多少納得がいく」
ジンとネムの会話にイーサンが入る。
「確かに、それなら陛下が待っているは、唯の学生の帰りではなく、ジンという学生の帰還という事か」
「俺だけってわけでも無いだろうが。もしそうならその面は大きか」
そこまで話した時リナリーが会話に入る。
「あの、いったいなんのお話でしょうか?」
ジンは三人の会話に置いてけぼりのリナリーとノアの頭を無言で撫でる。
「確証がないからな、今は聞かないでくれ。それにもし俺たちが言っている事が合っているなら後でわかるしな」
「......わかりました」
そこまで話したところで馬車が再び停車するのだった。
刀戦記 黒狐 善 @aaaiiioo0
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。刀戦記の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます