第4話
〜犯人視点〜
今回の計画を実行する途中で、何度も頭の中でしていた質問がある。何故犯罪を行うのか。俺は何度も頭の中でこう回答していた。『悪者扱いする奴らを葬るためにだ』と。
俺の父は会社で立派な立場にいた。会社で何かの実績を残し、4年かけてその立場を手にしたらしい。
俺も不自由なく暮らしていたし、両親も明るく暮らしていた。
だが、日常というのはどうしてなのかすぐに奪われる。それを奪われて初めて、何が幸せなのかを俺は理解した。美味しいものを食べるよりも、最高の思い出を作るよりも幸せな事。それは、いつも通りの明日が来ることである。
ある日、社長の甥っ子が会社に入社し、父の担当する部署に配属する事になった。甥は仕事を全くしない上に、問題ばかり起こす人間だったそうだ。そんな甥が会社の金を使って繁華街で遊んでいた事が発覚した。
甥は入社してそうそう去るのかと思っていた矢先、呼び出されたのは父だった。
社長は甥を一番に見ていて、その濡れ衣を着せられる役の貧乏くじを引かされたのが父だったそうだ。父は会社の金を使って遊び回ったと言われ、クビになった。
その日、父は会社で勤務しており、監視カメラ等の証拠を提示したが、願い叶わず罪は父のものになった。
その噂を真に受けた母は家を出ていき、俺はクラスで空気として扱われた。冤罪である。だが、真実なんてどうでも良いとみんなは言う。面白いネタさえあればと。
話して何が面白いのだろうか。俺にはよく分からない。
そして、こんなに良くない噂がまだ消えないのなら、いっそ悪い事でもしたいと考え始めたのだ。
これが、俺が犯罪を行う理由であり、動機である。まぁ、分かってもらいたい訳でも同情してもらいたい訳でもない。
ただ、俺が犯罪をする理由が欲しかっただけなのかもしれない。今日で開放されると考えると思い詰めていた事が無かったかのように肩が軽いのだ。
〜桜井紗夜視点〜
「彼は、笹本は、クラス全員からいないものとして扱っていました。なので、土木は無罪です。冤罪の人は釈放すべきです」
「残念ながらそうはいかないのさ少年。彼が放火をしていないのは分かったよ。うん、分かった。でもね、彼は人を殺しているんだ。その笹本と言う人間も巻き込まれているだろう」
「証拠はあるんですか?」
綿貫は俺の質問を想定していたのかと思う程、素早く証拠品である縄を提示してきた。
どうやら、これにはボルダリングで見たガタイのいい少年の血液が付着しており、更にその男とは違う指紋があり、土木の指紋と一致しているようだ。
彼は本当に人を殺したようだ。正直、かなり驚いている。
「では聞くが、君はその笹本とかいう少年がどう火を付けたのか、知っているのかね?」
「…………」
「君は土木くんの為に、放火犯ではないと話してくれたのかい?」
そうではない。これは被害者の親族の、そして俺の為に話したのである。当然そんな事は言えないけど。
「君は次にどうなるかという想像力が欠如している。この発言をしたらどう返ってくるとか、こう動いたらこう進展するとか。そういう想像力が欠如している」
ごもっともである。というか、さっき磯崎先生にも同じ事を言われた。そんなに能力不足が露呈しているのだろう。
「1度考えてから動いてみなさい。この人と付き合ったらどうなるか、この話をしたらどう返ってくるのか。応答はゆっくりでいい。考えなさい」
考える。そう、それで未来が暗くなる確率がうんと減るんじゃと心のなかで聞こえた。
〜綿貫視点〜
火が消え、捜査が可能な範囲にまでなった。現場に放火犯と思われる物のバックがあり、その中には使われた跡のある糸があった。
火の輪の中にいた先生生徒は全員命に別条はないらしく、桜井と磯崎は安堵の息を漏らしていた。
死人はいないが、逃走者がいなかった事から、一酸化炭素中毒で全員が倒れたという解答になった。桜井からティッシュを必ず貰うと聞いたため、それを大量に燃やしたのはないかという推論で話はついた。
土木の件は、彼らの宿泊部屋の少しずれたところにルミノール反応が検出されたそうで、5階から重りでもつけて、ガタイのいい少年を落として笹本の頭にヒットさせたのではないかという結論が出た。これで監視カメラに手ぶらで映っていた理由が解明された。
更に土木にこの推論をぶつけた所、正解だと言い、少し語り始めた。どうやら2人で供託してこの犯罪に望んだらしく、土木は最初から協力者を殺害するつもりだったらしい。
そしてガタイのいい少年を落とす前に、計画書の入った土木の鞄を落として、風向きを確認していたらしい。
何はともあれ全ては一件落着である。少し長かったキャンプファイヤー殺人事件も方がついた。
「あ〜あ。だからティッシュじゃない方がいいよって言ったのになぁ」
キャンプファイヤー殺人事件 神城 希弥 @kohasame
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