第3話

       〜綿貫視点〜



「土木 一歩です。私は二人の人間を殺しました。ガタイのいい少年と、外から帰ってきた少年です」

「どうして、殺そうと思ったんだい?」


 土木と名乗る少年は、後頭部に片手を添えて一息飲んで話し始める。


「私は具合が悪く、自室に籠もっていたのです。そしたら、突然森が燃え始めて。もしかしたら犯人が帰ってくるかもと思ったんです。それで、正義のために」

「なら、もう一人はどうして?」

「私の思いが口に漏れていたそうです。それを聞かれて、逃げる音がしたので、口封じに」


 火を付けたのはお前ではないのかと、ここで聞くのは警察3流である。発火の発生時刻と、監視カメラでその時間に彼が館内に映っていたら、放火犯かどうかは判明されるだろう。


「あ、あと私その2人を、炎上しているキャンプファイヤー場に放りました。殺人と死体遺棄ですから、結構重くなりますよね。勿論覚悟してます」


 彼との会話を終わらせ、セキュリティ室に向かう。放火推定時刻は20:00頃。他の客たちがその時間に『あれやべぇよ』と言っているのだから間違いないだろう。

 その15分後した頃に土木が部屋から出てきていたので、彼は放火犯ではな……いや、彼がその時刻、何をしていたのか分からない。なにか遠距離から火を付ける動きをしているのかもしれない。決めつけるのはまだ早い。もっと捜査が必要だ。



 監視カメラには、放火犯と思われる人物は映らなかった。土木は20:20頃に外出しているが、手ぶらであった。2人殺して燃やしたと言っていたが、果たしてどのようにして殺害したのだろうか。

 あと、ガタイのいい少年は口封じにと言っていたが、彼らが追いかけあっている姿は映っていない。ならば、画面の映らない場所が殺害現場。つまり、彼の寝泊まり部屋乃至は被害者の寝泊まり部屋という事だ。因みに、両方とも5階の二部屋隣である。


 では、放火犯はどのようにして殺害したのだろうか。そもそも放火犯の殺害は嘘で、放火犯としての邪心を殺したとかそういうのじゃないだろうな。

 土木に聞いても、顔は見てなかったのでとしらを切っていた。いや、本当に見ていないのかもしれないが、流石に気になりはするだろう。


 放火犯を守るためになのか。ならば殺したりするだろうか。保健部屋にいた少年は片時もベッドから離れず、保健の先生もずっとそこにいたと話しているため、事件とは無関係だろう。


 死体さえあれば。火はまだ消えないのだろうか。嫌な予感はするけど、祈らなければ進めない。とりあえず、生存者のこの2人は警察に届けなくては。



      〜桜井紗夜視点〜



 多分だけど、俺は希望の生還者なのだろう。知りもしないアレルギーで体調を崩した俺は、見事に助かったという訳だ。怪我の功名ってやつだな。


 土木が犯人だとカミングアウトしたわけだが、俺から言わせてもらえば、土木は火を付けてはいないだろう。冤罪だ。

 俺には犯人が分かる。ただ、証拠はない。ここで下手に名前をあげて、その親族に迷惑がかかってしまうのは申し訳ない。別に親族が悪い訳ではないし、育て方とかどうこう言っている方がよっぽど悪人だ。罪なき人を追い詰める行為は、殺人より最低な事だ。俺はそのホイッスルを鳴らしたくはないのだ。


 犯人が合ってるかどうか、自分で推理して自分で納得しよう。

 まず、犯人はキャンプファイヤー係であるため、一足先に放火の仕掛けを設置することが出来る。

 どうやってなのかは分からない。燃えてしまったから、多分警察の人にも解けないんじゃないかな。


 ときに、キャンプファイヤーで盛り上がる時、同時に火の威力が増したら、盛り上がっているのが心でも体でも感じないだろうか。

 俺は感じないが、そういうのが好きなやつには感じるのだと思う。

 そういう時、火の威力を足すものと言ったらなにか。そう、油である。水でも可能なんだろうが、変に当たって蒸発または消火なんてしたら盛り上がりはしないだろう。


 その油を森林の木々にかけて染み込ませれば、勢いよく燃える木が完成するだろう。そこに糸やらを気に巻きつけて火を引火させれば、森林を燃やして、逃走困難の火の輪になる。


「ねぇ、桜井くん」


 思考に集中していた時に、急に磯崎先生に声をかけられてビクつく。先生はあ、ごめんねと謝り聞きたいことを聞き始める。


「君、いつまでそれ抱えるつもり?」

「何の話ですか? 俺の手には何もないですよ」

「物理的にじゃなくて心理的にだよ。それ抱えたまま時を過ごすつもりなら辞めといたほうがいいよ。真実を知る必要があるべき人が納得しない以前に、その責任を背負って生きなきゃいけないんだよ?」


 私の言いたい事の意味わかる? と問われたが正直分からない。分からないから俺は首を傾げる。


「まぁ要するに、生存者の君に被害者の親たちが毎日質問してくるの。何があったの? 誰がやったのって。ちょっと面倒くさくない?」


 その発言に俺は瞳孔を開かざるを得なかった。

 俺は、加害者の親族の事だけ考えていた。俺のことや被害者の親族については何も考えずにいた。まだ未来を見る力が備わっていないからだ。やっぱり、まだ成長が足りていないのだろう。


 でも、俺は今の発言で意見を変えよう。被害者の親族の為に、そして何より自分の為に声をあげようではないか。

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