第6話

 話を終えると、ネイレは手元の紅茶を飲み干した。

「えっと……話は終わり?」

 アキが恐る恐る聞いた。

「待ちなさい。本題はここからよ」

 ネイレはぐっと身を乗り出した。

 どんな女優やモデルも及ばないような美貌が、二人の眼前にぐっと迫る。

「もし二人が私の立場だったら、このあとどうしたかしら?」

 あきらはアキと顔を見合わせた。

 もしも僕らがネイレの立場だったら?

 いったいどうしたか?

 しばらくしてアキが口を開いた。

「分からないけど、百合さんと別れ離れになったままなのは嫌だな」

 あきらも頷く。

「そうだね。それに美咲のことも、先生や親に言う前に、本人にはっきり注意するかな。もちろんそれで止めなかったら、すぐに大人に相談すると思うけど……」

 ネイレは微笑んだ。

 優しく、それでいて少しばかりせつない微笑み。あきらとアキが思わずハッとするほど美しく、寂しげな微笑みだった。

「いい答えね」

 ネイレはすっと立ち上がった。

「では、ぜひ和也君にも同じようにしてあげて」

 そう言い残すと、ネイレは去っていった。まるでそよ風のような軽やかさで。


 ネイレが立ち去ったあとも、二人はテーブルに残っていた。ソーダフロートのアイス部分は、すでにグズグズに溶けてしまっている。

「どう思う? ネイレの言ったこと」

 アキの問いに、あきらは首を傾げながら答える。

「多分、そうすべきなんだと思う……でも……」

「分かる。こっちは何にも悪いことしてないのにね。でもさ、多分、その……ネイレはそうしなかったんじゃないのかな。そして、私達にも同じ選択はしてほしくないんだと思う」

 ネイレの寂しげな微笑みを思い出し、あきらは胸の奥がちくりと痛むのを感じた。

「……うん、そうだね。それに」

 あきらはこくりと頷くと、ソーダの残りを一気に飲み干した。

「僕らもネイレの悲しむ顔は見たくない。でしょ?」

「そのとおり!」

 そう言ってアキがにっこりと笑い、あきらもつられて笑った。

 さてと、明日、和也の奴に何て話しかけよう?

 ネイレの寂しげな微笑みは、すでに二人の心の奥底にしまわれていた。

 

 

                   Fin

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

美しき名探偵と放課後のお茶会 白兎追 @underscary

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ