第7話 日曜日「ひなたぼっこ」

80歳になった親父がボケ始めた。

昔から話を盛る癖はあったが、最近話がどんどん大きくなってきている。

去年母さんが死んでから、その症状はひどくなる一方だ。

妻は元々同居にもあまり乗り気ではなかったし、介護に関しても消極的な考え方だ。

妻のプレッシャーが日に日に強くなってきたので、思い切って父さんに相談してみた。


「なあ父さん・・・相談があるんだけど・・・・」


「ん?なんだ?」


「うん、ライトもだいぶ大きくなって、ヒロコがそろそろ職場に復帰したいと言っているんだ」


「おお、そうか、ヒロコさんお仕事好きだったもんなぁ」


「それで・・・・」


「おお、いいぞ」


「え?」


「俺のことだろ?」


「え・・・・ああ・・・・」


「母さん死んでから話し相手もいなくなったしなぁ、ライトもじいちゃんと遊ぶよりも友達と遊びたいだろ。まあ、いつかは施設に・・・って俺も考えていたよ」


「・・・そうか・・・ごめん」


「謝ることはないよ、そんでな、これ」


そう言って親父は一枚のパンフレットを見せたくれた。


『如月ふれあいの里』


「ここな、ほら2丁目に井澤のじいさんも入ったんだよ、2週間前に。ちょっと離れた田舎にあるから金額もそんなに高くないらしいし、どうだろう?」


「そこまで考えていたくれたのか・・・親父。ありがとう・・・・」


その晩ヒロコに相談をした。


「そっか・・・お父さん・・そこまで考えていてくれたんだ・・」


「ああ、それで確かに都内の施設に比べてかなり格安なんだよ」


「ほんとね・・・でもちょっと遠いわよ・・・」


「うん、確かにそんなにしょっちゅう会いにはいけないとは思うけど、井澤のじいさんもいるって親父も言ってたし、親父の好意に甘えてもいいんじゃないかって」


「あなたがそう言うなら良いけど・・・・・」


俺はさっそく『如月ふれあいの里』に問い合わせをして入居の手続きを始めた。

価格が安いせいか人気の施設だったらしいが、ちょうど空きができて運良く親父は入居できることになった。


週末、ヒロコ、ライトと一緒に親父を『如月ふれあいの里』に送り届けることにした。

都内から2時間強、たしかに簡単に会い来れるような場所ではないようだった。


『如月ふれあいの里』名前やロゴから受けたイメージは、その辺にあるデイケアサービスとさほど変わらないと思っていたが、実際に行ってみると敷地の広さ施設の大きさ、綺麗さ、想像以上にしっかりした施設だった。


「すごい施設ね・・・いくら田舎だからってなんでこんなに安いのかしら・・・・」


ヒロコの言うことには同感だ。

確かにこの敷地、施設、設備でこの値段は破格だ・・・・・



手続きをして、施設内の説明を受けた。


「これで手続きは完了ですが、何かご質問あったりしますか?


「えーと・・・少し不躾な質問なんですが・・・・」


「なんですか?なんでも聞いてください」


「今日実際に来てみて、すごく良い場所だと感じましたし、職員の方も沢山いらっしゃるみたいですし、ご説明もすごく丁寧でわかりやすかったですし、お優しい感じも受けました」


「ありがとうございます」


「なんですが・・・・こんなに良い施設なのになんでこんなに安いのか・・・って、いや安いのは大変たすかるんですが、疑うわけじゃないんですが・・・逆に少し不安になってしまいまして・・・・」


「あなた!!」


「いえいえ、よく聞かれるんですよ笑。この施設には母体の団体があるんですが、その団体から毎年多額の寄付をいただいているんです。」


『母体の団体・・・・』パンフレットを確認してみた。

『一般財団法人如月研究所・・・・聞いたこともないな・・・』


「じゃあ、親父月一回くらいは来れるようにするから」


「いやいや、いいよ、気が向いた時で、寂しくなったらビデオチャット送るからさ」

「ライトまたな。勉強とサッカーがんばれよ!あーさっき教えてくれたゲーム暇な時一緒にやろうな」


「うん、じいちゃんも元気でね!」


親父は年にしては機械に強かった。さっきもライトに新しいオンラインゲームをインストールして遊んでいた。

親父はなんだか元気になったような気がした、施設に入れるのが申し訳なくなってくらいに・・・


「よかったわね・・・いや・・・悪い意味じゃないわよ・・・」


「うん、なんか家にいるより楽しそうだったな」





「ふう・・・行っちゃったなぁ、さてさて・・・井澤さんはどこかなぁ・・・」


源次郎は探索をかねて井澤のじいさんを探して館内を散歩した。

『ふれあいコーナー』とかかれた広場で数人の老人たちが将棋を指していた。


「お!!!いたいた!!井澤さん!!!」


「ん?佐村さんじゃないか!!!」


「井澤さんちのおすすめで俺もここに入れてもらったよ!!」


「おお、そうかーーー、みんな聞いてよ、この人佐村さん、俺の将棋の師匠!!」


「師匠だなんて、おはずかしい」


「いや、この人ほんと強いんだよ、前に一緒に将棋イベント行った時に、飛車角落ちのプロに勝っちゃったんだよ」


「へ〜大したもんだ、俺たちにも教えてくださいよ」


「いやいや、そんな大したことないですよ、でも私なんでよければいつでも指しますよ」


「いやぁ、うれしいなぁ、また佐村さんと一緒に将棋ができるなんて」


源次郎はひとしきり将棋を楽しみ、再び館内の探索することにした。


「じゃあ、井澤さん、またな、ちょっと色々みてまわってみるわ」


しばらく館内を歩いていると、大きな中庭が見えてきた。

数人の老人が散歩したり、ベンチで雑談をしていた。

その中の一人、車椅子に座り空を見上げている老人に目が奪われた。

源次郎はその老人に近づき。


「こんにちは、今日ここに入った佐村っていいます。何をしていたんですか?」


「ん?ああ、はじめまして。今日は天気がよいからねぇ、ひなたぼっこですよ」


源次郎より少し年上にみえた老人は、やさしく答えた。


源次郎はその老人の顔をしばらくずーーーとみつめていると。


「ん?どうかしましたか?」


「えーと・・・その虹彩・・・お仲間かなと思いまして・・・」


「おお・・・そうでしたか・・・おいくつですか?」


「80歳になりました」


「80歳で・・・・その虹彩・・・不知火ですかね?」


「はい、不知火弍型改です」


「ほー、弍型改!めずらしいですね」


「はい、隠密型に改良されたタイプです。そちらは?」


「如月です」


「へ〜如月!!すみませんがおいくつですか?」


「88です」


「え?確か如月にも年齢制限機能はついていたはずじゃ・・・」


「わたしね・・・試作型なんですよ」


「ほぇ〜めずらしい・・・ということは零式以前???」


「そうなんですよ、だから私はね、いつ死ぬかわからないんですよ。」


「そうですかぁ・・・私は後5年、後5年で時限装置が発動しますからねぇ、まあ、お金の計算もして5年くらいなら家族に迷惑がかからないとおもいましてねぇ」


「そうですか、そうですか?どうですか?ご子孫は」


「いやぁ・・・息子はなかなか優秀に育ったんですがねぇ・・・・嫁のDNAがイマイチよくなかったのか・・・孫がねぇ・・・」


「あはは、そうですか」


「えーと、お名前をお聞きしてませんでしたね・・・・」


「如月です」


「え?試作型で・・・如月・・・・・」


「そうです、私は如月博士が作ったはじめての人造人間です。私以降は型番には如月はついていますが、それぞれ名前を与えれてます、私は特別に如月の名前をもらいました。」


「そうですか・・・すごい人に出会ったしまったなぁ・・・・如月さんご家族は?」


「試作のわたしにはねぇ、生殖機能がないんですよ。」


「ぁぁ・・すみません、無神経に・・・・」


「いやいや、気にせんでください。ここにいるとたまにあなたみたいな仲間に会えるからさみしくはないんですよ」


「え?じゃあ・・・ここには他にも?」


「ええ・・・」



中庭で話している二人をみて職員が話をしていた。


「あら、佐村さんいきなり如月さんにつかまっちゃったみたいね」


「例の人造人間の話かしらね?」


「如月さんあの話なると長いですからねぇ・・・」



『如月ふれあいの里』の生活は快適だった。

井澤さんと将棋を指し、如月さんと中庭で昔話をし、ご飯もおいしいし、職員の方々も優しい人ばかりだった。

特に職員の『折原さん』はジジイどものアイドルだった。

『折原璃子』さん、若くて言葉通りアイドル並のルックス、少しクールなキャラだがたまに見せる笑顔がとってもキュートだった。



ある日、如月さんと中庭でひなたぼっこをしながら話をしていた。

「いやぁ、ウメちゃんもそうだったんですね」


「佐村さんと同じ不知火だよ。」


「あと・・・あのハーフのじいさんいるだろ」


「あ?高木さん?」


「そうそう、あの人めずらしいよ、親が不知火とスミス型だって」


「へ〜、そんなこともあるんですね〜」

「いやぁ、私ここに来れてよかったですよ。死ぬ前に秘密を話し合える仲間が沢山いて」


「あはは、まだ5年もあるじゃないですか」


「いやぁ、息子にも黙っていたんですよ、ある時ちょっと話をしたら『親父がボケた』っていいだしちゃってね〜」


「あはは、息子さんのバージョンアップはそんなに上手くいかなかったんですか?」


「いえ、AIはかなり進化したみたいなんですけど、運動機能のほうは上手く伝わらなかったみたいです・・・」


「そうですかぁ、相手のDNAとの相性の研究はだいぶ後から進歩しましたからねぇ・・・」


「まあ、平和な時代なんで、私たちみたいな能力がなくても幸せに暮らしていけますよ」


「ああ・・あと・・・」


「はい?」


「折原さん、璃子ちゃん。」


「あっはい、かわいいですよねぇ、孫がもう少し大きかったら嫁にほしいくらいですよ笑」


「あの子もそうだよ」


「え?」


「最新型だね。」


「へぇ〜、全然きづかなかった・・・・すごいなぁ・・・進化してるんですねぇ・・・・」


「はいはい、如月さん、佐村さん、そろそろ寒くなってきたから中にはいりましょ」

「また人造人間のお話?本にでもしてみたら?今流行りのラノベ?売れるかもしれませんよ笑」


職員さんに連れられ食堂に向かった。

今日はハンバーグか!夕食を食べたあと、ライトとオンラインゲームを消灯まで楽しんだ。



ある日の昼下がり、その日も天気が良かったので如月さんと中庭でひなたぼっこをしていた。


ガシャーーーーン!!!!きゃーーーーーーーー


何かが割れる音と女性の悲鳴が聞こえた。


「佐村さん!!!」


「はい!!!」


如月さんの車椅子を押して悲鳴が聞こえた『ふれあいコーナー』に向かった。

『ふれあいコーナー』に向かう途中に、ウメちゃんと高木さんと合流した。


「ウメちゃん、状況わかる?」


「館内IDデータがないおそらく30代男性の存在を確認!!」


「うーん、右手に刃物・・・あとは液体燃料・・・ガソリンの臭いを感知」

高木さんも続けて分析を始めた。


『ふれあいコーナー』につくと男が井澤さんに刃物を向けながら叫んでいた。



「おまえら、ジジイやババアがこうやってのうのうと生きてるから、俺たちは苦しい生活をおくなきゃいけねーんだよ」

「なんだよ年金ってよぉ!!お前らが作った、お前らの都合のよいシステムが、俺たちを苦しめてんだよ!」

「お前らの時代は終身雇用だ?ふざけんなよ。なんで俺たち仕事がねえんだよ、ふざけんなよ!!」

「お前らみたいな年寄りが少なくなれば世の中はすこし良くなるんだよ」


男はそう言うとガソリンをばら撒いた・・・


男がポケットからライターを出そうとしている時・・・・


如月さんが叫んだ。

「ウメちゃん!!妨害電波!監視カメラの機能を停止させて!!」


「はい!!」


「佐村さん!!煙幕!!!」


「はい!」


「高木さん人質の確保!」


「おう!!」


「璃子ちゃん、周りの人を避難させて!!」


「はい!!」


ウメちゃんがジャミングを行い監視カメラの機能を停止させた。

私は、口から煙幕を出し犯人の視界を眩ませた、高木さんがチョップで刃物を奪い井澤さんを救出。璃子ちゃんは近くの老人たちを避難をさせた。


そして・・・如月さんが車椅子から立ち上がり、ものすごいスピードで男に向かい、みぞおちに1発強烈なパンチをくらわせた。

男はその場でのたうちまわり、如月さんは男からライターを奪った・・・・・


しばらくして警察がきて男は逮捕された。



如月さん、ウメちゃん、高木さんと四人で中庭のベンチで話をしていた。


「大丈夫ですかね・・・・派手にやっちゃいましたけど・・・・」


「あはは、ボケ老人の戯言としか思われないよ」


「いや、でも職員の人も沢山いたし・・・・・」


「だいじょうぶですよ」

璃子ちゃんがお茶をもってきて、みんなに配りながら話しかけてくれた。



「なんでですか?」


「ここの名前は?」


「え?『如月ふれあいの里』ですよね?」


「はい」


如月さんが微笑んでいた。



そうか・・・・

ここは『如月ふれあいの里』

アインドロイドが最期を迎えることができる老人ホーム。

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アンドロイドのうたた寝 ヴァンター・スケンシー @vantar

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