西と東

JOY POP

第1話  西と東<改>

 ケースに掛かれた<西>、<東>何方を購入するかが悩みの種。

 私としては西なのだが、家族はそろって東の一択。

 カップ麺を買って夜食にする心算だったのが、何処に何をしに行くか聞き出された。

 非常食用にも成るので序でにとお使いを頼まれる。

 到着した地元のスーパー、此処でケースで購入予定。


 で、たまたま訪問した店舗で普段目にする事が無い<西>の文字が段ボールに書かれていた。


 たまたま何かのイベントらしく、普段では取り扱いが無い<西>の物が有る

 <東西味の食べ比べ>如何にも店の自作らしきポップには、其の文字が躍って居た。

 郷愁を誘い、つい手が出そうに為って仕舞う。

 何故なら私以外の家族は生粋の関東人、鰹出汁が当たり前。


 普通の家なら両方買って行けば良いのだろうが渡されたメモには。

 購入指定品が書かれている、他は要らないと但し書き迄記載されている。


「赤いきつね1ケース、緑のたぬき1ケース」と書き込まれている。

 当家ではライバル社の商品は全員却下採用が無い、皆の舌に逢わぬ様だ。

 余分な物を買って帰ると、書かれた物以外不要と罵声と怒号が襲って来る。


 まあ若かりし頃に色々在って今に至る訳なのだが、其れはしょうがない自分でやった仕舞ったツケだから、今は素直に従って置くのが賢明だ。


 ただ東シナ海や羊角湾を眺め食べたあの味は、西の文字でしか味わえぬ。

 小さな漁村の船着き場、其れを兼ねた堤防の上で昼飯代わりに喰って居た。


 一人暮らしを始めたばかりの頃だった、同じ商品なので迷わず手に取り、自宅に帰り湯を入れ5分待つ、ラベルを剥がして固まった。


 何なんだこの黒いつゆは?、香りも違う?、慌ててラベルを見直すが、商品名に間違いは無い!、何なんだ是は、恐る恐る口にしたが、最初は慣れず戸惑いを隠せなかった。


 今では、充分美味しく戴いて要る、勿論きつねもたぬきも美味しい。

 何方も関東に出て来て、流通している醤油に慣れた頃には好物に変わっている。


 でも、目の前の<西>の文字を見てしまったのが悪かった、何とか誤魔化す方法を考え、両方ともに<西>を購入して行こう、そう言う悪知恵を働かせていた。


『いやぁ~ソンナ物が有るんだね、知らなかった!』と切り抜けよう、決まったそうしよう。


 暫く怒られて居れば良いだけだから。車に積み込み走り出す、間も無く到着荷を下ろし、メモ通りの商品の検品確認終了す。


 翌日帰宅すると、其処は何時も通りとは行かなかった。

 <何よ是>と突き出される赤いきつね、異様に白いと怒って居る鬼が居た。


 例えればピンクの髪をした鬼の方だ、決して青髪の方ではない。

 其方なら如何に良かった事だろう。


 喰って見たかと尋ねたが、未だ口にはしてない様だった、俺の好物など喰えるかと。

 ただ、其れを見てしまったのがいけなかった。


 此処30年ほど見て居なかった物が其処に在る、内側から込み上げて来る物が有り、その場に留まる事が出来なく為って居た。


 その地には留まる者も居なくなり、とある理由で自分自身に枷をしてしまい、帰りたいが帰れない、そんな月日が流れ早30年、あっと言う間の月日だった。


 また自宅に入ると玄関にまだそれは置かれていた、既に麵は伸び随分吸って仕舞って居たのだが、そこに香る匂いは瞬時に時間をさかのぼり、未だ夢に憧れた無垢で穢れを知らぬ頃、そして懐かしくも悲しい景色が蘇る。


 冷めて仕舞って居たが一口目、口に含んだ出汁の味。

 其れは1300キロを越える距離、そして30年を超える時間が其処には無かった。


 自分を枷から解き放ち、かの地へ連れて行って呉れた様だった、何もかもが無かった事なら良かったのに、如何して人生はやり直せない一方通行なのだろうか。

 悔しかった、最初に選択を間違えて仕舞った為に乞う迄人生変わるとは、其れが悲しかった。


 一応、夢見た憧れの職場に入り希望通りの仕事もしたのだが、我がに起きた事の為に職場を去る事に為る、其れは希望を叶えた代わりに払う事と為ったツケなのかもしれない。


 吸って仕舞った麵をむ冷たく為っていた、だが其れはとても美味い物で在った。

 有難い今此処で俺は救われた気がしている、一時いっときでは有るが恋焦がれても叶わなかった、夢に見た帰郷を実現したかのようだった、たった一杯のカップ麺だが、私にとっては至福の時間と味だった、我慢し切れず湯を沸かす。


 次は<緑のたぬき>に手を伸ばす、段ボールを開封し一つ取り出す。

 涌いた湯を入れ3分待った<嗚呼、間違い無い此方も白い>香って来るのは昆布の香り。

 此方で食べ慣れたカツオの香りじゃない。甘い出汁の利いたつゆの味。

 <嗚呼、此方も間違いない故郷で食べたあの味だ>


 別の物で既にバレて居るから書いて仕舞うが、生まれは違うが育ったのは熊本、天草。


 当たり前に感じた海の香り、何時も見ていた綺麗な海と白浜、時間が有るとバイクで登り暗く為る迄見続けた、峠からの夕日を思い出していた。


 この小さな一杯が私の心を揺さぶり続けた。


 たまたま言われた買い出しに出て。

 たまたま立ち寄ったタイミングで。

 たまたま行われた店舗と東洋水産様のキャンペーン。

 偶然も此処迄ここまで重なると何かしらの意図を感じて仕舞う。


 私は誰かに呼ばれたのだろうか?、此の先何処迄どこまで行けるのか?。

 帰郷する事が叶うのか?。

 その時に自分を許せるか?。

 未だ判らぬが、折り返しをとうに過ぎて仕舞っている自分で在る。

 だが、夢見る事は誰にも咎められないと思う。


 これ自体、

 たまたま機会在って別の物を書いて居り。

 其処に募集が載って居り。

 たまたま別の物を書いて居て。

 たまたま地元だった処の当時を確認する為検索したのだが…。


 そこに地元を題材に書いて見ないかと募集が出て居りました。

 偶然にしては出来過ぎじゃないか?、そう思います。


 出来れば私の様に、ふるさとの味を懐かしむ者が居るやも知れません。


 どうぞ時々で構いませんのでまた。

 赤いきつねと緑のたぬきの東西の食べ比べ行って下さい。

 切に願って居〼。


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西と東 JOY POP @da71v

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