君を神と崇拝する悪魔は僕を狙う
薄情リア
第1話 ある夏の話
梅雨真っ盛り、人々はじめじめとした空気に嫌気がさして、夏服へと移行された制服を仰いだ。
窓の外は常に雨が降っている。
「夏休み明けに行われる文化発表会の出し物は、演劇に決まりました」
クラス委員長の言葉にクラスメイト全員が駄々をこねた。
俺の通う中学で毎年行われる文化発表会で、演劇を行うと決まったことがクラスメイトたちのじめじめとした心をひどく抑制してしまった。
「毎年、演劇か合唱って、飽きるだろ」
クラスでも中心にいる男子が声高らかに言い放った。
クラスの空気は一変し、演劇反対派が力をつけてしまった。
その状況を冷静に変えたのは、ある少女だった。
「演劇っていっても、普段と違う形でやってみたら飽きられることはないんじゃないかな」
多くの生徒たちが少女に意識を向けた。それは俺もおんなじだ。
委員長は、懇願するような表情を少女に向けた。
「例えば、今流行りのアニメを再現してみたりとか……ね?よくない」
先ほどまで意気揚々としていた男子は言葉を飲み、少女の圧力に負けたのか頷き、反対派だったとは思えない掌返しで演劇をやろうと言い始める。
その光景に俺はため息をついた。
俺に気が付いた少女は、俺にアイコンタクトをしてきた。
「みんなでやれば、なんでもできるよ」
たった一瞬、少女の言葉で演劇に決まり、クラスは一丸となった。
「なんであんなこと言ったんだよ」
雨が止んだばかりの屋上で俺と少女は向かい合っていた。
「演劇面白そうだなって」
「それだけか?」
少女の狙いはそんなことだろうか。
「まさか、そんなわけないじゃん」
やはり、この少女は変わっている。
「じゃあ、なんだよ」
「正解してほしいな」
「俺は質問してるんだ」
「うーん、そうだね……」
その時だった。屋上の扉が開いた。
俺は、隠れるように換気扇の傍でしゃがみ込んだ。
入ってきたのは演劇反対派の男子だった男子だ。
「やっぱりここにいたんだ!」
息を切らし、汗をかいている。明らかに走っていたに違いない。
「なにかあったの?」
男子は、少女の両肩を掴み、抱き寄せた。
「僕は君のためならなんでもできる。さっきは、ごめん、反対して、君の意見をまず聞くべきだった」
少女から抱きしめることはないが、男子は明らかに少女に対して好意を持っているようだった。
「じゃあ、私が言った通りにこれからは動いてくれる?」
始まってしまった。
俺は止めもせずじっと見つめる。
「私のためになんでもできるなら、私が言った通りにして、すこしでもできなかったら――」
この続きを知っている。
「なんでも言ってくれ」
俺は声に出さず、少女の言葉の続きを言った。
「死んで」
男子は、その言葉に頷いた。
ある夏の日、俺は少女の狂った日常を黙視していた。
君を神と崇拝する悪魔は僕を狙う 薄情リア @riotyan_
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