赤い放課後
土蛇 尚
寒いから
「先輩、僕もう帰りますよ」
夕陽がさす12月の校舎、外はとても綺麗なのに先輩はカーテンを閉め切ってキャンバスに向かい続けていた。綺麗な黒髪を結って室内なのにマフラーをしている。赤いマフラー。
「もうそんな時間?」
「はい、夕焼けが綺麗ですよ」
僕は黒いカーテンを少しめくって窓際に立つ。先輩はキャンバスから離れて僕の隣に立った。いい匂いがする。
「なんでカーテン閉めてるんですか」
「空間に入る光が時間と共に変わると描いてる時に困るもの」
僕はそんなものかと思う。絵の事はわからない。絵を描いてる時の先輩はどこか遠くに行ってしまいそうな雰囲気がある。僕はそれが嫌いじゃなかった。綺麗だから。
「美大受験大変そうですね」
二人しかいない放課後の美術室でカーテンの隙間から夕焼けを見る。
外を見下ろすと部活生が片付けをしていた。外から見たら黒いカーテンをしたこの美術室は目立つだろうなと思う。
「僕たちもそろそ…先輩!?」
黒いカーテンがバサッと揺らめいたと思ったら先輩は僕の頬に手を当てて来た。まだカーテンは揺れていて夕陽の赤がひらひらと差し込んでこんくる。
「それにカーテン開けてたらこんな事できないでしょ?」
「先輩…?」
もうカーテンは静止していた。外は見えない。この美術室だけ時間が静止しているように思えた。
先輩の手は細くて冷たかった。僕の頬に先輩の手についていた絵の具がつく。朱色の絵の具。
「っはは!」
先輩はパッと手を離して笑った。
「もう!からかわないで下さい!」
僕の抗議に聞き流して、また先輩は手を伸ばしてくる。避けれるのに避けれない。
「ごめんなさい。顔に絵の具つけちゃって」
「自分で拭けますよ」
僕は先輩のハンカチを受け取って絵の具を取る。
「どうせ君につけるのなら水彩じゃなくて油性にすればよかった」
「そういう事誰にだって言ってるんでしょ。その内刺されますよ。…ハンカチ洗って返しますね」
絵の具はとれたのに2人の頬は朱色に染まってる。寒いからかな。_
「帰りましょ」
「はい」
fin
赤い放課後 土蛇 尚 @tutihebi_nao
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