夢を叶えた者へ
きと
夢を叶えた者へ
今日は単にパーティが開かれたというだけではなく、
桜井は、プロの
プロとなったのはずいぶんと昔の話で、戦績も平凡なものだった。
だが先日、転機を迎える。
長い間、その座を守っていた棋士を破り、タイトルを
タイトルを獲得するのは、桜井の夢だった。
子供の頃から将棋をはじめ、テレビでタイトル戦を熱心に見ていた。
いつか自分も。
その想いは、年月を重ねるほど強くなっていき。
先日、ついにその願いを叶えることができた。
信じ続けて、諦めないで、夢を追い続けたことが、ようやく
桜井は、本当に幸せだった。
窓の外。暗闇を見つめる桜井に近づく二つの影があった。
「
「うわっ!?」
背後から
柳田もプロの棋士で、タイトルを獲得してはいないが、戦績も上々だ。
「……柳田。あんた、ただ酒を飲みたいだけじゃないでしょうね?」
声がした方に顔を向けると、セミロングの女性が呆れた様子で立っていた。
「かたいこと言うなよ、
柳田の言葉に、御影と呼ばれた女性はため息をつく。
御影もみじ。彼女は、棋士ではなく病院の事務として働く女性だ。桜井とは中学校時代の同級生で、今でも仲が良い。
「まぁ、今は柳田はどうでもいいか。善吉、おめでとう」
「ありがとう、もみじ」
素直に嬉しかったので、笑顔でお礼を言う桜井。
対して、御影は顔を赤くして目線を
「……どうした?」
「いや、どうしたじゃねーだろ」
柳田にツッコまれるが、桜井は何がなんだかさっぱり分かっていなかった。
桜井は、注意深く御影を観察してみることにした。
こちらを見ないで手で赤くなった顔を仰いでいた。
そして、桜井は気づいた。
「もみじ。お前……」
「にゃ、にゃに!?」
「……ポケットに入ってるのって、プレゼントか?」
周りの人たち全員がガクッと崩れ落ちる。
その様子に桜井は、首を傾げる。
「やれやれ。先読みはできるはずなのに、
その背後からの声に、桜井は振り返る。
「
「やぁ。お
先日、タイトルを懸けて戦った棋士――
「ふむ。
「……ですね」
「そんなに身構えなくてもいい。君に話しておきたいことがあってね」
冷たい夜風が吹き抜ける。
身構えなくてもいい、とは言うがどうしても背筋が伸びてしまう。
「まずは、タイトル獲得、おめでとう」
「ありがとうございます」
頭を下げる
「君は、タイトルを獲得するのは初めてだろう? だから、心に
そう言って
その月は、
「君は、子供の頃からタイトルを獲得することが夢だったと聞いている。その夢を叶えたのは、とても立派なことだ。でも、ここからがスタートだということは、分かるね?」
「はい」
その返事に、冬月は再び
「桜井君。タイトルを守るのは、大変なことだ。とてつもない重圧がある。でも、それをはねのけて全力を出さなくてはならない。そして、君には、夢を叶えたという責任もある」
「夢を叶えた、責任?」
桜井は、冬月の言葉の意味がくみ取れなかった。
疑問を感じている桜井に冬月は、まっすぐに瞳を見つめる。
「ああ。夢を叶えた、ということは――それだけ誰かの夢を破った、ということにもなるんだ」
「……っ!」
そうだ。
桜井は、冬月に挑むまでに何人ものライバルに勝ってきた。
その中には、桜井と同じようにタイトルを獲ることを夢見ていた人も。
これを機に、棋士を
桜井は、夢を叶えた。
だからこそ、頑張らなければならない。
「冬月さん。ありがとうございます。俺も誰かの夢になれるよう、努力を続けていきます」
「うむ。頑張りたまえ。将棋もそうだが、あのお
正直なところ、冬月が
だが、冬月の言葉は。
タイトルを守り続けて五年経った今でも、
夢を叶えた者へ きと @kito72
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