最終回 あの人の結婚式
『それでは誓いのキスを』
「……あなた」
「……圭子」
『橘フーズ』との1件から半年。
焼肉森本と『橘フーズ』は協力関係を築き、【NO9】のドラゴン狩りは共同で行われる事になった。
また【NO9】の30階層以降のドラゴン狩りは他の企業も可能となった。
だが、危険な場所という事で、こちらで審査したものだけが侵入可能という条件が設けられた。
その審査や受付に掛かる人件費等は他の企業に出資してもらう事となり、焼肉森本は『橘フーズ』以外の企業とも関係を築く事となった。
その結果、コラボ商品や焼肉森本からの派生店舗なんていう話し合いも行われている。
そんな環境が徐々に忙しくなる中、空いた時間を利用して焼肉森本で細江君と橘圭一こと圭子さんの結婚式が行われていた。
同性だから籍は入れられない。
それでも結婚式だけは執り行ってあげたいと思った俺達は焼肉森本で簡易ではあるものの結婚式の準備をし、この日までこぎつけたのだ。
「……素敵」
「細江君、あの1件の後冷静にいろいろ考えてたけど……。遠藤とか小鳥遊君とか上司達が揶揄うんじゃなくて真剣に相談に乗ってあげたのが良かったのかもしれないね。その、俺達も間見て……」
「今はお店が忙しいから無理しなくていい。でも、落ち着いたらいろいろ考えよ」
「そうだね」
俺と景さんは式こそ上げていないものの籍は入れて、正式に夫婦となっていた。
ちょっと2か月前からは同棲もしていて、仕事でもプライベートでも一緒。
ずっと一緒なのは窮屈に感じるかなとも思ったけど、10年間もどかしい思いをしていたからか、景さんは自分の時間を削って俺といる時間を増やそうとしてくれる。
景さんは家では甘やかされたいみたいで、俺もそれも嫌じゃない。むしろいつも姉三谷過保護な景さんに甘えられるのは嬉しい。
「よし! そんじゃこっからは飲むぞ! 食うぞ! この日の為にとびっきりの肉を用意したんだ! 参列者も細江と橘の社長も存分に食ってくれ! 今日は俺の驕りだ!」
「お父さん! それじゃあ普通の飲み会に……」
「いいんです。私達はこうした場を設けてもらっただけで本当に嬉しいんです。本当にありがとうございます」
「……圭子さん」
「ほら! 小鳥遊先輩も神様も遠藤さんも弟君も飲んだ飲んだ飲んだ!!」
「いいわよ直之! 今日は無礼講! みんな! 飲んだくれるわよ!!」
豪快な夫婦は俺達の元にあったコップに酒を注いで、自分達も酒をあおった。
へべれけになっちゃってこの後用意してたケーキ入刀が出来なくなるとか無いよな?
「ふふふふ、2人とも楽しそうで良かった」
「そうだね。仲も良さそうだし」
「でも私達の方が仲いいよね。宮下君、ううん。要君」
「もしかしてもう酔ったの?」
「……そうかも」
景さんはそっとその細い手を俺の手に絡ませた。
俺もそれに答えるようにギュッと手を握る。
「俺、店にも、景さんにももっと恩返し出来るようにがんば――」
「景……」
「え?」
「私の事景って呼んで。恩返しよりそっちの方が嬉しい」
「……景」
「うん」
そういって景は目を瞑ってこちらを向いた。
周りが立ち上がってどんちゃん騒ぎしてるからって言っても、ここで催促なんてやっぱり酔い過ぎじゃ――
「私、もう待たない」
「ん!? ……景」
「続きは家に帰ってから。ふふ、これからもよろしくお願いします」
景は自分から唇を軽く触れさせると、悪戯に笑って見せた。
「あーっ!! なぁにあなた達!? 今日は私達の結婚式なのよ! イチャイチャするんじゃないわよ!」
「神様がそうされているなら……一ノ瀬さん! 俺達も!」
「それなら私家に帰ってから小鳥遊さんの身体を触ったり舐めたりしたいです。ぐへ、ぐへ……」
「神様の奥さんって事は女神様と呼び方を変えた方がいいかも? 他のコボルトにもそういう風に伝達しないと……ってあいつら喋れないか」
「遠藤さん、もっと飲んでくださいよ!」
「細江、お前俺を酔いつぶす気か!?」
「あっはっはっ! ようやく孫の顔が見れそうだな」
……殆どの人に今の見られてたのかよ。うっわはっず。
「え、えっと、よろしくお願いしますってことで……。さ、ケーキ入刀やるぞ!! 小鳥遊君手伝って!」
俺は景にだけ返答すると、雑に話を逸らしたのだった。
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