最終話 二日酔いの後始末。お酒はほどほどに!


「──以上が昨夜の出来事だ」

「大変申し訳ございません……うえっ」


 王城にある客室。

 そのベッドの上でバケツと仲良くなっている私にジン王子が欠けた記憶について説明してくれた。

 実は私、この部屋でボトルを開けてからの記憶が一切残っていない。目が覚めたら突然の頭痛と吐き気という典型的な二日酔いに襲われたのだ。

 そして何故か半裸になっていた私の前に現れたのが目の下に隈のあるジン王子だった。


「暗殺の主犯は隣国だ。以前から国境近くの領地に不審な人物達が出入りしていると聞いていたが、とっくに買収されていたようだ。我が国を混乱させるために今回の計画を企てたのだろう」

「そうですか。あのシェリーという子は……」

「暗殺については知らされていなかった。ただ用意させた酒を俺に飲ませろと命令されていたようだ。マーベラスに近づいたのもそのためだ」


 すぐ処刑とはいかないが国外追放は確定だとジン王子は言う。


「マーベラスについてはどうなるのでしょうか」

「側近としての任務を果たせず、逆に仕える主人を危険な目に遭わせたのだ。騎士の道は絶たれ、公爵家から追い出される予定だ」

「そうですか」

「随分とそっけないな」

「あー、なんというか婚約破棄を言いつけられた時点で割り切ったといいますか他人になったというか」


 婚約破棄され悲しかったし悔しかった。

 冷めていた関係ではあったけど長年近くにいた人間の人生が終わってしまったのだ。

 もっと思うところはあるはずなのだが胸の中はスッキリとしていた。


「ボコボコにしたのでスカッとしたみたいです」

「まぁ、あれが一番アイツに効いただろうな」


 記憶には無いが、体が覚えている。

 私のこの手でマーベラスの伸びた鼻をへし折ってやった。

 うん。それでよしとしておこう。


「それで今後の君のことだが、」

「修道院にでも行こうと思います。家にはいられませんし、婚約破棄されて酒に酔った勢いで暴力を振るってパーティーを台無しにしたんです」


 兄夫婦にはこれ以上迷惑をかけられない。

 せっかくプレゼントしてくれたお酒でこんな騒ぎを起こしてしまった。

 これからは禁欲的な生活を送るために貴族の身分を捨てて修道院で静かに暮らそう。


「待ってくれ。実は君に勲章を与えたいという話が出ているんだ」

「はい?」


 ジン王子の口から出た言葉が理解出来なかった。


「君のおかげで俺の命は助かったし、裏切り者も判明した。側近についても改めて血縁ではなく忠誠と実力のある者を選ぶつもりだ。どれもこれも君のおかげなんだ」

「いや、でも私はお酒飲んで暴れただけで……」

「会場の皆が証人になってくれた。君は身を挺して俺を守った勇敢な人物だと……いう風にした」


 語尾が小さくなっていくジン王子。

 私を守るためにみんなを説得して回ったらしい。

 珍しく疲れた表情をしているのはその説得に時間がかかったせいなのかもしれない。


「君にはこのまま残っていてほしい」

「でも、私はマーベラスの婚約者ですらありませんし、王子が心配することは何も」

「あぁ。君はもうアイツのものじゃない。だから今言わせて欲しいことがある。……俺と婚約してくれないか」


 今度こそ私は完全に動きが止まった。

 ジン王子はそんな私を見ながら早口で話をする。


「マーベラスの横に立つ君に一目惚れだった。しかし君はアイツの婚約者でどうすることも出来なかった。早く自分の相手を決めなければとは思っていたが結局は後回しにしていた。俺は君を諦めきれなかった」

「えっと、でも前に落ち着いて一歩引いた振る舞いでつまらないって……」

「つまらないと言ったのはマーベラスだ。私はぐいぐいと来る女より君のような奥ゆかしい女性がタイプだ。……まぁ、男達を投げ飛ばした力強い姿にも心惹かれてしまったのだが……」


 それはつまり私の勘違いだったということか。

 王子の語る内容を聞いていくと、彼はマーベラスの無能さを嫌っていたが私の近くにいるためにはマーベラスを側近にしておくしかなかったとか。


「どうか考えてはくれないか」

「勿体ない提案ですがその、」


 この現場を見てくれ。

 顔色の悪い男女が二人きり。片方は汚物の入ったバケツを抱えている。

 おまけに私は王子の服に粗相をしてしまったらしいではないか。


「本当に私でよろしいので?」

「俺を汚した責任は取ってもらいたいな」


 普段はクールな表情の王子が珍しく笑った。

 初めて……いや、そういえば彼は私だけには直接酷い言葉を言わなかった。

 なんだ。私の求めていたものは案外近くに転がっていたんだ。


「まずは父上と母上に君を紹介したい。会食に参加してもらってもいいかな?」

「えぇ。ただ、お酒は無しでお願いします」

「そうかい? 君の飲みっぷりは凄かったけど」

「お酒が入ると何をしでかすかわからないので。せめて最初くらいはお淑やかなフリをさせてください」

「あぁ。わかったよ」




 しばらくの後、私は兄夫婦と一緒にお酒を二本選んで買った。

 一本は近いうちに飲む予定だが、もう一本を開けるのはずっと先のことになりそうだ。






















──あとがき──


最終話まで読んでいただきありがとうございました。

お酒はほどほどに楽しく飲みましょう!


お知らせですが第7回カクヨムコンに長編を投稿しています。


『絶対死ぬラスボス令嬢に転生しましたが、なにがなんでも生き延びてやりますわ!』


https://kakuyomu.jp/works/16816700429187954299


こちらも主人公である破茶滅茶な悪役令嬢が大暴れする作品になっています。

笑いあり涙あり恋愛要素あり。


まだ始めたばかりですので、ご興味ありましたら応援よろしくお願いします!




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婚約破棄された悪役令嬢はヤケ酒に逃げる 天笠すいとん @re_kapi-bara

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