第10話 [ごはん講座だニャア]
「お、おお……! おぉ〜〜っ! ここが、俺の部屋……ッ!?」
美紅のメイド仕事は一旦休憩し、これから自分の部屋になる場所へと入る。
そこは、前の部屋より少し大きいぐらいだが、机がある、ベッドもある! タンスもある!!
「ここは天国か……」
ベッドで寝るのも何年ぶりだろうか。気持ち良すぎて逆に眠れないかもしれない。
そして、机の上には大量の参考書や文房具などが乗っかっていた。あれで受験勉強をしろということだろう。
「う〜ん、暇だし早速あれ使って勉強するか!」
その後、昼過ぎあたりまで集中しすぎないように問題集にペンを走らせて勉強をした。
コンコンと美紅がノックをして昼を知らせてくれたので、部屋の外に出ることにした。
「蒼夜……間違えた。ご、ご主人様、お腹空いたんだけど」
メイド服は脱いでいなかった。脱ぐのが面倒になったのだろうか?
「あー、そんな時間か。あっ、じゃあ一緒に作るか」
「ゔっ」
「苦手でもやらないと。やらなきゃ上達しないぞ?」
「わかってるわよ! やってるわッ!!」
「その息だ」
キッチンまで移動し、早速料理を始めることにした。
作る昼ごはんはチャーハンにすることにした。なんせ冷蔵庫に具材は少ないし、お手軽に作れるのはそれぐらいかなと思ったからだ。
「はい、じゃあ俺が一から教えるぞ。まずはさっき炊いたご飯と卵、醤油、酒を用意してください」
「はい」
「……それ酒じゃなてみりんだ」
「じゃあこれ」
「それ油」
必要な具材を冷蔵庫やらから取り出して、キッチンに二人で立つ。
「まずはこのボウルにご飯と醤油、酒、割った卵を入れてくれ」
「ゔっ! ……卵ね」
美紅は卵を片手で持ち、それをしかめっ面で見つめていた。
そして、卵を掴んだ手をボウルの上まで持ってきて――握りつぶした。
「…………」
「……何よ、なんか言ってよ……」
「いや、うん……。うん……」
「なんか言いなさいよ!!」
「とりあえず殻をを取ろうか」
「……はい」
ボウルに入った卵の殻をチマチマと取った後、醤油と酒を入れて混ぜてもらった。
その間に俺はまな板と包丁、ネギとチャーシューを取り出しておいた。
「混ぜ終わったわよ!」
「よし、じゃあ次は(美紅にとって)最難関の包丁だ」
「むぅん……」
「そんなやりたくないような声を発するな」
まず俺が正しい包丁の持ち方を教えるべく、俺が持った。
「はい、包丁の持ち方はこうだ」
「はいっ」
「ん、これは問題なしだな」
包丁を美紅に持ってもらい、まな板の上に置いてあるネギを切ってもらうことにした。
「左手は猫だ。はい、ニャア」
両手を握り、顔の横に添えた。
「……あんた以外の男がやったら多分吐き気を催してたわよ。顔に救われたわね」
「猫メイドカフェというところで女装して働いた経験があってだな、あそこで散々やらされてたんだよ」
「うわっ、見てみたい。やりなさいよ」
「うん、やだ」
美紅は左手を猫の手にしてネギを押さえ、包丁でネギを切ろうとする。が、包丁がブルブルとバイブーレーションを始めた。
「み、美紅――ッ!?」
「き、禁断症状が!」
危険だと判断した俺は、美紅の後ろから包丁を握る手をギュッと掴んで震えを押さえた。
「へッ!?!?」
驚いた美紅は後ろに振り返るが、俺と美紅の鼻がコツンと当たる。
「なっ、なっ!?!?」
美紅の口はパクパク、目をぐるぐるさせ、顔はどんどんと薔薇色に染まってゆく。
「ほら、包丁の方に集中して」
「う、うん……」
俺がそう呟くと、息が美紅の耳に当たってしまった。耳はどんどん赤くなり、少しピクピクと動いていた。
「包丁は危ないから集中して慎重にな。ほい、こうやって左手に合わせて切ってゆくんだ」
「…………」
「美紅?」
「ふぇっ!? あ、あー、うん! 了解了解!」
シュババッという擬音を立てながら前を向き、空いている片手で自分のほおをペシッと叩いていた。そして、俺の補佐を続行しながら、ネギをゆっくりと切る。
「そうそう、ゆっくりで大丈夫だから」
「トン……トン……」
集中しすぎて擬音が口に出てるな……。
「左手の猫の手は忘れないようにな」
「トン……猫……トン……ニャア」
「ゑ?」
「ニャア……ニャア……」
……これは、言わないほうがいいな。
その後もゆっくりと切り進め、適当な具合で引き上げた。
美紅はぐったりとしており、これ以上料理させたら危ないことになりそうだから休憩してもらった。
「さてと、あとはちゃちゃっと俺が作りますか!」
出来上がったチャーハンは二人で美味しくいただきました。
薔薇姫様と呼ばれるツンケンお嬢様、家では俺のメイドです 海夏世もみじ(カエデウマ) @Fut1
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