花人を妻にした男
金色の麦畑
花人を妻にした男
高貴な人間の男がある日迷い込んだ森の奥で
数年後、妻の花人が彼女によく似た娘を生んだ。
娘は成長するにつれてますます妻にそっくりになる。
花人は成人すると不老になるため姿形は変わらなくなるが、子を成すと少し寿命が短くなるらしい。
花人と結ばれて
森の奥にある大樹の足元に建てられた家に住むのは花人とその家族。
今日も優しく美しい両親とその娘達が笑いながら楽しく暮らしている。
十数年後、成人していない三番目の娘は好奇心のおもむくままに幼い頃に母から聞いた森の境界線まで来ていた。
そこで見つけた血だらけで倒れている青年を介抱しようと慌てて境界線を越えてしまった。
境界線を越えた瞬間、自分の中の花人の部分が引き剥がされるような痛みを受けて娘は青年の横に倒れ込んでしまった。
三番目の娘が成人していれば問題なかったことだが、花人として成熟していなかった三番目の娘は母が境界線と呼んで張っていた結界を出てしまったために花人として生きることが出来なくなってしまった。
倒れている娘と青年を見つけた父親はため息をついた。
愛しい妻が生んだ大切な娘と自分によく似た青年。その青年の指に嵌まる指輪は自分の物と同じ紋章。青年は自分の身内であろう。
すっと脇に現れた妻が楽しそうに言った。
「この子は彼に預けましょう」
その手のひらには娘の気配がする光がふわふわと浮かんでいる。
娘の花人の力を纏めたものらしい。
花人の力を失ったことで娘は記憶も失っていることだろう。
妻は青年の傷を癒やし、地面にうつ伏せて倒れている娘の頭を優しく撫でる。
そして手のひらに浮かべていた光をそっと握りしめて小さな石にすると娘の左耳に付けた。
「ここから去るのであればお守りは必要ですものね。さぁ、そろそろ彼が目を覚まします。この子のことは彼に任せて私達は帰りましょう」
ニコリと妻の美しい顔を向けられた男は頷くと妻の手を引いて境界線の奥の森へと足を向けた。
娘の幸せを願いながら。
花人を妻にした男 金色の麦畑 @CHOROMATSU
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