第5話 アフタートーク

 城ケ崎はあの事件を終えた後、上から謹慎処分を言い渡された。が、自ら辞めることはしなかった。それは自身の手で見つけ、育て、終わらせた彼らへの贖罪の意を含めたものだった。 

 その後、トップガンは解散した。解散せざるをえなかった。あの夜刺された真山はそのまま息を引き取った。武田は責任を取り芸人をやめた。犯人が居なくなり事件の真相は闇に葬られた。真山は自身の罪を告白したが実際に証拠が出ることはなかった。


 城ケ崎はカフェで後輩の仕事の相談を受けていた。今は当時持っていたすべての仕事を外され雑用係として働いている。が、未だにその目利きやアイディアは衰えを知らないため後輩たちから相談を受ける日々となっている。

 後輩からの相談が終わると後輩はトイレに行った。城ケ崎は窓の外を見ながら煙草を吸い込み、吐いた。


「相変わらずすごい量吸っているんですね」


急に後ろのボックス席から声がした。聞き覚えのある声だ。思わず城ケ崎は後ろの席をのぞき込む。そこには帽子を深く被り髭を伸ばした武田がいた。


「武田・・・。久しぶりだな」

「お久しぶりです城ケ崎さん。元気でしたか?」

「まあ、見ての通り雑用しながら後輩の相談役ってところだな。お前は何やってるんだ?」

「まあ、いろいろやりながらなんとか生活してます」

「そうか・・・。」


一瞬の沈黙が流れた後、武田が口を開く。


「あの夜、最初のメール送ったの城ケ崎さんでしょ」


城ケ崎は答えることができなかった。


「俺ずっと考えてたんですよ。あんな縦読みでのメッセージなんて城ケ崎さんなら気づくはず。わざと読ませたでしょ。・・・なんで僕が殺したと思ってたんですか?」

「疑ってすまなかった・・・」

「まあいいんですよ。あの日結果的に真山が死んで安富さんが捕まったでしょ?あれほんとに真山がやったと思ってますか?」

「いや、俺にはわからない」

「あれね、僕がやったんですよほんとは。僕のトークゾーンで話したことはほとんど本当です。でもね少しだけ嘘と言ってない事があるんですよ。まず、あの日新山に真山を楽屋に呼んでもらった。で、真山が部屋に入った時彼女に気を失った振りをしてもらってたんです。そしたら真山が彼女を殺したわけです」

「どういうことだ?」

「俺はね、真山が新山と付き合ってたのを知ってたんですよ。で、真山が彼女をだんだんうざく思っていたのも知っていた。だって彼女に束縛するようにアドバイスしたの俺ですし。そしたら案の定思っていた結末になりました」

「なぜ殺す必要があったんだ?」

「なぜって・・・。僕は真山の奥さんに頼まれたんです。彼女は俺と真山の同級生で、俺の幼馴染だったから。真山よりもずっと長いこと一緒にいます。そんな彼女が俺に相談してきたんです。『真山が浮気している』って泣きながらね。だからこの方法を思いつき実行しました」


城ケ崎は頭が真っ白になった。真山の奥さんが同級生?幼馴染?だから殺した?


「まあ、真相はそんなところです。城ケ崎さんには感謝しています。俺らを見つけてスターにしてくれたこと。おかげでたくさんのお金を稼げましたしたくさん楽しい体験もできました。それに、邪魔な人たちを消す手伝いをしてくれた。本当に感謝しかないです」


そう言うと武田は席を立ちあがった。


「じゃあ、またどこかで会えれば」


城ケ崎は武田の背中を目で追うことしかできなかった。


「城ケ崎さん?どうしたんですか?」

トイレからちょうど戻った後輩から声を掛けられ城ケ崎は我に返る。

「あ、ああ。なんでもない。仕事に戻ろうか」



今日も誰かがラジオブースで軽快なトークを繰り広げる。

その声やトークは聴くものを魅了しているだろうか。

その後、城ケ崎はラジオに復帰した。

あの過ちを反省し、次の新たなスターを探すために。


今日もラジオは流れている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ラジオブース 矢口ウルエ @yaguchi-urue

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ