第4話 エンディング

 外はサイレンの音が鳴り響く。

放送は真山がトークを終えたところで打ち切った。

全ては城ケ崎の判断だ。

城ケ崎は煙草を深く吸い込み、吸うより長く煙を吐いた。

先ほどの光景がフラッシュバックする。


 真山のトークが終わったところで城ケ崎は放送を止めた。

違う、これは俺の計画とは違う。

城ケ崎はそう考えていた。


 放送を止めた後、サイレンの音が鳴り響く。

ブースの中を見ると、目を真っ赤にする武田とすがすがしい顔の真山の姿が見える。


「武田さん、今までありがとうございました。おかげで楽しい芸能生活でした」


 そう言い残すと真山は席を立った。

扉に手を掛けた時、ブースからかすかに声が聞こえる。


「・・・てよ。ちょっと待てよ」

「武田さん、もう終わりなんでっ・・・」


 真山を引き留めたのは武田ではなかった。

それは放送作家の安富の声だった。

そして安富の手にはどこからか取り出したサバイバルナイフが握られていた。

真っ赤になったそのナイフは真山の背中に深く突き刺さっていた。

安富は一度ナイフを抜くと、もう一度背中に向けて突き刺した。


 響き渡るADの声、血で染まる真山の服、突入する警察の音、呆然と立ち尽くす武田の姿。


 全てが城ケ崎の考えていた計画とは違った。


 新人女優の新山が亡くなった時、彼女が事故死ではなく殺されたということは知っていた。正確にはそんな気がしていた。だが、犯人がトップガンの武田だと思っていた。新山が亡くなったとされる日、彼女の楽屋から武田が出てくるのを見ていた。そのスタジオはこのラジオと同じ放送局で城ケ崎は用があったためそこに居合わせたのだ。その後、彼女が楽屋で亡くなっていたという話を聞いた。本来であれば楽屋前にある監視カメラで犯人を特定できるはずだった。が、その日たまたま監視カメラが壊れていた。当時の警察の判断では他殺か事故死かの2つだった。しかし、死因も頭部の強打ということや、局内で殺人があると困るため、テレビ局は事故死という報道をした。最初何も言わず彼らを守ろうと城ケ崎は決めていた。「トップガン」を見つけたのは自分だという自負があった。おまけに彼らは今や見ない日はないほどに人気者だ。事故死として処理され、彼らに変化は見られない。「このままそっとしておこう。彼らが天下を取る日まで墓までもっていく」そう決めていた。

 

 しかし、事態が急転していったのは最近の事。このラジオのメンバーの放送作家である安富と話している時だった。


「城ケ崎さんに相談したいことがあるんです」

「お前が相談なんて珍しいな。どうした?」

「あの、少し前にこの局のテレビスタジオで事故死した新山って覚えてます?」

「あ、ああ。たしか、トップガンとレギュラーが決まって直後に亡くなった子だよな」

「そうです。あの子の事を話す番組を作りたいんです。特番でもなんでもいいんで」

「それはなかなか難しいかもな。なんせ社内でもあまり触れたくないみたいだからな」

「それでも・・・。何とかして放送したいんです。あの子を誰も忘れないように・・・」


城ケ崎は安富の話し方が気になった。普段はここまで歯切れ悪く話すことはない。


「なんでそこまで放送したいんだ」

「これは誰にも言っていないんですが・・・。新山は・・・。僕の娘なんです」


城ケ崎は衝撃を受けた。新山が・・・。安富の娘?


「僕が離婚しているのは城ケ崎さんも知っているとは思うんですけど、前の奥さんの方の旧姓が新山なんです」


 城ケ崎は目の前の安富に自身が知っていること、自身が考えていることを話そうか迷った。が、あくまでも予測であり確証がない話はできない。そう考えて安富には話さなかった。

 だが、事態がさらに変わったのがその話を聞いた数日後だった。最近どうも武田の調子が悪いらしい。聞くところによると眠ることができず、睡眠薬に頼っている日々とのことだ。普段は人見知りの性格から周囲にばれることはないがデビュー前から知っている城ケ崎には武田の調子が悪いことは一目瞭然だった。

 この事がきっかけで城ケ崎はある案が浮かんだ。もし仮に武田が新山を殺した犯人であれば、罪を告白させて彼をこの罪悪感で眠れない日々から救う。それが唯一できる手助けだと考えた。その舞台は、トップガン、安富、そしてプロデューサーである城ケ崎が集まるラジオ番組しかないと考えたのだ。武田はいつもお笑いの事を考え同じくらいファンを大事にしている。そのファンに自分の口から発表させることが彼を救うことになると考えた。そして、300回記念放送に実行することを安富と決めたのだ。

 最初は作戦の通りだった。オープニングトークの後にメールを差し込む。そのメールを読むことで武田に罪を告白させる。その方法はラジオネームと文章の頭文字によるメッセージだった。彼が新山を殺していなければそこまで意識することはない。だが、仮にやっているとすれば意識が勝手にそこに向くはずだ。この方法は城ケ崎と安富の考えた賭けというよりか確認に近かった。何もなければそのまま放送が続くはずだった。


何もなければ・・・。


 武田が話を終えたところで本来であれば放送を止めるはずだった。

が、その後の真山が「しゃべらせてくれ」と言ったところで城ケ崎はこの二人の、見つけだした「トップガン」というスターの最後を見届けることにした。


 だが、予想した結果とは180°違うエンディングが待っていた。

真山の告白、安富の行動。すべてが思い描いていたものとは違った。




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