第3話 奇跡

「姫、本当によろしいのですか?」


 月にある病院にて美月みつき、美月の母や御側付き、医者などで、ある話し合いが行われていた。


 その話し合いの内容は、美月の病気についてだ。眞都まなとと出会った時辺りでは、美月の余命は約二年と申告されていて、ちょうどあの時から二年になりそうなのだ。


 そこで、ずっとその病気の治す方法について、月で研究され続けた末、ようやく治す方法が見つかった。しかし成功率は10%未満と如何にも低いため、こうして話し合いが行われているのである。


「何度も言ってるでしょう。お願いしますと」


「ですが、手術の成功率は10%未満です。慎重にお決めになった方が……」


「私は今まで、二回ほど地球に行きました。そこでまた会いたいと思える人が出来てしまったのです。もう会えないなんて……絶対に嫌だ」


 話し合いの場に居た全員が美月に注目していた。

 美月は月の姫でありながら、二回しか行っていない地球にいる男の子に恋をしているかもしれない。

 この事実は、話し合いの場にいる全員が腑に落ちなかったのだ。

 そしてずっと黙っていた美月の母が、最後になって口を開いた。


「あなたの気持ちは十分に伝わりました。これが最後です。成功率は10%。助からなければ、あなたがまた会いたいと言っていた方とはもう会えません。それでもよろしいのですか?」


「はい、お母様。私はこの手術を乗り越えてまた地球に行きたい。まだ私はあの人に何も伝えられてないんです!」


「分かりました。今の話を聞きましたね? 早速手術の準備を。助からなかったら、ただでは済みませんよ」


 話し合いの場にいた医者たちは美月の母に敬礼をし、手術の準備を始めに手術室へと向かった――



※※※



 今日は二〇二二年九月十日。美月と初めて出逢ったあの日から、二年が経った十五夜の日である。


「もうあれから二年も経つのか。早いな」


 こんな独り言を呟きながら、学校から帰宅していた俺は、ずっと落ち着いていられなかった。

 美月はどうなったのか。

 この一つの疑問で頭はいっぱいだったのだ。


「まあ、会えば何もかも解決するか」


 一年前の美月の言葉を信じて、俺は勝手に自己解決した。



「眞都、なんか今日は浮かない顔をしてるな。何かあったのか?」


「父さん……大丈夫。なんでもないよ」


「そうか、ならいいんだが」


 家に着くと、父がちょうど家を出ようとしているところだった。

 どこに行くのかはわからないが、格好的に神社だろう。

 俺も早く準備をして、神社に向かおう。


 そして父と別れ、いつも通り神社裏の物置小屋から箒を取って参道へと向かった。

 最近は参道の掃除に慣れてきて、掃除の効率も前より格段に良くなっているため、四十分もすれば一通り終わるだろう。



「……なんとか終わったな」


 現在時刻十七時。今日は下校前に特に意味もない集会をさせられて、いつもよりも帰りが遅くなってしまった。

 そのせいか掃除をするスピードが速くても、いつもと終わる時間が大して変わらない。


「美月……今日も会えるって信じてるからな」


 俺は風を感じながら、心の中でそう呟いた。

 美月はまだ死なない、きっとまた会えると信じて。


「眞都さん、随分男前になりましたね」


 後ろから聞き覚えのある女の声がした。

 後ろに振り向くと、そこには綺麗な瑠璃色の目、今にでも地面につきそうな長い黒髪、月のように肌が白く、すらっとした体型の文句の付けようがない綺麗な女の子が立っていた。

 こんな奇跡があっていいのだろうか。


「み、美月か……? 体は、大丈夫なのか……?」


「私はもう大丈夫です。眞都さんの‴あの‴言葉のおかげで、なんとか病気をやっつけました!」


 美月は笑いながらそう答えた。

 俺を安心させるために嘘をついているかもしれないと思ったが、美月の今の笑っている顔は、今まで見たことがないくらい良い笑顔をしていたため、本当のことなのだろう。


「良かった……! 本当に良かった……!」


 衝撃の事実に、俺は思わず泣いてしまった。

 他人のことで泣いたのは初めてだ。それほどまでに俺は美月のことが大好きだったのか。


「なんで、眞都さんが泣いているんですか」


 美月は嬉しそうに笑いながら、俺の頭を撫でた。


「心配をかけてごめんなさい。でももう大丈夫です。私は死んだりしませんよ」


「ああ、ありがとう……」


 美月が俺の頭を撫で続けて十分が経過した。

 俺は落ち着きを取り戻し、美月は相変わらず綺麗な満月を見ていた。


「美月、俺はお前のことが大好きだ。これからも十五夜の日、一緒にいたい」


「……私も眞都さんのことが大好きになってしまいました。手術が行われる前、私は眞都さんに言われたことを思い出していました。あの言葉のおかげで

私は手術を乗り越えられたんだと思います。本当にありがとうございました」


 美月の急な告白に、俺はしばらく呆然としていた。

 俺からは何度も好きだと告白していたが、美月からは初めてだったのだ。


「み、美月……俺のこと好きだったのか……?」


 俺がそう聞いた瞬間、美月の顔は急に赤くなった。


「改めて言わないでください! 恥ずかしいじゃないですか!」


「す、すいません!」


「……もういいです。やっぱり眞都さんなんて嫌いです」


「え、待って! 本当にごめんって。俺が悪かったから!」


「じゃあ、私の好きなところを言ってみてください! 私が納得出来たら許してあげます」


 なんて無茶振りをするんだ、このお姫様は。

 いくら何でも急すぎて恥ずかしい。


「か、可愛いところ……?」


「それだけなんですか!? 流石に酷いですね」


「仕方がないだろ。急に言われても、恥ずかしくて言えるわけがない」


「眞都さんは男の子ですよね? こういう時くらい勇気を出したらどうですか!」


 えー、そんなことを言われてもなぁ。


「じゃ、じゃあ美月は俺のどこが好きなんだ?」


「ええ!?」


 美月は予想外だったのか、驚きを見せた。

 そして少し考えた後、美月の口が開く。


「……私にも分かりません。いつの間にか好きになっていたんです。やっぱり、好きに理由なんていらないと思うんですよね!」


 ずるい、ずるすぎる。

 俺に恥ずかしいことを言わせておきながら、美月は逃げやがった。


 まあ、いいか。

 このような会話が今日で最後なわけでもない。また美月と、こうして会えるだけで嬉しい。


「美月、来年の十五夜も、再来年の十五夜も、これからずっとまたこうして会えるか?」


「はい、会えます。いえ、必ず会いに来ます」


 俺と美月は、目と目を合わせ笑い合う。


『キミに出逢えて本当に良かった……!』

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十五夜の日、キミと出逢う 〜また逢う日まで〜 橘奏多 @kanata151015

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