マルちゃん家族③ 大晦日、新しい空気
最時
年越しそば
大晦日、テレビを見ながらごちそうを食べて一段落。ほろ酔いで自室のこたつに入り、動画を眺めていると23時をまわっていた。リビングへ行くと父、姉がまったりとテレビを眺めていて、そこに入った。すると母がキッチンから緑のたぬきをお盆に四つのせて来た。
「ちょうど良かった。今呼ぼうと思っていたところ」
と母。
「そういう感はいいのよねえ」
嫌みを込めて姉が言った。毎年のことなのでこのタイミングは心得ている。
今年も四人で緑のたぬきをすする。
たまには別のそばを食べたいと思ったときもあったがウチではいつもこれで、これがいいんだと思う。
「除夜の鐘」
姉がそう言ってテレビの音を消して窓を開けた。冷たく締まった新しい空気が流れ込み部屋に満ち、入れ替わり、身体に纏う。普段あまり飲まないお酒でぼやけた意識が覚醒した。鐘の音が新しい空気を伝い届く。浄化されるような、新鮮な気持ちだ。
そばをすすっていると姉が
「ウチはいいわねえ。今年もありがとうございます」
「どういたしまして」
と母。父は手を上げた。
「珍しい。何かあった?」
と日頃の仕返しに茶化してみた。
「いろいろあったのよ。だけど明けない夜も止まない雨もないから・・・」
姉はしみじみとしている。子どもの頃は何でも簡単にこなしているように見えた姉も都会で社会人となり、大変なこともあるようだ。当たり前か。
「あんたはウチでいいよねえ。明日から山奥で一人暮らししなさい!」
「何でそうなるの」
「ありがたみがわかってないのよっ」
少し怒らせてしまったようだ。
「帰ってきてもいいぞ」
「ここで休ませてもらえば大丈夫だから」
父の心配そうな言葉に姉は力強く応えた。強いなと。頑張ろうと思った。
「何にせよ今年も家族そろって年を越せて良かったわ。ありがとう」
と母が頭を下げ、父もうなずく。少し恥ずかしくなった。
本当にウチがありがたいことで、こうして四人無事に年を越せる事が幸せなんだと感じた。
そばを食べ終え、窓を閉めて、再びテレビが賑やかになる。
「3,2,1明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとうございます」
それぞれが常套句を述べた。しかしそれはみんな違って聞こえた。新しい一年が始まる。今年は何ができるかなと。
自室にもどって布団へと入る。初夢見れるかな? なんて考えてみた。幸せなことだなと。明日のことを考えているうちに夢へと向かった。
マルちゃん家族③ 大晦日、新しい空気 最時 @ryggdrasil
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます