重い想い思い出

@saku0502

第1話

初めて彼氏が出来ました。

私は、表立って発言することも目立つような特技がある訳でもなく、容姿も平均以下です。

そんな私に、付き合って欲しいと言ってきたおかしな男がいました。

それが、私の初めての恋人です。

私も彼も14歳で、お付き合いを始めたからといってなにか特別なことをしたわけではありませんでした。

デートも数える程しか行かなかったと記憶しています。

ただ、1つ強く覚えている思い出があります。

私とあなたと、共通の友人と行った遊園地です。

覚えているのは、その遊園地で遊んでいる間のことではなく、帰り道のことです。

その日はとても気温が低く、夕方頃から雪が降っていました。

帰る頃には止んでいましたが、少しだけ積もっていたと思います。

もう暗いから送るよ、というあなたに甘えて、2人で私の家に向かって歩いていました。

横断歩道の信号が赤に変わって、歩みを止めた時に、私が足を滑らせてしまいました。

転ぶと覚悟した瞬間、助けてくれた…という訳では無いと思いますが、あなたの体にぶつかってギリギリ転ばずに済みました。

出会ってから初めてという程に密着したからだの感覚と、転びそうになった恐怖と、私が激突したくらいでは転ばないんだという驚きが混ざって、私はきっとよく分からない表情をしていたことでしょう。

目を白黒させる私を見て、あなたは目を合わせて、眉を下げて、愛おしそうに笑いました。

それを見て私は、今までに感じたことの無い感情で胸がいっぱいになったのです。

そんなあなたの後ろには、細い三日月が浮かんでいました。

あなたの腕に抱かれながら見た初めての月は、数倍綺麗に見えたのです。

その景色が、今も脳裏に焼き付いて離れないのです。


お付き合いを始めて1年がたった頃、私たちはお別れすることになりました。

理由はなんだったでしょうか。

思い出せないのです。

きっと、些細な喧嘩か、あなたか私の心変わりだったのでしょう。

それでも、別れたあとも仲良くやっていました。

思春期真っ只中の私たちにしては、ギクシャクすることもなく話せていたと思います。

いつも私があなたに相談をして、あなたがアドバイスをしてくれました。

何度か冗談めかして復縁しようと言いましたが、あなたは取り合ってくれませんでしたね。

1度決めたことは最後まで貫き通す、あなたらしい決断でした。


そうして細々と交流を続けながら、私たちは高校生になりました。

学校が変わってからはほとんど二人で会うことも無くなり、メッセージだけのやり取りになっていました。

最後にあなたからメッセージが来た日から半年後、あなたは首を吊って自殺しました。




私はあなたの事を忘れられません。

あなたが上着をそっと被せて笑った時のような優しさを、少しでも返せたでしょうか。

あなたが傷つき泣いている私を抱きしめて慰めてくれたように、私もあなたを支えられたでしょうか。

私は、ひとつだって自信が無いのです。

毎日あなたの優しさに甘えていたのですから。

ただの1度も、あなたに好きだと言えていなかったのですから。

眠れない夜には、あなたの声を思い出します。

言葉にならない言葉が涙とともに零れ落ちます。

でも、あなたはもう私の言葉を、あの綺麗な両手で掬い上げて咀嚼してはくれないのです。

好きだと言えなかった私の弱さを、微笑んで許してはくれないのです。

半年前に返さなかったメッセージを返していたら、何かが変わっていたのでしょうか。

あの時お別れしなければ、何かが変わっていたのでしょうか。

私がもっとあなたの悲しみや苦しみを受け止めていれば、何かが変わっていたのでしょうか。

後悔が、今でも降り積もります。


今、私には新しい恋人が出来ました。

高校生活は上手くいっているとは言えませんが、自分なりに努力しています。

あなたが居なくなって少しだけ軽くなった地球で、今日も息をしています。

成績も悪く、あなたの好きだった私からは遠く離れてしまっているのかもしれません。

それでも、いつまでもあなたのことが忘れられずに文字に起こして書き綴る私のことを、少し呆れながら見守ってくれていることと思います。

この拙い文章を、親愛なるあなたへのラブレターとして捧げます。

生まれてきてくれて、ありがとう。


月を見る度、あなたを思い出します。



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