それから……

 女神ピピーナが現れ、世界を蹂躙し、本当の奇跡によって世界が救われた。

 この当時の戦いを、『女神戦争』と人は呼び、邪悪なる女神が地上に降臨し、女神ピピーナが世界を救ったという話にすり替わっていた。

 その戦いから、四年後。

 学園を卒業したエルクは、十九歳になっていた。

 現在、エルクは冒険者として王都で活躍している。

 王都にある小さなブティックの二階に間借りし、四人の仲間と共に暮らしていた。


「ん……」

「起きろよ、ヤト。今日はダンジョン行くんだろ?」

「ええ……そうね。ふぁぁ」


 ベッドから起き、脱ぎ散らかした服を着る。

 ヤトはまだ生まれたままの姿だ。夜更かししたせいで眠そうだ。

 エルクは着替え、ドアを開ける。そこにはソアラがいた。


「おはよ」

「ああ、おはよう。ヤトのこと、頼む」

「うん。あ、今夜はわたしだから」

「はいはい」

『エルク、わたしもーっ!』

「シルフィディはエマと一緒に寝ること」

『えー』


 一階に降りると、リビングにエマがいた。

 学園卒業後、ニッケスの支援を受けて夢だったブティックを開店。新鋭デザイナーとして有名になりつつあるエマ。

 卒業時、エルクに告白して同棲を始めた。そこに、同じくエルクを想うヤトも加わり、エルクと冒険者チームを組み、ここを拠点として生活している。

 テーブルには、エマの作った料理が並んでいる。


「ん~……いい匂い」

「ふふ、今日も冒険ですよね。いっぱい食べてくださいね」

「ああ」

「おはよう」

「おはよ」


 と、ここでヤトとソアラが来た。

 シルフィディはエマの作った小さなパンが置いてある専用席へ。

 そして、朝食を食べ始めた。


「今日はガンボとフィーネ夫妻が同行するんだっけ?」

「ああ。あの二人、大丈夫なのか?」

「大丈夫って?」

「いや、フィーネ……子供いるんだろ?」


 ガンボとフィーネは、卒業後に結婚した。

 卒業後、フィーネは妊娠。男の子を出産。現在二人目を身籠っている。

 そんな状態でダンジョンとは、さすがに厳しい。


「ま、ガンボがいるから大丈夫でしょう」

「だ、だな」


 ヤトはごはんをパクパク食べている。

 ソアラもパンをもぐもぐ食べ、幸せそうだ。

 エルクたちは食事を終え、戦闘服へ着替えをする。エマは開店準備だ。

 そして、エマに見送られ、三人はダンジョンへ向かった。


 ◇◇◇◇◇


 女神大戦の後、世界に大きな変化があった。

 まず、スキルを持つ子供が一切生まれなくなったのだ。代わりに、魔力を使った魔法が発達し始めており、スキルを持たざる子を『スキルなし』と呼びさげすむ者が出てきた。

 だが……悪いことだけじゃない。

 スキルによっての差別がなくなった。持たざる者同士、平等となった。

 エルクは、ダンジョンに向かって歩きながら言う。


「俺たちが死んだあと……スキルがなくなった世界って、どうなると思う?」

「……知らないわ。そもそも、死んだあとなんて興味ないし」

「わたしも、興味ないかなー」


 ヤトとソアラはどうでもいいようだ。

 だが、エルクは違う。


「俺は少し興味あるな。それに……ピピーナならきっと」


 ふと、視線を道具屋に向けると……道具屋の店主が、重そうな木箱をカウンターに乗せようとしているのが見えた。

 エルクは自分の手を見つめ、そっと向ける。

 木箱がふわっと浮き上がり、カウンターの上に載った。


「…………ピピーナ」


 エルクは、小さく呟いて笑った。


 ◇◇◇◇◇


 久しぶりに、ユメを見た。

 そこは、真っ白な花が咲き誇る空間。


『エルク』


 そこにいたのは、ピピーナ。

 

『ふふ、かっこよくなって……』


 エルクに手を伸ばす。だが、エルクは意識だけで、声も出ない。

 ピピーナの手が、そっと伸びた。


『……がんばれ、エルク。わたしはずっと応援してるから』


 なぜ、呼んだのか。

 ああ……きっと、ピピーナも同じだ。

 会いたかったから。

 エルクも、会えて嬉しかった。


『幸せになってね、エルク』


 ピピーナも。

 そう思うと、意識がゆっくり落ちて行く。


 ◇◇◇◇◇


 今日も、変わらない一日が始まる。

 ダンジョンに潜り、お宝を求めて戦いに明け暮れる。

 ほんの少し、彼女たちと甘い夢を見ては笑い、また変わらない一日一が始まる。

 もう、ピピーナの夢は見なかった。

 エルクは、これからも戦い続ける。

 女神が愛した平和な世界で、今日も念動力で世界を動かし続ける。

 

 ─完─










◇◇◇◇◇


完結しました!

応援ありがとうございます!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~ さとう @satou5832

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ