第3話

 縁起でもない夢は正夢になった。


 あれから数ヶ月後、彼は冬の寒い朝に倒れた。何も予兆もなく、突然死んでしまった。


 前日の夜、ツカサは僕に腕枕をしてと言ってきたからしてやったらすごく喜んでくれた。

「アオイの腕枕、気持ちいい。ぐっすり寝られそう」

「しなくても寝てるじゃん、いびき酷いし」

「え? そんなに酷いの」

「うん、起こそうかと思うくらい」

「検査しようかなー、心配性のアオイのためにも」

「いや、そこまで心配してないけど」

「なんだよぉ。心配しろよ」

「心配したらまた変な夢を見る」

「はははっ」

 相変わらずツカサのお父さんと同じ笑い方をする。そして彼と僕はそのまま眠った。


 それが最後の会話。僕よりも少し先に起きてシャワールームの前で倒れていた。


 僕は何がなんだかわからなかった。そこで寝てるのか? そんな穏やかな顔だった。


 死因は突発性虚血心不全。寒暖差で起きるらしいがそれは憶測の一つであって詳しい理由はわかってない。

 それよりもツカサは何を思って死んだのか。普通に朝起きて朝シャンしようとして……いつも通りの生活を送っていた最中に倒れた。


「なんだよぉ。心配しろよ」

 前の夜のあの何気ない会話が繰り返される。まだこれからもずっとずっと先まで一緒だって……。


 思ってたのに。


 でもなんか不思議と涙は少なかった。何度か彼が死ぬ夢を見ていた。だからある程度心構えはしていた。

 10歳上だし、ツカサも言ってたけど

「先に僕が死ぬかもしれないけど一緒にいてくれないか」

 って。たしか2回目のデートの時だ。かなり重い告白の仕方だったけど僕はうなずいたっけ。その時はまだ死ぬなんてそんなことはないって。ただ好き、一緒にいたい、それだけだったあの頃。

 でも歳を重ねるにつれて色々現実も見えて同性同士では結婚ができない、それによる弊害、中傷。

 好きだけではダメなんだ、それを知ってからはとても死が怖くなってきた。僕自身もだけど、ツカサが死ぬことがとても。


 そのことを気にするたび彼は

「まだ死なない、お前残して死ねないよ」

 って笑ってた。告白した時と違うじゃん! って僕が笑うと彼は微笑んでいたのを思い出した。



 ◆◆◆

 ツカサが死んでから三年。


 彼の大好きな紅茶を……彼がお客としてきていた頃によく座っていた席に置く。

 一緒に経営することになって忙しくも互いに支え合ってたね。

 ゆっくり休めたかな、今日はこの紅茶を。いつも日替わりで用意している。

 数時間後には君の大切な友達たちが三回忌のパーティーだって集まってくれるよ。楽しみだね。


 心配しないで、見守っててね。



 終

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空に走る 麻木香豆 @hacchi3dayo

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