第2話

 はっ!


 僕は目を覚ました。息が荒い、汗がびっしょり。変な夢を見てしまった。


 ツカサが死んだ夢? 僕は慌てて横を見ると、ツカサはいびきをかいて寝ていた。イビキはうるさいけど。

 にしてもひどい寝汗。時計を見るともう起きる時間。朝の準備をしなくては。僕はボサボサの髪の毛を結ぶ。


 にしてもツカサが死ぬ夢なんて。縁起でもないな。もし彼が死んだらどうするんだ? 考えたくない、それなのに変な夢を見てしまった。


「アオイっ、おはよ」

「うわっ」

 ボーッとしてるところにツカサが後ろから抱きしめてきたからびっくりした。

 そして彼はクンクンと僕の匂いを嗅いでいる。

「アオイ、寝汗ひどいね……汗の匂い……好きっ」

 ツカサは変わってて僕の汗の匂いを嗅ぐと興奮する。

「シャワー入ろう」

 言われなくても僕は入るつもりだったけど2人で入ることになった。そしてもちろん展開的には……朝からすることになる。




「あースッキリした」

 ツカサの顔は本当にスッキリしている表情だ。

 台所で軽めにおにぎりと味噌汁とフルーツを食べて歯を磨いて身支度をしたら同じ敷地内にある喫茶スカイに向かう。


「おう、おはよ」

 僕の弟、カイトが仕込みをやっていた。奥では彼の妻であり僕らの専門学校の講師だった歩美さんもいる。


「今日ランチメニューをビーフシチューにしようと思う。いい肉を持ってきてもらって」

「じゃあそうしよう。あ、パンも多めに焼いて」

 料理は基本は弟夫婦だが経営兼ウエイターは僕とツカサ。たまに僕らも交代で料理をする。土日は近所の学生バイトさんが数名入ってくれるから助かる。


 早速朝の掃除、準備。

「そいやさ、夜中に少しだけ目が覚めたけど。アオイがすごくうなされてた」

 多分悪夢にうなされていたからだ。起こして欲しかったよ。

「実はつかちゃんがガンで死ぬ夢を見たんだ」

「ひゃー、縁起でもない。もしかしてこないだの病院からの呼び出しを今でも……」

 そう、数週間前にツカサの健康診断の結果とともに病院から再検査の紙が届き行った際に家族の方を呼んでくださいって言われて……でも僕たちは同性同士で結婚できないからいくら10年近く同棲していても僕の家族が認めてても紙一枚のせいで家族ではない。


 ツカサは1人で行こうとしたら他の人のデータと間違えましたというありえないミス!

 最悪っ。それまで僕を始め周りの家族まですごく心配、いやツカサ本人も相当の心労だったし。

 でも僕らがほっとしてる裏では誰かが何か重要な宣告をされているかもしれない。

 いつかツカサでなくても僕もそのようなことがあったら……。


 ダメだ、もう考えるのはよそう。また変な夢を見る。彼は45歳、僕も35歳。もう若くない。

 でもまだまだこれからだって思うけど。いつもポジティブな僕でさえも法律の壁には勝てない。


 そうそう、ツカサのお父さんに少し前に会ったばかり。10年前の僕からの手紙を受け取りに。2人で。ついでに僕も改めて挨拶できたし。少しは前進できたかな……と思ってたのに。


「そいやさ、病院の件もあってうやむやになってたけどさぁ、10年前の手紙……僕まだ読んでないけど見せてよ」

 ギクッ……。僕は恥ずかしくてツカサ宛の手紙なのに見せてない。


「な、なんかさー。イタイことでも書いてあるかと思ったらめっちゃ真面目で。20代の僕。だから反対に恥ずかしくて」

「ん、そんなに恥ずかしい?」

「つかちゃんのこと好き! というのはもちろん書いてあったけど、喫茶店一緒にやりたいとか、これからも末長くとかめっちゃかしこまっててさ……」

 するとツカサは笑った。

「そんなことか。君は変わってないなぁー。妄想癖も意外と真面目なところもさ」

 意外と……、は余計だけどさぁ。


「これからもその変わらない君と一緒にいたいな」

 そんなこと言われると嬉しい……。

「ありがとう、ツカサっ」

「てか手紙今度見せろよ、引き出しに隠してるの知ってるから」

「えええーっ、それはやだなぁ」

「ケチなアオイー」

「ふふん」


 僕は目を合わせて笑ったら、後ろから視線を感じた。

「兄貴たち、朝からいちゃつくなよ」

 カイトと歩美さんが笑ってみてた。

「まぁいつものことよね」

「ほんと2人見てると微笑ましい」

 そんなことないよ。


 あ、そろそろ喫茶店開店。ドアのチャイムが鳴る。


「いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませー」

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