第116話 水飛沫と咲いた華


「待たせたのぅ、カナタ。…どうだ?結構あれこれと試着をして決めたのだが、ちと大胆だったか…?」


「……というか、色々着すぎだった……。……しかも悩んでた理由が……「これだと布が多いか…?」だったし……ペトラはカナタと事しか考えてない……っ」


「言っていましたね、確かに…。ペトラ、流石に人前のある昼間の湖畔でのは上級者が過ぎると思いますが…」


「せんわっ!!我を観光地でも我慢出来ん淫乱みたいに言うでない!というかそなたらだって、その可能性は頭に入れて選んでおっただろ!」


「当然です。可能性はゼロではありませんから。むしろ……パートナーが手を出してしまいそうなくらいでなければ、水着とは言えません。一番肌を晒す姿で着飾る格好ですからね」


「ん……それはそう……。……いつだって真剣勝負っ……でも勝負のが違う…。……あっ、いい匂いっ……!」



騒ぎ合いながらやって来た5人が近付いてくる頃には落ちかけた顎を手動で持ち上げて治したカナタは「ふぅ」と一息ついて改めて彼女達に目を向ける


なんだかとても眩しい光景だ…なぜ、体を重ねて裸体を幾度と晒されているのに上下の布1枚でここまで男心をくすぐられるのだろう…?


ーーというかシオンとペトラに関しては…君達、歳下だったよね?どういう発育してるの?マウラは身長低めの小柄なのになんでそんなに子供っぽくない女性的な色気あるの?あとラウラさん、あなたは何を食べて育てばそんなに実り豊かな体になるの?


カナタの頭の中を今更ながらに過る中で、鼻をスンスンと鳴らして小走りに駆け寄ってくるマウラか輝く眼で煙を上げるバーベキューを見つめ、体を寄せてくる


それを柔らかな視線で見ながら、彼女の猫耳を押さえるようにしながらゆっくりと頭を撫でた



「今日は鳥肉回だ。美味いぞ?流石は上級の魔物肉って感じ」


「おー…っ。……美味しそっ……!……食べよっ、カナタ…っ!……お腹空いた……っ」


「む……魔物の肉か、久しぶりだが…もしや、この前の戦いで落としまくった魔物か?…一部の魔物は、我らでも倒せるか怪しいのがおったのだが…」


「ですよね…。全体で見てもは白金級、3割以上は金剛級だった筈ですがもしかしてこの肉も…?」


「そ。金剛級のグライフ怪鳥の肉もあるぞ。レオルドにも言ったんだけど、あの時に撃墜しまくった食用に出来る鳥肉が山のようにあってな。ここらでいっちょ大量に消費を…」


「おぉ……我もそれは食べたことが無いな。だが、あまり高位の魔物って食えるのか…?グライフ怪鳥って紫色の毒々しい見た目をした奴であろう?」


「食える食える。食ってた奴と知り合いだから大丈夫、美味いらしいぞ?…というか、味見してみたらかなりイケた」



大きなバーベキュー台に集まると、レオルドは魔法袋からドカドカと大量の酒を取り出し始め、挙句の果てに腰まである大きさの樽酒を地面に置くと蓋を力尽くでもぎ取り、全員分のジョッキで中の麦酒をがぽり、と豪快に掬い取って全員に渡し始めていく


ちなみにラウラはこの専用スペースやチェア、日傘等の場所担当


レオルドは見ての通り飲料、主に酒担当


カナタは調理器具と肉等の食事担当である


ラウラは言わずもがなクリューセル家の名前でこの場を盛大に貸し切っており、隣接する専用スペースまで根こそぎ借りたことで周辺からの煩わしい視線は殆ど無し


専用スペースはブロック毎に分けられており、通常は1ブロックでも悠々と他の人とは一切混ざらずに楽しめるのだ


…こうしなければ、隣のスペースを借りた貴族連中がラウラ目当てや水着姿の彼女達に引き寄せられて「是非ご一緒に…」などと言い出すからである


レオルドは行き付けの酒場や食事屋に歩いて回りお気に入りの酒を片っ端から集めて持ってきており、カナタが創った保冷用魔道具やらを借りて本来ならば店内で出された時しか飲めないようなキンキンに冷やした状態の酒を上機嫌で持ち込んでいる


カナタが調理器具等を担当している理由は当然ながら、その狂ったレベルの魔道具作りの才能によって意味不明な性能の器具が作れてしまうからである


いくら大貴族のラウラが高級品を用意可能だとしても、この世界のものではカナタの作製品に匹敵するアイテムはほぼ存在しない。

という事で1から創ったカナタのバーベキュースタンドは横幅2m縦幅1mもある巨大な物であり、縁部は皿と飲み物が置ける机スペース、熱魔法伝導機による自由な火力調整と高度な排煙機能、バーベキューから発される熱は鉄板の上から3cmの場所に張られた遮熱結界によって蓋をされる。

高さ調節機能に加えて高機能サスペンションと可変車輪によりバーベキュースタンド本体が自動である程度の段差すら移動可能。

下部には引き出しと冷蔵室が設けられており調味料から飲料まで様々なものを収納。

挙句の果てに防虫用の結界からマクロナイト合金製展開式シールドを正面、側面に内蔵し、各面に隠顕式2連装10mm魔法素粒子機銃エーテリック・マシンガンを装備。鉄板は10個のセルに変形可能で開いたセルからは炎熱魔法による投射グレネードを投擲。

挙句の果てに一面に固定ブースターを装備することで最終的にはバーベキュースタンド本体が猛烈な勢いで突っ込んで自爆可能という事実上のミサイルと化す。

簡易的なタンクとしても活躍できる素敵な機能付きなのだ


なんだかどう見ても必要のなさそうな機能が盛り沢山のカナタ製高機能バーベキュースタンド…果たして、バーベキュー以外で時はくるのだろうか…


その上で、今は大量の肉と野菜が音を立てて焼けており煙はカットされているのにいい匂いだけは周囲に漂ってきている…間違っても、こんな性能のバーベキュースタンドはこの世界に存在しない。

あっても火力調整機能と排煙抑制程度だろう


ちなみに、このバーベキュースタンドの説明をちょっと得意気なカナタから受けたレオルドは「おめぇ……何と戦ってんだ…?」とおかしな視線をむけられていた



「じゃ、一回やったけど…乾杯ってことで」


「おう!何回やってもいいな!」


「ですわね、乾杯っ」


「うむ、乾杯だ」


「乾杯です。先の戦いの勝利に」


「んっ……乾杯っ」



少し控えめに上げた木製ジョッキを6人が同時にガツン、とぶつける


中身が弾け舞うのも気にせず、そのままジョッキを口に付けて全員が一気に傾けた


…このジョッキ、普通の大ジョッキ並みの大きさに横幅があるのでかなりの量が入っているのだが全員が豪快に顔を上に向けてなみなみ入っていた麦酒を一気に飲み干していく


嚥下する音だけが少しの間続き、ほぼ同時にカラになったジョッキを机の上に叩きつけるように置く


こうして、二度目となる黒鉄の勇者パーティの打ち上げ会が始まったのであった







「てかレオルド……ライリーはどした?連れてきて良いって言ったろ?」


「あ?あー…ライリーな。その内来ると思うぜ?てか、今はこの街の冒険者は一生に一度ってくらいの搔き入れ時なんだ。朝っぱらからそっちに行ってっから、もうそろそろ来んじゃねぇか?」


「搔き入れ時?……なんかの依頼でも出てたっけ…」


「ダッハッハッハッ!カナタ、お前のせいだってんだ!近郊にアホみてぇな量の魔物の死体があんだろ?」


「…………あっ、そういうことか」


「おうよ。カナタの兵器が順調に焼却してる横で、冒険者達は残った魔物の素材を必死こいて掻き集めてんだ。これを機に商人達もバカバカ魔物素材の依頼を張り出したもんでな、冒険者達にとっちゃ戦わずに魔物素材が手に入るってんでお祭り騒ぎになってやがる」


「まぁ俺は要らないから好きにすりゃ良いけど……一緒に燃やされんなよ?」


「そこまでバカじゃねぇさ。大戦経験者は全員、勇者の兵器がどんだけヤベェか見て分かってる。距離感もバッチリだ。今回はライリーの奴、得意先のデケェ商人から依頼されてんだ」



カナタが自軍にて鏖殺した魔物の死体は現在まで休むことなく順調に焼却処分がされているが、本来なら魔物の素材は皮牙鱗に骨肉と様々な用途で使い道のあるアイテムだ


これがカナタからすれば実用性の無い生物なまものだとしても冒険者や人々にとってはまさに宝の山。これを見逃す手は無いのが冒険者達だ


大戦中、カナタは26もの大都市への魔物大侵攻を真正面から殲滅した。その時も、各都市や国で同じ状態になったのだが、これは最早その時からの慣例とも言えるお祭り騒ぎであった


大戦の中を駆け抜けた冒険者達は、どこまでカナタの焼却魔兵に近づけば危ないのかをきっちり分かっており、その側でお仕事に励んでいるのである


実はレオルドの弟子、ライリーにも声をかけていたのだが見ないと思えばこれに参加しているようだ



「ま、勧めたのは俺だけどな。ライリーが居ちゃ出来ねぇ話もあんだろ?ほら、キリキリ吐いてもらおうか」


「えっ…そんなのあるか?」


「ありますわ。カナタさん…私達、まだあの戦いで一番気になっていた所を教えて頂いてませんのよ?」


「……なんかあったっけ…。あ、専用装備の事か?結構自信作でなぁ」


「違ぇ!そこにゃ感謝してっけど別だ別!最後に魔物を吹っ飛ばしただ!いつの間にか空の兵器が居ねぇと思ったら空から光が振りまくって地上は木っ端微塵だ、どうなってんだあれ!?」


「あの量の魔物は駄目かと思いましたのに、まるで空から光の槍が降り注いだかと思えば地上の魔物は皆殺し……流石に説明が欲しいですわ。あれは…なんですの?」


「そう言えば……凄まじい威力であったな。確かに我も気になっておった…あんな魔導兵器があったのだな」


「あー……あれね」



ジョッキ片手にレオルドとラウラから詰められるカナタ…見ればペトラも気になっていたらしく、シオンとマウラまでもぐもぐとお肉で頬を膨らませながらこちらを見ている



ーーそう言えば、何も言ってなかったなぁ



と思いながら、カナタは空間ディスプレイを何枚も宙に投影させる


一番大きなディスプレイ2つ…1つは◯と△が複雑に幾つも重なった不思議な幾何学模様が示され、もう一つにはデジタルのように立体表示された…謎の巨大構造物が3Dで表示される


確かに、あまり大勢に聞かせたい話ではない…ライリーがここに居ないのは都合が良かった。全てを話すには…まだ少し、彼女のことを知らなさ過ぎる



「まだ初対面だったな、レオルド。アマテラス、挨拶しとくか」



その声とともに幾何学模様が映った空間ディスプレイが光を放ち、機械的な女性ボイスが響き渡る



『初めまして、レオルド・ヴィットーリオ。私の名前はアマテラス。マスターの補佐をしている人工精霊と思って頂ければ結構です』


「こりゃぁ……とんでもねぇ珍しいモンが出てきたな…俺もこんなの初めて会うぞ。よろしくな、人工精霊……?」


「あぁ。俺が創った…というか、学習させて育てた。俺等の世界ではこんな感じの存在を「AI」とか言うんだけどな、アマテラスは俺の兵器郡を統括管理してる。分かりやすく言うと…俺の代わりに動かしてんだ」


「ほぅ…あれだけの兵器をまさか一人で操ってんのか、とは思ってたが…。てか、他の奴らは知ってたのかよ」


「はい。私達は一応面識というか、話したことがあります。…といっても、こうして挨拶しただけでしたが」


わたくしもですわね。それで、カナタさん?あの空から落ちた光の槍の話ですが、アマテラスさんが関係していますの?」


「あるぞ。その光の槍…『魔砲・スターダスト』をばら撒いた張本人がアマテラス本体だからな」


「「「「「……本体?」」」」」



5人が首を傾げた…それは全員が目の当たりにしたしていたことだ。武御雷がグラニアスを葬り去ったあの後の事…晴天の空から太陽が光を落としたかのように、空から降り注ぐ光の槍のような魔力の砲撃が地上を全て破壊し尽くしたのを


この世界で、空の彼方は殆どが「星の海」としか認識されていない…その先がどのような空間なのかを見て確かめた者はほぼ存在しないのだ


『人工衛星』という概念自体が無ければ、どこにあるかの認識はまずもって初見では無理だろう


それを思いながら、カナタはもう1枚の空間ディスプレイ…3D状態で映される巨大構造物の映像を見せる



「これだよ。今、レオルドに話しかけたアマテラスはこいつだ。今も俺達の真上にいる、上空1500kmの宇宙空間…星の海に浮かんでるこの空中要塞こそアマテラス本体だ」



ぽかーん……と、流石に全員が固まった


開いた口が塞がらないとはこの事か…少しの間、フリーズしながらようやくシオンとペトラが口を開く



「星の、海に……?」


「う、浮かんでおる…だと……?というか本体という事は……」


「そ。俺がどうやって色んな場所を同時に監視したりしてるのか……それは空の果てから文字通り、からだ。アマテラスの大きさは1600mを越える、そこに地上で使うにはちょっとな兵器とかを積んでるんだ」


「デけぇな!?おいこいつ、1km超えてんのかよ!どうやって浮かんでんだかサッパリだ…」


「……お、落ちてこないの…っ?」


「さっぱりです…。というか本体って……そんな遥か空から話し掛けてきていたんですか…?」


「そこに搭載された兵器の1つが、あの空から落ちてきた光の槍ですのね…。ですが、あれ程の破壊力…何故、グラニアスに向けて使わなかったのでしょう?」


「あ、確かにそうです。グラニアス討伐にあの兵器を使えばかなりスムーズに進んだ気がしますね…」



その疑問は当然だろう


あの広範囲を瞬時に破壊せしめる威力と攻撃範囲を最大の討伐目標である四魔龍に使用しない手はない…普通ならばそう考える



「アマテラスはこれだけの巨体だからな、移動速度が猛烈に遅いんだよ。そんでもって溜めが必要な大規模兵器ばっかり積んでるから取り回しが悪くてなぁ…。唯一、グラニアスにだけは居場所がバレる訳にはいかなかったんだ。ほら、グラニアスの異名覚えてる?」


「グラニアスの異名…確か『災厄の陰』とか『星の海を渡る翼』とかありましたわね…。あ、もしかして………?」


「そ。グラニアスは唯一、アマテラスに対して直接攻撃が可能な怪物だった。奴の空間機動力にはアマテラスの兵器は大部分が攻撃を当てられない。その状態で奴の攻撃を受け続ければいくらアマテラスの装甲と障壁とは言え、いずれは貫通する…」


「まさか…グラニアスをどうにかして斃したかった理由はそれですかっ?空の上のアマテラスさんの安全を確保する為に」


「グラニアスが居なければほぼ一方的な攻撃と監視が可能になる。空の優位は戦局を一変させられるんだ…それは、あの時全員が見れただろ?アマテラスこそが俺の最終兵器の1つだからな」



ほい、ほい、ほい、と全員の皿の上に目の前で焼いていた大きめの肉を乗せていくカナタは初めてその目的を明かす


全てはアマテラスの安全と優位性を確保する為


そして、それを確保出来た時に何が可能となるのか…それは全員がまざまざと見せ付けられていた。明らかなワンサイドゲーム、反撃不可能、回避不能の破壊の嵐を空から降り注がける常識外の攻撃法


皆が、納得がいった…何故カナタがここまで強く、グラニアスに殺意を剥いたのか


何もかも、自分の切り札の1つである兵器の最強のカウンターとなる存在を消す為に



(…と言うか、それを今言ってくるあたり…やはりカナタの秘密主義は深刻ですね。この様子だと他に何を隠しているのか分かりません…)


(さて……他に何を隠しているのか…。これで分かったが、カナタは嘘はつかん。しかし…真実を語っていない事が多い…どこかで聞き出す必要があるか…)


(むぅ……色々聞かなきゃ……。……多分、他にも何かやってそう……カナタは勝手に進めちゃうから…気付いたら事が運んでるパターンが多い……要注意……っ)



…というのは置いておいて、シオン、マウラ、ペトラの3人からの評価はちょっとだけじっとりとした物だった


そう…この世界で誰よりも長い時間を彼と過ごした彼女達から見たカナタは、少しだけ奥に手を伸ばさなければならない相手のように感じ取れていた


彼は嘘や騙すような事は冗談以外でほぼ言わない…しかし、多くを語らない節がある。特に自分以外へ危険が及ぶような内容や、自分の芯へと迫る内容に関しては相当の秘密主義者である


良くも悪くも、放って置くと何を始めるか分からないのが、三人から見たカナタへの感想だった


そんな事を考えながら、口に運んだチキンステーキのようなお肉にかじりつく…



「「「ふむぐっ……!!?」」」



3人揃って固まった


いま、ラウラとレオルドまで石化したようにお肉を口にして固まっている


今まで考えていたことが頭の中から吹き飛びかねない衝撃が…口の中を支配していた


見た目はただのチキンステーキなのに、あまりにもジューシー…果実を噛んだように肉汁が溢れ出し、それを油と感じさせないあっさりとした脂身と濃い肉の匂いが味覚と嗅覚を駆け抜ける


味付けは塩胡椒だけの筈だが、思わず噛んで飲み込むのを忘れてしまう程の衝撃が体中の神経を走り去る


端的に言うと……



「美味いっ!!なんだこれはっ!?い、今まで色々と魔物を食べたが初めてだぞっ!?」


「す、凄いですっ!感動的です!こんなお肉あったんですね…!」


「んっ………!んっ………!」


「これは……食べた事ありませんわ。どのお肉とも違う…肉の味、食感、脂身、肉汁…庶民貴族界の食卓に上がるものとは明らかに違いますわよ…?」


「なんじゃこりゃぁ!?おい、グライフ怪鳥より100倍ウメェぞ!?これ何の肉だカナタ!?乱獲して毎日食えるぜ!!」



めちゃくちゃ美味しいのだった


数多の魔物食をしてきたシオン、マウラ、ペトラにレオルド。更には高級食に精通しているラウラすらもが驚愕を露わにする。先程食べた金剛級魔物、グライフ怪鳥よりも断然美味しいそれにレオルドががっつきながら発した言葉に「あー、そりゃ無理だなぁ」とぼやくカナタ








「だってこれ、グラニアスの鳥肉だし」






ビタァッ…!!


今度は全員が別の意味で固まった…


全員揃って自分が食べていた肉を見て、そしてカナタを見る


親指を立ててサムズアップするカナタ



ーーえ?あのグラニアス?四魔龍で、最強の魔物の一体で、数多の国を滅ぼした生きる災害とまで言われてた……



「美味しいよなぁ、こいつ。もう二度と出てこないのが残念なくらいに……」



ちょっと残念そうに肩を落とすカナタがもむもむとたった今、グラニアスと紹介された美味しそうなチキンステーキを食べる…試食済みだった様子のカナタの姿は5人の目からは完全に、食物連鎖の悲しき定めに写っていた


例え最強かつ伝説の魔物であっても……始末されればこの末路を辿るのか、と…


ちょっとだけ微妙な気持ちになりながら……文句は言わずにもりもりとお肉を食べる事にした一同。少しだけ、心の中でちょっとだけ…ほんのちょっとだけグラニアスを哀れんだのであった








ボートレースのように水飛沫を上げて水面の下を物凄い速さで泳ぐ影が、僅かに姿を水中へと隠し…鯨が跳ねるように勢いよく水面から飛び出していく


飛び出した勢いが強すぎて餌を取った海鳥のように10m以上跳ね上がりながら器用にくるくると回転したりしながら美しく着水…イルカの如く泳ぎ抜けるマウラは水面の下へと潜航、縦横無尽に遊泳を堪能していた



「マウラって水中でも速いのなぁ……なんか猫って水が苦手なイメージあるけど」


「ま、風呂も好きだからのぅ。そこはカナタの教育の賜物ではないか?我らからすると、熱い風呂はたまの贅沢…頻繁に入るのはチキュウの文化だろう?」


「というか、確かカナタの出身だったニホンの文化でしたか?…この指輪と言い、素敵な文化が多いですね」


「良いもんばっかりでもないけどな。まぁ俺が持ち込んだのは…気に入ってくれて何より。てか、2人は泳がなくていいの?」


「我は泳ぐと言うよりも浴に来たつもりだから問題ない。こうして水辺に腰を下ろしているだけでも気持ち良い…」


「私はもう少し泳いで来ます。なかなか体を思いきり動かす機会もそうありませんし、泳げる、と来れば尚更ですから」



波打ち際でぺったりと腰を下ろし、寄せる冷たいオアシスの水に脚やお尻を冷やされ気持ち良さそうにするカナタとペトラ


胃が膨れた後はやはり運動、と言わんばかりにオアシスへ飛び込んだマウラを追いかける様に水の中で遊び泳いで少しの休憩と座っていた3人。ちなみにレオルドは遊泳と酒を交互に楽しんでおり、ラウラはチェアに体を横たえてパラソルの下でゆっくりとお酒を飲んでいる…楽しみ方がちょっと大人っぽい


シオンはその隣で立ち上がり、腕を天に伸ばして体を伸ばしながら目の前のオアシスに再び入ろうとしていた


ラヴァン王国は内陸の国だ


このような湖も、魔物の棲む森の奥にあったりする事から遊泳はあまり体験できる事ではない。少し泳ぎ回るには悩ましい水着であり、特に水上がりは滴る水や水滴が彼女の肌を伝い落ちる光景がとても刺激的に見えるカナタにはこの場所はちょっと心臓に悪かったりする…





その背後をから……まるで小動物が走る程度の僅かな音を立てて迫る影があった





砂と砂利が入り混じるこの地面を、その程度の音しか立てずに疾走する一人の影は誰かが止める隙もなく、一陣の風のようにその距離を駆け抜けると無防備に両腕を揚げて伸びをするシオンの背後へと迫り……


無防備に突き出す形の、三角形の魅惑の布地に抱えられるような大きく張り出した立派な彼女の胸を、後ろから両手で………




「シ・オ・ンっ」



「ひゃあっっ!?」




思いっきり、それはもう容赦なく、鷲掴みにした


悪戯と甘さを混ぜ込んだ声でシオンの名前を囁いた真後ろの犯人は、そこからシオンの両の胸を手でしっかりと触感を楽しむように揉み始め、耳元に息を吹きかけるようにしながら…


その手の動きに合わせてシオンの大きく実った胸が、艶かしく形を歪ませる。手の形に指が食い込み、柔らかく弾むように揺れ、少しずつ布地がズレ動いてその頂が見えそうになり…



「えっへへへ…!すんげーな…!デカくて柔らかいのに押し返してくるぅ…あー、さいっこー…!なぁ、シオンっ?やっぱ俺の女になってベッドでしっぽり絡み……………    あ゛   っ」



ーーバゴォッ!!


強烈な打撃音が響き、真後ろからシオンの立派なお胸を愉しんだ狼藉者が彼女の高速回転からの裏拳を食らって弾け跳んだ


そのまま水切りをするようにオアシスの湖面をバウンドしていき猛烈な勢いで水面へと突き刺さるを見向きもせずに、その手で乱されたビキニの布地を顔を赤くして直していくシオンは後眼で自分が殴り飛ばした相手を視界に入れた



「っ……なんですか、ライリー。勝手に触らないでください」



そう、レオルドの弟子にして武争祭の決勝をシオンと競ったライリー・ラペンテスである


背は高く、髪を後ろに流したオールバック風にバンダナを巻き、服装は恐らく依頼から装備を脱いで直接ここに来たのであろう袖なしに踝までのパンツを履いたようなラフな出で立ち…


それが、ツッコミにしてはあまりにも高い威力の裏拳で湖面に突き刺さったのであった


ちなみに隣で見てたカナタとペトラも「「うわぁ………」」と声を揃えていた…


彼女と体を頻繁に重ねているカナタも、よくその肢体に触れるのを赦してくれているなぁ、と思ってしまう程に容赦無い裏拳であった


マウラが水中から飛び出してライリーが沈んだ場所に脚から着水して様子をまじまじと見ている……よく見たら、マウラは足が沈む前に片脚を上げる、という非常に脳筋な方法で水面に立っており、足がブレて見えていた…


来てから俊足で文字通り沈められたライリーは、「ぶはっ」と水面から頭を出してシオンの一撃をもらった側頭部を撫でながらブーイングを示している



「ちょっとくらいいーだろ!?減るもんじゃねーんだし!まだ尻と脚も残ってんだから大人しく……」


「遺言はそれだけですか…?」


「………特別に胸だけで我慢するから、あと1回揉ませてくれ」


「さようなら、ライリー。あなたは良くもないひとでしたけれど、悪い人ではありましたよ」


「それただの悪い奴じゃねーか!?あっ、ちょ、待てシオ…………ーー」



赤らんだ顔で青筋を浮かべたシオンが拳を硬めた


これには、ちょっぴり不味いかなぁ、と思ったライリーの提案は即断で却下され静止の声も聞かずに正拳突きのようにその場でライリーに向けて拳を突き出すように振ったシオン


ライリーが吹っ飛んで着水した場所はだいたい30m先



そこまでのオアシスの湖水が…シオンの突き出した拳の拳圧だけで真っ二つに割れた



「ちょぉぉぉぉぉァァァァァァァァァァっっ…………ーーー」



目の前の湖底が露出する程の一撃が誇る衝撃で、ライリーは飛んでいった…


遥か巨大なオアシスのど真ん中へと、ホームランボールのようにかっ飛んでいく彼女はその悲鳴をドップラー効果で歪めながら…



「まったく……」



嘆息しながら振り抜いた拳を降ろすシオン…その横に「スチャッ」と空から降ってきたマウラが着地を果たす


彼女の怒りの鉄拳がライリーを襲う直前に空高く飛び上がって器用に真横へと降りてきたようだ


そんなマウラがじー…とシオンを見詰めていた。いや…彼女のごく一部を真近くで凝視していた。それはもう穴が合いそうな勢いでじっくりと見つめている…



「あの……マウラ?何故そんなに私の胸を見るんですか?」



ーーつんつん、ぷにぷに



「んんっ…!?ま、マウラっ?な、なんで胸をつつくんですかっ?」



ーーむにっ、むにっ



「ちょっ…ん…っ……き、急になんでそんな揉んでく……っ」


「………同じもの食べてるのに……この大きさは変…っ。……前から思ってたけど……っ」



めっちゃ揉んでた


マウラが、シオンのお胸を


ライリーのようではなく、そんなに強くではないが、触感を確かめるようにむにむにと…じっとりした目線でちょっと不機嫌そうなのは気の所為ではないかもしれない…そんなマウラに戸惑うシオン


側で座るカナタは「ふぅ…」と視線を明後日の方向に向けていた。だって、こんな御天道様の下でする訳にはいかないし…



「……ラウラさんは……むっちりマシュマロ……。……シオンは押し返す弾力……どっちもいい……っ」


「いつからそんな胸ソムリエになったんですかっ!?ち、ちょっといいから離してくだっ…」


「……我もちょっと思っておったんだけどな。シオン、大きすぎではないか?、と…。そなた、本当に同い年よな…?」


「ペトラまで何言ってるんですかっ!?というか、ペトラは人の事を言ってはいけないと思いますがっ!あっ、ちょっとなんでお尻を…っ」


「うぅむ……我とは各サイズ感のボリュームがやはり違う…。やはり……羨ましさは否めない…」


「ペトラまでっ!?ちょっ、ぁ……っ!な、なんでですかぁっ!」



ペトラが参加し始めてしまった…座ったまま、シオンのお尻をペタペタと触り始めている


ライリーに触られて改めて見せられた彼女の肢体の出るところのボリューム感に、ちょっとだけジェラシーを感じてしまったらしい


とは言え、ペトラもマウラも、シオンと違う魅力で他女性が見れば総出で同じ目に遭わされるようなモノをお持ちなのだが…こうもあからさまに揺れたり揉まれたりして存在感を見せつけられると幼馴染の同い年としては隣の芝が真っ青に見えるのだ


そんな中、カナタはこっそり気配を消して3人から離れ始める


ただでさえ普段と違う艶やかな装いなのに、そんな目の前でつんつんむにむにするのを見せられたら立ち上がれなくなってしまう……


撤退を決めたカナタがクーラーボックス代わりの魔道具の元へと戻って来て、冷たいもので火照った頭を冷やそうと思い…



「あら、こちらに来てしまって良かったんですの?なら…わたくしと一杯、しましょ?」



一番やばい人が居たのを忘れていた


何がやばいって?


そりゃ勿論……シオンを凌駕する凄まじいボディスタイルが惜しげもなく少ない布地で強調されているのだ、やばいに決まっていた


チェアに寝転がっているだけなのに、なんでこんなにグラビアの撮影みたいにしか見えないのだろうか…



「ちょっと………ちょっと刺激が強すぎる……今更だけどな…。取り敢えず…まで大人しくしてるか……」



そんなカナタの呟きは、ラウラの耳には入っていないのであった。何がのを待っていたのかは……内緒である


騒がしく、賑やかに。戻ってきた平和な時間はこうしてゆっくりと流れていくのであった














ちなみに、そんなカナタと彼女達4人の水着大会、は…それはもう盛り上がったんだとか


カナタきっての希望で、昼間の水着で丸3日も盛り上がり、4人が用意してたさらに危険なに丸3日……挙句の果てに、夜中のオアシスを一角を貸し切って水着のままお外でしちゃったりと……色々な意味でカラナックを最後まで満喫する事となったのであった


ここからラヴァン王国へと戻ったのは実にこの日から更に10日後の事…そんなにナニをずっとしていたのかは……最後の2日間はシオン、マウラ、ペトラが震える脚で立てるようになるのを待っていた、とだけ記しておく







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【後書き】



「……章の最後の最後でタガが外れてしまった。ほら、最近バトル展開尽くしで皆の成分が足りてなかったし…」


「わ、我らは栄養か何かなのか?まぁ、確かにご無沙汰のような気がするが…とは言え、今回は作者のヤツ…かなり加減して描いたな?」


「ん………というか、マトモに書いたら確実に物語消される……。……続きは詰まりまくってるノクターン……」


わたくしの回がまだですものね。ちょっと恥ずかしいですが、でも…読んで欲しい気持ちもありますわ…。だってっ、あんなに強く求められるなんてっ」


「その様子だと…結構激しくしてたんですね、ラウラさん…。ま、まぁ私達3人も人の事は言えないと思いますが…」


「そう言えば向こうのコメントとかにも来てましたけれど、一部のコメントにNTR推進派の方々がいらっしゃるみたいで…」


「どこのどいつだ!?ぶっ◯してやるっ!」


「お、落ち着けカナタっ!コメントくれた方にその発言は拙すぎるっ!」


「ん……ここは前にも私が代演したNTR担当のシオンとペトラが頑張る……皆、期待しててっ……!」


「やりませんっ!というかそんな不名誉な担当はありませんがっ!?」


「…ちなみに、私とラウラさんは純愛担当……二手に分かれていい感じ……バランスばっちり…っ」


「まぁっ!傷付いたカナタさんを癒す役割……全うさせていただきますわっ!」


「「全うしたら駄目ぇっ!」」


「というかこの物語そういう展開無いだろ!無いよな!?いや今までだって上手くいってたし…!」


「ですが、そこに関しては作者から『危ない目に遭わせるくらいなら…むしろ好き』というお話をきいていますわよ?」


「ヤロウぶっ◯してやるぁっ!」


「……カナタがベネットみたいになっちゃった……大丈夫、二人が行っちゃった時は私とラウラさんでしっぽり……こほん……しっかり慰めてあげるからっ…」


「少し、向こうで話しましょう…マウラ。私なら瞬きする間に…あなたを縛り上げてエロゲ出身虫系ドラゴンの前に差し出せます。忘れないことです…」


「っ!?…し、シオンまでベネットみたいに……!?」


「そなた…コマ◯ドー好きなのか…?」


「まぁ、シオンさんとペトラさんがちょっとカナタさん以外にイロイロされてしまうような話は置いておきまして……次回から新章ですわね。最初のお話はラヴァン王国のあの方々から始まりますわ、それではまた次回っ!」


「「置いておかないでっ!死活問題っ!」」


















「な、なぁ?本当にそういう展開って無いよな?本当だよな?」


ーーそういう展開は無いと言ったな?……あれは嘘だ


「をいぃぃぃぃぃぃぃっ!?!?」


ーーまあハッピーエンド大好きだから、嘘は言い過ぎとして…でも流石に彼女達にピンチはあるに決まってるでしょ?山無し谷無しな訳もないし、私はそういう危ういのとか大好きだし…カナタ君って、言わばラスボス倒した後の主人公だから強すぎてなかなかピンチにならないし


「だ、だよな……焦った…。でも聞き捨てならない……ピンチってどのくらいの?」


ーー………直前までされかける、とか……?


「ヤロウぶっ◯しやるぁぁぁっっっ!!!」


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【180万PV感謝】エンディング後の過ごし方 未知広かなん @michihiro0713

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