第115話 水の畔の勇者達


カラナックの街が平静を取り戻すまでに7日間を要した


街から50km以上の距離にて突然大発生したこれまでの歴史でも類を見ない魔物の軍勢は容易くカラナックを滅亡させることが可能であった事もあり、街は緊急事態を宣言


街に1つの大型転移魔法陣を使用しての市民の避難を進めたが到底間に合うような物ではなかったのだ


全ての市民が悲観し、絶望し、パニックに陥り、兵や冒険者ですらも防衛など頭の中には存在しない…それほどの規模を誇る魔物の群れは真っ直ぐにカラナックへと向かってきていたのだ


だが、この大群を迎え撃つように…空中、地中から現れた凄まじい数の鋼鉄の兵団が、魔物の襲来を予知していたかのように現れてこれを迎撃し始めた


街を守る兵や偵察に出ていた冒険者達は目撃し、一目で理解する。それを見て何なのかを知らない者は探すほうが難しいだろう


それは世界を守る勇者の尖兵


かの黒鉄の勇者が操る鋼の軍勢が今ここに、カラナックの街を背にして現れたのである


避難はどう見ても間に合わない…逃げる事叶わない住民達は彼に賭けるしかなかった


そして、地を埋める魔物と進撃する鋼鉄の兵団による大戦争が目の前で勃発するのを目撃する。鮮血と血肉と爆発が大地を朱に染め上げ、日が出ているにも関わらず眩く見える光がそこら中で破壊と共に瞬く


気が付けば、大勢がカラナックを守る壁の上に立ちその戦いを見守っていた


下手をすれば一番に巻き添えを食うかもしれないその場所で、いつの間にかパニックすらも収まりその戦いの行く末を見届け始めたのだ


だがそれも、後に「光の裁き」と喩えられる天空より降り注いだ光の流星群によって全ての魔物達が粉砕されたことで終結を迎えた


その光景がまさに…天に住む女神が魔物へ裁きを与えたかのように見えたから


戦いは終結し、カラナックはお祭り騒ぎへと変わった


滅亡の縁から、あの勇者が自分達を救ってくれたのだ、と皆が酒に酔いながら口々に笑う。そんな騒ぎは戦いから1週間が過ぎ去った今も熱気冷めないままなのだった




ーー




「で?まだ終わってねェのか?」


「そんなすぐに終わる訳ないだろ…何万体あると思ってんだレオルド…。ようやくあと一日ってとこまで来てんだ。早くラヴァンに戻らないと、そろそろ学校再開だってのに…」


「…カナタ、マジで教師なんかやってんだな。てか、その学校って襲われて大変だったんじゃねぇのか?いいのかよ、教師がこんなトコで油売ってて」


「新任のぺーぺーに出来ることなんか無いっての。もともと正規職員って訳でもないしな、あいつらが卒業したらいつでも辞めてやるさ。別に卒業してなくても辞めたいけど…」


「不良教師だな…」


「ほっとけ。元から乗り気じゃねーの、クビなら喜んで家に引っ込んでやる」


「あの4人がそれを許すと思ってんのか?…てか辞めたくても無理だろ、隣にラウラが居んだぜ?その辺はお偉い大貴族のクリューセル様が一声かければくたばるまで教師させられんだろ」 


「なんてこった…詰んでる…」


「幸せで何よりだな。俺ぁお前の幸せを願ってんだ。……で、まだ焼けねぇのか?」


「落ち着けよ、生肉は食うとヤバいだろ。待つのも醍醐味……というか、先に食いまくってるとマウラの視線が痛い」


「確か初めて会った時も肉ばっかり食い付いてたな、あの猫耳娘…」



じゅうじゅう、ぱちぱち


耳に心地よい音を立ててバーベキュースタンドの上に置かれた妙に大きく切り分けられた肉が焼けるのをトングで世話するカナタとレオルドは現在、キレイな砂と砂利の混じったオアシスの畔に半裸姿でいた


2人揃って上裸で、下は膝までのトランクスに似た変わった肌着なのはシンプルな男物の水着である


上裸姿になるとカナタもかなり体の鍛え方が目立つが、レオルドと並べば小柄にすら見えるのが不思議であった


身長2mを越え、丸太のような腕の筋肉に銃弾も通らないような(実際、通らない)分厚い胸板やらの筋肉を搭載した偉丈夫の肉体は流石にレベルが違いすぎた


ここはカラナックの中心地にある第1オアシスの畔


そこで何故に2人で水着姿のままバーベキューの世話をしているのか?と聞かれれば……ただ、遊びに来ているだけのことであった


そも、祝勝会と称して飯やら酒やらの大騒ぎをカラナックのクリューセル邸でやったのだが、カナタは事後処理に追われて少しばかり忙しくしていたのだ


処理しなければならないのは…このカラナック周辺を埋め尽くす莫大な量の魔物の死体である


アマテラスが放った空爆『スターダスト』に巻き込まれた魔物の大半は消し飛んだものの、巨体の魔物や巻き込めなかった魔物、カナタの兵団と殴り合いをしていた魔物達の死体が何万と転がっていたのだ


このまま頬っておくと普通に旅人や商人の邪魔であり、普通に死体なので腐敗による悪臭やら病原菌やらが風に乗ってカラナックに届く可能性すらあった。これを処理しなければ流石に迷惑が過ぎる…そう思ったカナタ秘蔵の後処理部隊、通称「ダイソン」が死体を山積みにして特別高温の火炎放射によって灰にし続けているのである


これが非常に時間のかかる作業であり、ようやく終わりの兆しを見せたのが今日の事


そんな訳でかねてより少女達が「行きたい!」と言っていたオアシスの湖水浴へと出かけたのである


本来ならば大衆の湖水浴場に行くところだったのだが、これにラウラがストップをかけた



「カナタさん、そんな所に行かずとも第1オアシスには貴族や来賓用にスペースを確保した貸し切りエリアもありますのよ?あまり他の方々の前に水着姿のこの子達を連れて行くのはオススメしませんわ」



ちらり、とカナタはシオン、マウラ、ペトラの3人に視線を向けた


3年もの間共に暮らしているカナタから見ても、「ド」が付く美少女だ。改めて見てもそう思うカナタ…あと年齢に反して特に2人ほど体がよく育っている、3人とも水着なんて着たらとても刺激的だろう



ーー成る程、確かによろしく無い



瞬時に頷いたカナタはすぐさま「おなしゃすっ」とラウラに頭を下げたのであった


そんな事もあり、この場所は大衆に開放されたエリアとは少し離された対岸に位置する場所にある貸し切り用なのだ。その為、この場には今はカナタとレオルド以外の人影は無い


ちなみに女性陣は着替え中で、取り敢えず先に付いた2人でバーベキューの用意をしていたのだった



「てか、これ買ってきた肉じゃねぇよな?鶏肉ばっかりに見えっけど」


「ん?あぁ、最近大量に鶏肉仕入れたばっかりでさ、ここらでいっちょ大放出を…」


「おい……お前それってこの前の戦いの時に空飛びまくってた魔物の事言ってんのか?最低でも白金級で金剛級まで飛び回ってたぞ……ちなみに今焼いてるのは?」


「そっちがアダマスバードのモモ肉で、それは雷天鳥…今焼けたのがグライフ怪鳥な」


「白金級2匹と金剛級1匹かよ……てか食えんのかよ大丈夫かこれ?」


「あー……その辺はちょっとな。妙に魔物の肉を試し食いしまくってた奴に聞いてみた…全部美味いらしい」


「マジか」



カナタは少し視線を逸らしながら言った…流石に百年以上昔に死んだ勇者の幽霊に聞いた、なんて言えないのだ…


ちなみにその幽霊は今もカナタの真横で『あーいいなぁ!ねぇ黒鉄!ちょっとでいいから食べさせてっ!……あれ、幽霊ってどうやって食べるのかな?』とはしゃいでいたりする


レオルドには微塵も見えていないらしい。彼女はカナタに付いてこの街を練り歩いているらしいが、どんなに主張してもカナタ以外の者が幽霊勇者に反応することは無く、触れても透き通るのだ


そんな彼女…霊堂雫の視線はバーベキュースタンドに釘付けだ。もうキラキラに目が輝いている、一体どれだけ食べたいのだろうか…ちなみに彼女だけではない


要注意物として呼び出していた、夢幻、蒼炎、魔纏、雷導の4人の幽霊勇者までここに付いてきていたりする


元々は、あの戦いの日にこの4体の幽霊が魔砲『武御雷』に見学へ出掛けていた事がきっかけだ。あの時に武御雷へ何をしてくれたのかを事細かに説明させるべく呼び出していたのだ


…とは言え、何故かオアシスにまで付いてきており、何度もレオルドにバレないように「しっ、しっ…!」と追い払う仕草を見せるも「まぁまぁまぁ」と居座っている…



「しっかし遅ぇなあいつら…呼んでくるか」


「やめとけって、ドヤされるぞ?……ラウラに」


「ダッハッハッハッ!遅ぇ方が悪ぃんだ!」



かれこれ20分、こうして肉の世話をし続けているがなかなかやって来ない女性陣にレオルドが痺れを切らした…というか、全員揃って早く食いたいだけなのだろう


裸足のままドカドカと歩いて行くレオルドの背中を見送りるカナタは「…さて」と一息ついて近くにいる半透明の幽霊組に視線を向けた


びくんっ、と肩をはねさせる観光組の幽霊4人


彼らはいの一番に雷導の勇者を生贄のように突き出した



『全部こいつのせいです』


『俺達は止めました』


『不可抗力よ、責任はこいつにあるわ』


『ま、待ってくれ!違うんだ!俺はただちょっと興味が出ただけで…ってお前達も入ってきただろ!?何で俺一人なんだよ!?』


『バカっヤロぉ!何回俺達が止めたと思ってんだ!何も聞かないでズカズカ進んであれこれ触ったのはお前だろ雷導ぉ!』


『引き止めたのに全部無視したのはあんたよ雷導!あれのせいで上手くいかなかったらどうするつもりだったのよ!?』


『確かに着いて行ったけどな、何度引き返せって言ったか覚えてるか!?俺達の言葉何も聞いてなかったろ雷導!』


『ごめんて!でもあんなことになると思わないだろ!?なんで霊体の俺達に反応したんだよあの大砲!?』


『『『知るかっ!!』』』



やいやい、ぎゃいぎゃい、正座姿で騒ぎ出す幽霊勇者達に溜息をついて額を押さえるカナタは目の前に突き出された雷導の勇者、理斗を半目で見る


こうして騒いでいる所を見ればやっぱり日本人の少年少女である…



「結果だけ言うなら、武御雷は命中した。グラニアスも死んだ…まぁ結果オーライだ、そこはいい。ただ……気になるのは武御雷の方だ」


『ホントに壊す気は無かったんだ黒鉄!ま、まさか壁とかはすり抜けられたのにあのデカいコアみたいなのだけ反応するとは思わなくて…!』


「確かめたいのはそこだ。武御雷はただの魔力の大砲だ、余計な機能は付いてない…命中した相手を木っ端微塵にするだけの脳筋大砲なんだけどな。…武御雷は最初、グラニアスを外した」


『ほら、やっぱりあんたが壊したからよ。猛省しなさい』


『あのホントにすみませんっした……』


「まぁちょっと聞けって。話はここからだ。武御雷の砲撃は外れた…その後だ。外れた砲撃の魔力流が空間に鏡でも出来たみたいな見えない壁に跳ね返った。2回もな、それでグラニアスに命中した」


『…はぇ?』



ぽかん、と幽霊勇者達が口を開けて呆然とする


成る程、わざとやった訳では無い…それを確認しながら最後に訪ねた



「2回も空間を跳ね返ってからグラニアスの首に命中、爆発することなく思い切り貫通して首を両断した。もう一度言うけど、俺は武御雷をこんな風に創ってない。なぁ、雷導の勇者……これはお前の特異魔法、雷源千導ミスティック・プラズマで間違いないか?」



そう、あの時の謎の現象…武御雷の砲撃が意味不明な軌道を描いた原因の心当たりはここにあった


カナタがそれを見た時の既視感は、かつてシオンと結ばれた時の夜…眠りの中で夢に現れた勇者達の魂の中に理斗の姿があった


その時に、自分で纏めた彼らのデータを見たのだ。何人も調べ上げていたデータの中…1人の記録の中にカナタの既視感の正体は記されていた



ーー『雷導の勇者アカシマリト


物はおろか空間ですら自在に反射し変幻自在に軌道を変え、当たれば貫通する特性を持つ膨大な雷と電力を操る特異魔法「雷源千導ミスティック・プラズマ」の所有者 270年前 ラヴァン国境付近に進軍した魔神族を率いた魔将ガランドーサと激突。左腕喪失、胴体に3箇所の大穴の重症の末に戦死』





ーー




見たことは無い、しかしあの時の武御雷が変貌した砲撃は明らかにこの特性を踏んでいた。付与されていない雷属性、爆裂から貫通への変貌、そして空間を2度も反射した…


止めとばかりにカナタは偵察機で撮影していたグラニアス討伐時の映像を映し出して見せる


その光景に、理斗は開いた口が塞がらない



『ほんとだ!?なんで!?』


『え、嘘!?私達の魔法が使えるってこと!?』


「いや、多分このままだと使えない。もう試してみた…俺の鎧、リベリオンに霊堂雫が触れたまま魔法を使ってみたけど、彼女の破天壊皇ブレイク・ダウンは発動しなかった。仮説だが、本来なら干渉できない魂魄に規格外の魔力が通された事で強引に干渉することでしか発動は出来ない。…武御雷は龍脈から直で魔力を組み上げてる、俺単騎のチンケな魔力じゃ無理ってことだ」


『いやいや…黒鉄の魔力がチンケなら俺達はその辺の羽虫みたいなもんじゃ…。破壊のよりも魔力あるだろ?』


『うん。黒鉄の方がめちゃくちゃ多いよ。いやぁ、私も結構自信あったんだけどなぁ。ちょっと変だよ、黒鉄。私にそれだけの魔力あったらギデオンにも勝てたかも!』


「ま、その代わり俺は特異魔法以外の才能が微妙過ぎるけどな。通常魔法はほぼ初級のみ、強化魔法も勇者達に比べればそれこそチンケだ。神鉄錬成ゼノ・エクスマキナがなければちょっと強めの一般人だっての」



味見、と言いつつ焼いていた肉を自然な動きで摘んで口に放り込み「あ、うま」と呟くカナタは一言続けて「要するに、だ」と繋げる



「あの時の現象は偶然と奇跡の産物…現時点での再現性は無いに等しいって事だ。霊魂への干渉手段が無い以上は、な」



『黒鉄、それってまさか……』



魔纏の勇者と呼ばれた堂島禅が呟いた


まるでその言葉の意味を理解したかのように……









『ああぁぁ!?ズルいよ黒鉄!私も食べたいって言ったのにぃ!?』





「……いや無理だろ。自分が幽霊の自覚あるか?」




霊堂雫の悲鳴にカナタの目がじっとり半分になる…幽霊になってまで食欲衰えない様子の彼女に勇者達も『『『『えー……』』』』と微妙な空気に変わっていた


流石は魔物肉の偏食家、目の前で食される魔物バーベキューを見て見ぬふりは出来なかった…地団駄を踏むように恨めしそうにカナタを見るかつての最強の勇者は手を伸ばすもののスカスカと肉に触れられず


どうやらポルターガイストのような物が起こせるわけでもないらしい


『むきいっ』とヤケになった雫がカナタの手にしたトングを手にしようと前のめりに突っかかり……



「のわっ…………あれ?どこ行った?」



触れないと分かっていてもつい手で押しのけようとしてしまうカナタであった…が、そんな雫の姿が視界から綺麗さっぱり消えてしまったのを見れば周囲を見回して首を傾げる


くるり、と4人の観光勇者達に視線を向けるも4人揃って首を横に振る始末


だが、その疑問を引き裂くように雫の機嫌良さそうな声が大きく聞こえてきた



『あ!なんかいけた!美味しい!』


「うぉわぁっ!?あ、頭の中で声がするっ!?」



カナタが驚いたように頭を抱えた!


今しがた姿を消した雫の声が自分の中から聞こえてきたのだ、驚きもするだろう


自分の体をぺたぺたと触りながら「これってまさかっ!?」とカナタの予想は他の勇者達も全く同じものだったらしい



『『『取り憑けたの!?』』』


『うん、なんかいけた!他の動物とか街の人は全然無理だったのに、黒鉄にはするっと!』


「やっぱりかよ!てか取り憑かれてんのかこれ!?なんかヤダな言葉的に!…ていうか味わかんの!?」


『分かる!おいしーっ!体は動かせないけど、黒鉄の味覚とか触覚しっかり感じるよ!すごいすごいっ!何年ぶりかなぁこんなの!生きてた時以来だぁっ!』


「た、確かに自分の中に自分以外の魔力っぽい何かがあるのを感じる…」


『あ、それ私の魂だね!』



何と言うことだろう、消えたように見えた雫は現在、めちゃくちゃ自然にカナタへと取り憑いていた


どうやら「取り憑く」と言っても肉体を乗っ取るとかはではないらしく、取り憑いた相手との感覚の共有が出来ているらしい。カナタが味見でつまみ食いした魔物の鳥肉に舌鼓を打つ雫は『次はグライフ怪鳥がいい!』とオーダーまで出し始める始末


それを見ていた4人の幽霊勇者達も顔を見合わせて…



『じゃ、ちょっと失礼します…』


『お邪魔しまーす』


『入るわよー、黒鉄』


『どれどれ…』


「おい、勝手に取り憑くな!これ魂魄防御じゃ弾けないのかよ!?あくまで肉体の感覚を共有するたけだから反応しないのか!?」



ちょっと友達の家に上がりこむ感覚でカナタに取り憑いてくる4人。この一瞬で5体の幽霊に取り憑かれてしまったカナタは「これ大丈夫だろうな…?肩が重い、とかならないよな…?」と少しばかり心配になる


アマテラスからの上空映像で自分の姿を映させて見るが、特に異常はない…ついでに言うなら取り憑いた幽霊勇者達が背後に映る、なんて心霊映像が映ることもなかった



『マジでうめぇ!味なんて何百年ぶりだ!?てか魔物は初めてだ!』


『うわぁっ!何かを触る感覚…久しぶりっ!このトングの冷たさとか、バーベキューの暑さ、汗が伝う擽ったさ…!やっぱ体っていいわね!』


『よし、取り敢えず今焼いてる分を食ってみてくれ黒鉄!久しぶりに食い溜めしとかないとな!』


『おぉ…!おい、胸に意識向けてみろ。人の鼓動なんか何百年も感じてなかったな、やっぱ「生きてる」って感じがするぜ!』


「めちゃくちゃうるせぇなお前ら!?あとこの肉はあいつらの分だ、幽霊が食い溜め出来る訳ねぇだろ島田義也!」



…取り憑いたら取り憑いたでとても煩かった


久々の生身の感覚に大興奮の幽霊組が自分の中であれやこれやと注文を出し始めたのには流石のカナタも額に手を当てる



ーーこりゃマジでとっとと死霊魔法ネクロマンスを探さないと…!



そう思わせるのに十分なほどのテンションの上がり方である



「おら、いつまで取り憑いてんだ!いい加減…っ…離れろっ!」


『『『『『うわぁっ!?』』』』』



ドンッ…と音が出て周囲の砂と砂利がちょっと周りに弾けて飛んでいく程度に魔力を体から噴きださせたカナタ。それに合わせて体から5人の霊体が押し出されるように外へと出てくる


やはり、どうやら魔力との密接な関わりがあるらしく魔力を放てば強引に追い出せるらしい


残念がりながら『えー、もうちょっとだけ!』とごねる雫、百合恵、義也の3人とは別に…魔纏の勇者と呼ばれた禅が顎に指を当てて何かを真剣な表情で考え込む



『ん?どうした魔纏?なんか変なとこあるか?』


『いや、そうじゃない…。少し考えたんだ、もしかしたら俺は天才かもしれない…』


『えっ、急にどした…?』


『雷導、お前…童貞だろ?』


『なんてこと言うんだ!?俺は……っ……』


『みなまで言うな…俺もだ。けどよ、考えてみろ雷導?俺達は黒鉄と感覚を共有出来るんだぞ?』


『…それがどうしたんだよ』


『黒鉄のハーレムメンバー見たろ?地球のエロ本が裸足で逃げ出すレベルのド級美少女と美女4人だ…つまり、だ。黒鉄があの4人とセ◯クスするタイミングで取り憑いてると、感覚を共有してる俺達は事実上はスーパー美女達との5Pで童貞を捨てる事に…!』


『おい魔纏……天才かよ……!?そんな、夢のような脱童貞過ぎて成仏しちまうぞ…!?』


『ふっ……これが叶うならこの魂……賭ける価値はあると思わないか…?』



ニヒルに笑う魔纏の勇者にわなわなと震えて感動を露わにする雷導の勇者!


そう…感覚を共有出来るならばハーレムメンバーとエッチしてるカナタとの感覚を共有出来る!


異世界と言えば!のエルフ、猫耳、魔族の歳下スーパー美少女と、えげつないスタイルの異世界リアル歳上お嬢様との情事…これを視界まで共有すれば一人称視点で彼女達と交わる感覚が体験できる…!



ーーそんなの、殆どセッ◯スじゃないか!!



彼はそう言いたいのである!











「いい訳ねぇだろ、除霊すんぞ悪霊ども……」




『『うっす…さーせんした……』』




儚い……夢だった……!


そりゃOKが出る訳なかった…あと他の勇者達3人からの視線がとても冷たい…


何よりも夢幻の勇者から向けられる、道端に落ちた吐瀉物を拭いた雑巾がゴキブリとドブネズミに集られてる様を見るような凄まじい視線がとても痛い…


死にたくなるからそんな目で見ないで欲しい……もう死んでるけど……



『あー……ま、取り敢えず俺達はどっか行くわ。楽しんできてな、黒鉄』


『そこのゴミ2つは私達が捨ててくるから、安心しなさい。…ほら、行くわよゴミ1号、ゴミ2号。暫くは自分の棺で謹慎でもしてなさい』


『い、いやそれは謹慎というかなんじゃ…』


『なによ?』


『はい……自分の棺で大人しくしてます…はい…』



土下座の姿勢のまま、すー…とスライドするように百合恵に襟首を掴まれた禅と理斗はそのまま4人揃って姿を消していくのであった


その背中は……どこか煤けて悲しい影を背負っていた…



『気をつけてねー…もう死んでるけどー』


「たまに出てくるその死人ブラックジョークはなんなの…?あと自分で呼び出しといてあれだけど、そんなポンポン移動出来るもんなのか?」


『うん、出来るよ?なんか黒鉄の魔力の繫りが強い物を辿れるんだよね。黒鉄の造る兵器って全部が、こう…レールみたいに魔力の繋がりがあって、それに乗ると「ビューンッ!」ってすごい速さで移動出来る感じかな?』


「俺の魔力の繋がり?なんだそりゃ………いや、それってまさか俺の兵器郡のリンクを辿ってるのか…」


『お墓にある大っきい木の形した兵器あるでしょ?そこから黒鉄に繋がってるから直接飛んできたんだよ』


「成る程…それで武御雷の場所が分かったのか。どうりで何人も観光ツアーみたいに行き来出来る訳だ…やはり、勇者達の魂は魔力に関係してるのか…。いや、というよりも「勇者の」魔力に強く干渉出来てるってとこか」


『みたいだね。実際、黒鉄以外は私達の事なんて見るのも無理だし声も聞こえてないし、触っても通り抜けちゃうし…取り憑けたのも黒鉄だけだったね』


「…それ、気になるな。俺の魔力にのみ反応…勇者の魂が取り憑ける…兵器での特異魔法再現…それって、もしかすると…」



カナタは彼女の語る勇者達の霊魂の特性に、ふ、と一つの可能性へ思い至る…本来ならば、この世界の法則ですら不可能な事だ。しかし、今聞いた特性と…そして自分の魔法があればもしかしたら…そう思わずには居られない


だがそれには…足りないピースがいくつもある



「1つ、頼んでもいいか?勇者全員の特異魔法を聞き集めて、纏めて教えて欲しい…詳しく。俺が持ってる情報はカビの生えた古いやつしかないんだ。少し……試したいことが出来た」


『おっ、いいよ。なんか企んでるね黒鉄……確か音撃と鉄糸の2人が術式云々に詳しかったから後で呼んでみるよ』



にや、と笑う雫が楽しそうに頷く


魔法をその回路となる術式の構築から、更には0から組み上げ既存のものを改良するとまでなれば専門的どころではない知識が必要となる…カナタは自身の魔法特性上、この術式に関して無類の知識と実力があったが絶対ではない


全ての勇者達と面識を持つ雫にとって、彼に匹敵する知識を持つ勇者は2人しか居なかった


もしもこれが上手くいけば……







「ダッハッハッハッ!来たぞォカナタ!いやぁ、ちょうど着替え終わったみたいでなにより…」


「急かされた、の間違いですわ。まったく……女性が愛した殿方の前に肌を晒すのですから、準備が必要なのは当然でしてよ?」


「準備ってオメェ……着替えるだけだろ?早く来ねぇとメシが食えねぇってんだ。別に夜はカナタとすっ裸でヤる事ヤってんだろ?今更水着1枚くらいで……いてぇ!?おい慈母抱擁アマティエルの角でどつくな!」


「これだからデリカシーの無い殿方は……反省なさい。水着やランジェリーは言わば勝負服…何よりも手の抜けない部分ですのよ」


「んなこたぁ聞いてねぇ!……って、おい……頼むからここでおっ始めんじゃねぇぞ…?」


「……………はその場の遭遇戦ですから、断言はしかねますわ」


「おいカナタ!テメェの女だろ!ちゃんと抑えとけよ!?」


「あらあら、冗談に決まってますわよ。ちゃんと……は別で用意してますから、帰ってからのお楽しみに…」


「おい、3人とも…この淫乱性女に影響されんなよ?こいつのド淫乱は間違いなく家系だ、側にいて感覚麻痺してっと釣られてド淫乱に…」


「レオルド様?あまり淫乱淫乱と連呼されると…わたくしも穏やかではいられませんわよ…?」


「いてぇ!?だから結界でどつくな!おい、今は上真っ裸まっぱなんだやめろってんだ!」


「の、のぅ……もしかして我らがはかなり…その……挑戦的だったのでは…?」


「ら、ラウラさんに釣られて買ってしまいましたが…よく考えたらとても恥ずかしいのかもしれません…っ」


「んっ……勝負っ……!…というか、二人共…普段カナタともっとエッチなことしてるのに……今更すぎ…」


「……もしかして、私達は既に…かなり「淫乱」と呼ばれる部類なのではありませんか…?」


「えっ……よ、世の恋人達はせんのか…!?」


「…普通、しない……。……というか、誰もが挟める程そんなに大きくない……っ」



なんだか愉快な騒ぎ声が聞こえてくる…あまり首を挟みたくない会話の気配を感じるカナタだが、ここには自分しか居ないのでスルー出来ない…


見ればふよふよと浮かぶ黄金の結界が嫌がらせのように先端をちょっとだけ尖らせてレオルドの背中にドスドスとタックルをかましまくっている


その後ろに続く女性陣の姿をだが……これが中々にカナタからすれば刺激的の一言だった



まずマウラだが、トレードマークの青色のサイドが開けたショートパンツにハイネックのビキニを身に着けており腰の付け根辺りからしゅるり、と伸びる尻尾が地面すれすれをゆらりと揺れている


肩や胸の下からは肌を露わにした刺激的な格好で、彼女の活動的な印象をしっかりと表した水着姿…しっかりと膨らんだ胸元と細身な腹部、きゅっとしなやかな脚がボトムのショートパンツのサイドが開いているせいで腰元から太腿の付け根を横から拝めてしまう…とても眩しいマウラだが4人の中で露出は一番控えめだろう


じっとりとした視線がペトラに向けられているのは他の3人に比べれば…胸の大きさが少し控えめだからだろうか。………念の為もう一度言うと、3人に比べれば、だが


少し小柄ながら、その体付きはしっかりと動く者の美しさがくっきりと浮かび上がっており、一切無駄がないだろう肉体美に女性ならではの柔らかな曲線が重なって反則的なスタイルを実現している



そんな彼女に湿気った目線を向けられているペトラの格好は緑のラインに白地のオフショルダービキニであり、ボトムは紐が2本ずつとなっているデザイン。美しくギラつく陽光を輝き返す腰までの銀髪は一纏めに柔らかく纏められ、普段は見えない首筋がオフショルダーの曝け出された肩と共に見えるのがとても刺激的だ。


同年代の少女よりも高めの身長に美しくバランスの整ったボディラインは明らかに同年代どころか探し回っても見付けられないような発育をしており、肩紐のないデザインに深く谷間をつくる大きな胸…切れ長の目元を柔めて顔を赤くする姿は凛とした印象に反して可愛らしい


歩くたびにしっかりと揺れる実った胸と程よく締まった柔らかな尻のラインが男の目には刺激の強い格好である。



その後ろから着いてくるシオンの格好は、これまた王道と言えるシンプルで布の少ない三角形のビキニ。胸元から肩にかけての紐が大きめのメタルリングでチェーンになっており、色は大胆にも黒。で胸の中央のトップスを繋いでる部分もリング状な艶やかなデザイン…その金属部分はトレードカラーの赤色というちょっとした拘りを感じるものだ


長く伸びたエルフ耳を少し赤く染めながらぴくりぴくりと動かし、真紅のセミショートを指で耳にかけ、目元には伊達眼鏡をしっかりと掛けたシオンのなんと言っても凄まじい発育から来るボディラインはこれ以上などこの世にいるのか、というペトラよりもさらに出るところの出たスタイルを誇り三角ビキニながら少し収まっていないところがなんとも艶めかしく、ぎゅっ、と深く谷を作る胸の間は視線がつい引き寄せられる


それを惜しげもなく晒け出す大胆な水着ながら、群を抜いたボディスタイルは美しさと妖艶さを120%に活かしているだろう



最後は先頭のレオルドを結界で突っつきながら歩くラウラ…


真っ白な首肋の辺りから重たげな…4人の中でも一番にボリュームのある胸を包み持ち上げるように布が胸の上で交差し、首の後ろで吊るす形のクロスホルター。だが、胸の大きさに負けたのかデザインなのか…両胸の谷間側から溢れるように胸の柔肌が見えており、ボトムはビキニタイプだが、臍の前で紐が交差するデザインなのが彼女の大きく実った胸や健康的な臀部に反してきゅっと括れたウエストを強調している


そこから伸びる脚もしなやかながら柔らかな肉付きを思わせ、その長身も相まって間違いなくその辺の男が見てしまえば現実と夢想の区別がつかず放心するであろう凄まじい美しさ


ボリュームのある黄金の長髪1つにまとめ、半ばから三つ編みのように編み込んでおり頭にはツバ広の麦わら帽子を被っているところがリゾートに遊びに来た雰囲気を醸している



結論として…常識外れの美貌と肢体の4人がそれぞれ扇情的に布の少ないを水着で着飾った姿はあまりにも刺激が強かった


というか全員ともスタイルがイカれている…特に胸部の


この世界でもなかなか見れない大きさのペトラがメンバーの中でサイズ的に3番目という時点で尋常ではない。いくら夜にはベッドの上で逢瀬を度々重ねているカナタとは言え、水着姿は別物。一瞬だが、かくんと顎が落ちたのは誰も気が付いていなかっ………………いや一人隣で気が付いていた


隣で『うひゃぁっ……流石異世界美女艦隊っ……。アイドルっ?グラビアっ?いやいやそんなのと比べたら失礼だよね…っ、どう考えてもそんなレベルじゃないし、ねぇ黒鉄はどう思……あー、そうなるよね』と1人て納得していた霊堂雫は地球との違いを目の当たりにした


…とは言え、この4人に関してはこの世界ですらも一握りといえるレベルなのだが、それが目の前に全員揃っているとちょっと同じ女性ながらに感動してしまう


ちなみに、勇者達とてなかなかに綺麗所は揃っている


タイプは違えども光る者達だが、それでも眩しく見えるのがカナタの腕の中に居る4人であった。しかし……往々にして、戦いに身を投じた勇者達は皆揃って己の外見やら周りへの受けに頓着無い者が多かった、というのに気が付くことは中々に無い…


この世界に伝わる「勇者達の姿」は皆が凛々しく、雄々しく、美しく…そして勇ましく。揃って容姿端麗武勇併せ持つ英雄と見られているのだから








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【後書き】


ーー皆様、お久しぶりです。未知広かなんです


こうして後書きに言葉を載せるのもお久しぶりですね


実は思い付きて始めた後書き代わりの【Database】が思いの外楽しくてついつい色々と書いてしまいました


そんなこともあり、この場を借りて色々と自分の言葉を珍しく書かなかったのには理由がありますね


まぁそれもこれも原因は唯一つです…そう……




『バードストライク』編が長引いたせいですね、はい



ぶっちゃけると、『第2章・武争祭』の締めにあたる『バードストライク』編は…書く前から実は3話程度で終わらせてしまおうかと思っていたんです


ところが書いてみるとあら不思議…書きたい内容を文字にするとまっっっったく1話分に収まらないことが判明致しました


気が付いたら8話分も書いていた次第です…長々とお付き合いさせてしまい退屈した方も居るかもと思いつつも、最後まで書いちゃいました


いやぁすっきりです。このお話、主人公が主人公のクセにマジの戦闘シーンが全然多くないんですよねぇ


なので今回は8話かけて主人公を暴れまわる様を書いてみました


とは言え、私はこのお話の主人公を彼一人に限定しているつもりはないんです。そのエルフ、魔族、獣人、聖女の一人一人が主人公であり、彼を追う幼馴染も主人公、そして121回目に呼ばれた彼も主人公…書く視点を広げて色々な物語を色々な視点で描きたいと思っています


あと、『バードストライク』編の真っ最中にフォロー8000を超えてたり1800000pvいってたりしてて気が付いたら少しずつ数字が伸びてきた気がします


応援やコメント、ギフトもいただけて本当にありがとうございました。とても嬉しいです…ウレシイ…ウレシイ…


ちなみに気になったコメント第1位は


「四魔龍が性癖を語り始めるかと思った」


という奴ですね。なんか何人か同じ感じで書いてくれてて「おいおい…書いてやってもいいんだぜ…?」とか思いましたけど思い留まりました…


つづく第2位は


「カクヨムで読めるのはここまでか…」


でしたね。これはエデルネテルが封印から出ちゃった時の奴です。………いや、流石にそんな、ねぇ?書きませんよ?そんなベタベタな異種か……酷い内容は…あ、これに続いて「N◯Rはやめろよ…?絶対やめろよ…?」という奴もありました


そんなまさか、ねぇ?私がここまでドロドロにカナタ君とヒロイン達を絡ませて(意味深)おいてそんな……エロゲの具現化みたいなエチエチモンスターに差し出したりなんか…………ねぇ?


ちなみに私は色々とイケちゃう広範囲カバーの者ですが、このお話はハッピーエンド目指してますのでね


まぁ?少しくらいピンチがあっても?なんならお色気的なピンチがあったりすんごい危ないくらいまでピンチになっちゃったりしても?私は一向に構わないどころか楽しくなってくるとか……いやそんな事はこの先の展望に関係は……ねぇ?


あ、ピンチ云々に関しては「ここの作者ならやるぜ…きっと…!」みたいな風に言われてました…おいおい、分かってるじゃないか…


というか逆にお聞きすると…エグめとは言え、ここまでお膳立てされたエチエチモンスターと絶対エンカウントする流れありながら何事もなく終わると思ってますか…?

それは多分多方面から私が袋叩きにされてしまいます。


「エチな流れがあるなら全力で乗せる…流れがないなら私が無理矢理こじつけて作る」…それが、この未知広かなんの流儀なので




という訳で、第二章は後日談の1、2話を入れて終了となります


長くなりましたがここまで読んでくださり、ありがとうございました




・予告


次章   次々話くらいから始動します





第三章  最初の編話は




『異世界転校生』編




久しぶりに学院へ話を戻すとしましょう




ま、次回はバチコリ水着回だけどネ

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