第114話 『バードストライク』Ⅷ


『武御雷』は放たれた


その場に合流を果たしたギデオンはそれを知ってか知らずか…組み合うガルガンチュアとガヘニクスを見て事態を把握し、アルビオンに飛行を妨害されて拘束されるグラニアスを見た事でカナタの計画を瞬時に察した


そして、無数の有翼の魔物を突撃させてアルビオンを振り切らせようとしているのを見れば、猛速でレイシアスを仕留めようと追撃をかけるカナタへ向けて飛び出しながら声を張る



「レイシアスッ!その新型の相手はするな!全てをガルガンチュアに当てろ!」


『ギデオン…!そう来たか…!アルビオン!全火力をガルガンチュアの援護に向けろ!グラニアスの攻撃は無視して良い!』



その意図を、カナタもすぐさま察知する


アルビオンへと突撃していた魔物達が、一転してガルガンチュアへ向けて命を捨てた特攻を繰り出し始めたのと、アルビオンに備えられていた副砲、対空砲の類が砲口を真横に向けて魔法弾をばら撒き始めたのは同時だった


現状、弱り切ったグラニアスにアルビオンを振り切る力はまだ無い


事実、フルパワーのグラニアスを討滅する為に建造されたアルビオンは今のグラニアスを抑え込むくらいは力尽くで出来るのだ


そしてグラニアスの攻撃に耐えながら抑え込めるアルビオンを生半可な攻撃能力で拘束を解除させるのは不可能なのが目に見えている…


つまり、この場でカナタに押さえつけられるギデオンとレイシアスを除いてアルビオンの拘束を破壊できる存在は…ガヘニクスをおいて他に居ない



「新兵器に気を取られたが、ジンドーがやってるのは前の時の再現!超遠距離からの巨大砲をもって一撃でグラニアスを消す気だ!何としてもあの拘束を破壊しろッ!」


「ッ………あの新型、確かに拘束をしてからグラニアスへの攻撃をしてない…ってことは狙撃砲はもうっ!?」


「発射されたか、その寸前だ!ガルガンチュアを少しでも崩せ!俺がこのまま拘束を……ッ」


『させると思うか?…流石に同じプランは気付かれるのが早いな。だがここまで来たんだ、押し通るッ!』


「チィッ…!そこを退けジンドォォォッ!」


『死んでもヤダねッ!!!』



突撃するギデオンの前に、アルビオンとガルガンチュアを背にして立ちはだかるカナタが今一度衝突する


両腕のブレード『イガリマー』『シルシャガナ』の2本を構え、神速で振られるギデオンの白銀の剣を迎え撃つ


二人の姿が肉眼で捉えきれずに掻き消え、互いの剣とブレードを叩き付け合う金属音と火花がそこら中から鳴り響き、時折ばら撒かれる魔法や魔砲の光が花火のように瞬き爆ぜる


レイシアスがその隙を抜けようと試みるも、多数の航空兵器とカナタが牽制として蒔き散らす誘導弾を迎撃し振り切り、ギデオンの援護を回すので手一杯となり四魔龍の援護に向かえない


ガルガンチュアに時折特攻する魔物が激突していくものの、僅かに巨大が揺れるだけで意にも返しておらずアルビオンからの援護射撃も加わり有効打に届かない


完全に、カナタに2人が押さえつけられた形となった今…ガヘニクスとガルガンチュアを援護可能な者はこの場に誰一人として……







「ギデオン様ッ!只今戻りました!」


「戻っても役に立てるか分からないっすけどね…!こっちは撤収完了っすよ!」




いや、この場にはまだ魔神族が3人残っていた


シオン、ペトラから無尽蔵に放たれる膨大な爆撃を辛くも潜り抜けてどこか煤けた感じだが、兎に角無事そうな姿で戻ってきた2人は前に出すぎず、後方からその声を届ける



「無事だったか!だが下がっていろ!ここはあまりにも危険すぎる!」


「転移は間に合わないわ!防御と回避に専念しなさい!」



遠くから聞こえる師の声が状況の危うさを物語る中で、ゼウルとバウロは主の戦場となる場所から一線引いた距離まで後退し、を進めていたキュリアと合流する


3人はカナタと直接戦う気など毛頭無かった


だが…



「どうだったっ?」


「っ…このままだと無理だ。ギデオン様もレイシアス様も、身動きが取れない…ガヘニクスもあの巨人が正面から殴り合ってるせいで対処出来ない」


「あんま出しゃばるとヤバいけど……今動けんのは俺達だけってこと。ここはちょっとばかし、無茶したほうが良さそうじゃん?」


「っ…うんっ!私達で、なんとかしましょ!それで、考えてたんだけど…多分私達の攻撃だとあの巨人には傷一つ付けられないわ」


「無理だろうな…。ガヘニクスの攻撃を正面から受け止めて殴り返してる化物だ、気付かれることも無いかもしれん」


「そこで……この子の出番って訳ね」



キュリアの側には翼長30mを越える巨大な怪鳥が佇んでいた。

金剛級の魔物、巨岩鳥メガ・ロックバードは岩山地帯に住み着く巨大な有翼の魔物であり、その脅威度は出逢えば商隊も旅の荷馬車も終わりと言われる程の脅威

縄張り意識が強く、岩山を好んで巣を作る為に街の近くへ現れる事は多くないが間違いなく有翼の魔物でもトップに君臨する怪物だった


そこに杖と手を翳したキュリアが幾つもの魔法陣を重ね合わせて発動させる…



「私の魔力を全て使って……この巨岩鳥にありったけの付与エンチャントをかけるわ。その力で、全力で体当たり…これでも崩れないような化物なら負けよ…っ!」



体に残る全ての魔力をもって、修めたあらゆる付与魔法を掛けていく


筋力を上げ、体の強度を上げ、俊敏性を上げ、怪力を加え、衝撃追加をし……分厚い魔力の波が巨岩鳥に重なり本来持たざる力を一時的に備え付け金剛級を少しばかり超えた怪物を作り上げた


岩色の巨体を広げてその力を示す魔物に反し、その場にキュリアがよろけ落ちる所をゼウルとバウロが支える


魔力切れ…それもほぼすっからかんになるまで使ったことで完全にキュリアは意識が落ちているが、彼女が最後に与えた命令により巨岩鳥は空へと飛び立った



目標は、ただ一つである








『着弾まで20秒です。マスター、命中の衝撃に備えてください』


『俺のことは気にしなくて良い。それよりも…用意しといてくれよ?』


『お任せ下さい、マスター。かねてよりこの時を待っていました』



アマテラスからの音声が超速で飛翔する魔砲『武御雷』の巨大ビームがすぐにこの場で到着する事を聞き、短くカナタは頷いた


アルビオンによる拘束はこの為の物……逃げようと飛び上がるグラニアスを空中で沈める機能こそがこのワイヤーアームであり、両手からからワイヤーを伝って弱点属性である高出力の雷撃を流し込むことで反撃の余力を奪い取る


武御雷の余波も空中へ向けて放つならばアルビオンとガルガンチュアの装甲であれば問題なく耐えられるのだ


アルビオンだけでの抹殺も可能ではあるが、如何に力を奪っているとは言えグラニアス本来の頑丈さは関係なく健在…死ぬまで攻撃し続けるのにはこのごった返す戦場は少しばかりリスクが高い


故に、一撃でこの場に関係ない場所からの必殺を叩き込む


だが、計算外は必ず現れる



『マスター、非常事態です』


『聴きたくねぇなぁ………どした?』


『封印中枢「AUTUM」が襲撃を受けました。現在、防衛システム並びに防衛戦力にて対応していますが、抑えきれません』


『このクソ忙しい時に……!いやまさか、このタイミングでそんなあっさり封印の防御を突破できる奴は……』


『はい。監視映像から襲撃者はダンスター・ガランドーサただ一人と判明しています』


『だからここに居なかったのか狸爺……!てか「AUTUM」の場所がバレてたのかよ………あー、違う、そうか!俺の監視網でバレずに動ける奴はガランドーサだけだ…野郎、部下も連れずに一人で封印探し回ってやがったな!?』


『そのようです。私と現地の『エンデヴァー』の監視網、センサーにもかかっていません。データだけで言うならば、ガランドーサは先程突然「AUTUM」内部に出現。内部隔壁を四枚抜かれるまで感知出来ませんでした』


『マズい…それはマズい……!寄りにもよって「AUTUM」かよ…!あいつは………エデルネテルはグラニアスとは別ベクトルで出てこられたら困る!2方面作戦ってことか…!最寄りの基地から『ブラスター・ウィング』を飛ばせ!『エンデヴァー』に出て来た所を叩かせる!グラニアスを吹っ飛ばすまで時間を稼がせろ!俺が転移で行ってしばく!』


『しかし、現在13ある防御隔壁の内、第9隔壁まで到達されています。防衛兵器で対応していますがマスターが向かうまで持ち堪えられるかどうか・・・』



ーーギャンッッ!!!


ギデオンを剣の上からブレードで弾き飛ばしながら隠すことのない舌打ちを打つカナタはジグザグと変則的な軌道でレイシアスからの殺意の高い魔法の嵐を回避しつつ、肩にマウントされた『ガーネット高圧魔法素粒子炎撃砲』が極熱の熱線を吐き出しレイシアスを塵へと変えようとする


レイシアスはこれを器用に角度を付けた結界で弾き反らし、命中を免れる


ギデオンとレイシアスはカナタを突破できずにいたのだ


だが、それに反してカナタの頭の中に別の問題が膨らみ始めていく…



(エデルネテルは外に出したくない……!このまま準備を整えて始末する予定だったのによりにもよってなんでエデルネテルなんだ!?狙ってんのか!?今回の件でシオン達に加えてラウラまで戦線に加わる流れになってんのに……エデルネテルにあいつらをぶつけたくない……っっ!!ご、極秘裏に俺だけで始末しないと……!)



内心で焦り散らかすカナタ、それもそのはず


そう、エデルネテルを嫌がる理由はその生態にあった


何故ならば…





(あんなエロゲ出身みたいなバケモンに惚れた女をあてれる訳ねぇだろぉ!?)




エデルネテルが人族の女性を相手に繁殖行為を行うからである。それも、がっつり生殖行為に走り分泌する毒は強烈な媚毒で生体組織以外を融解させる汁を掛けて服や装備だけを蒸発させたりと、それはもうめちゃくちゃしてくるのだ


そんな奴に愛する女性達を連れて行く?



ーーバカ言うなよ!?そっちNTRの趣味はねぇんだ俺はァ!



というカナタの心の底からの叫びが、そこにはあったのである




『警告。強力な魔力を帯びた飛翔体が接近中です』


『なに…ッ…?』



その思考を遮るように、アマテラスがカナタへと警告を発した


その直後に、この魔法入り乱れる戦場のど真ん中で一際強力な魔力が一直線に飛び込んで来るのをカナタの感覚が瞬時に掴み取る


バイザーがロックしたその対象は…カナタからすればなんてことはない巨岩鳥たった一体


だが、どういう訳か通常の巨岩鳥からはあり得ないほどの膨大な魔力を纏い弾道ミサイルのように上空から飛んできているのだ



『なんだあいつ……特異個体…?…いや違う!馬鹿みたいに強化を掛けられてるのか!?マズいっ……アルビオン!全砲門回頭、あの鳥を撃ち落せッ!』



その目的を一瞬にして感じ取ったカナタの命令にアルビオンは応える


戦車部分に乗る多種多様な魔砲の砲門が綺麗に一点を狙い、嵐のような弾幕を展開し始め巨岩鳥を叩き落とすべく砲火を噴いた


他の特攻する魔物を無視してでも、異常な魔力を付与された巨岩鳥一体を危険と判断したのだ


だが、これを通常の魔物とは明らかに違う飛翔によって紙一重で回避を重ねていき、幾つかの魔砲が当たるものの突撃の姿勢を崩す気配がない…恐らくは肉体強度を引き上げられているのだろう


ただでさえ、巨岩鳥は巨体と怪力が特徴的な捕食者であり、自分の身の丈を越える獲物を掴んだまま飛び回れる程の屈強な魔物だ。それが幾重もの付与魔法を受けてこちらに突っ込んできている…まさにミサイルのように


あれの体当たりは流石に厄介…破壊はされないだろうが四魔龍を押さえている以上はかなり面倒な結果になり得るのだ


だが……



『止まんないか…!ならここは俺が潰す…ッ!』



止まらない。撃墜どころか軌道も変わらない。的確に致命となる砲撃を避け、問題ない砲撃は強靭な巨体で受ける巨岩鳥をカナタは自分の手で消すことを判断した


ガーネット高圧魔法素粒子炎撃砲』を構え、即座に発射。螺旋状にエネルギーが渦巻く赤熱した熱線が巨岩鳥の顔面から尾までを串刺しに貫通せんと迫る


が、それを割り込んできたギデオンが剣の一閃によって真っ二つに割り裂き、止めてしまう



『邪魔を……!』


「させてもらう!」


「やるわね、キュリアちゃん…っ!」



カナタに弾き飛ばされたギデオンが再び強襲を仕掛けた


そう…これはカナタが一方的に魔将2人を抑えている、というだけの話ではなくその逆も然り。魔将2人がかりでカナタの足止めをしている状況にもなるのだ


レイシアスの魔法の嵐がカナタの行動を限定し、そこにギデオンが打ち入り自分たちの対処に負わせる…如何にカナタが強いと言えども魔神族最強を謳われる2人を同時に相手にする以上は片手間という訳にはいかない


白銀の剣とブレードが鍔迫り合いを起こし火花が散る中で兜と額を突き合わせる2人が声を被せた




その横を、ソニックブームを巻き起こしながら通過した巨岩鳥が勢いのままに…凄まじい音を立ててガルガンチュアへと激突したのだ



ガルガンチュアが展開するエネルギー装甲が強烈な光を発しながらそれを受け止めるが、突っ込んできた巨体に対してあまりにも勢いが強すぎた


巨岩鳥は自身の出した速度と威力のあまりに肉体がバラバラに砕け散り即死した


これに対して仰け反るようにノックバックさせられたガルガンチュアは無傷ではあった…しかし、組み合っていたガヘニクスにとってはこれ以上の好機は無かったのだ


掴み抑えられていた尾を無理矢理に抜き、その先端の剣状鱗をしなる鞭のように尾をしならせて…100m以上離れているはずのアルビオンへと振り抜いたのだ


400mを越える巨大だからこそ可能な遠隔の鋭利な一撃は、完全にアルビオンの虚を突いた


両腕を切り落とされる軌道の尾を体を反らして避けることに成功したが、アルビオンの腕からグラニアスを掴む手に繋がるワイヤーはその一撃を避ける術を持たない…




結果…グラニアスを止めていた手を繋いでいたカナタ特製の張力鋼鉄ワイヤーは一振りの元に8本全てが両断されたのだ




グラニアスがワイヤーを切られたことで自由を取り戻したのである



『……ッ、面倒な真似をッ!!アマテラス、プランBだ!アルビオン!「ホワイト・アウト」エネルギー充電開始!バハムート、ストームライダーは上からグラニアスを押さえつける!』



怒りを露わにしたカナタからそれを表すように莫大な魔力が爆発するように放たれる…だが、それでも己の兵器への命令を優先した


武御雷は狙撃砲だ。動かれた時点で100%命中しない


故にプランB…アルビオンと他航空兵器郡による正面からの抹殺へとプランを切り替えていく。時間がかかり、かなり泥臭い戦いになるのが目に見えていたが…ここまで来てグラニアスを見逃す選択肢はカナタに無かった



「ギデオン!すぐに離れなさい!途轍も無い魔力がこっちに真っ直ぐ向かってくるわ!」


「あぁ!グラニアス、高度を上げて回避しろ!」



レイシアスの声に直ぐ様その場から引き地面へと戻るギデオン、その命令を受けたグラニアスは直ぐ様四枚の翼を羽ばたかせて高度を引き上げた




直後、それはこの場所へと到達する




身も震えるような魔力が螺旋状に渦巻き、大地をその余波だけで削り取りながら直線上に飛来する光の柱


眩い黄色の雷撃が破壊的な魔力の光と混ざり合いながら高速回転し、あまりの魔力波動によりその方向は陽炎のように空間そのものが歪んで見える程の狂気の一撃……『武御雷』が放つ必殺の砲撃が飛来したのである


だが…それは高度を上げたグラニアスの真下を通り抜ける軌道だ



(ッ……やっぱ当たらないか…!……てか、なんで雷属性に変換されてる!?そんな風に創ってないぞ!?)



…それは置いておいても、カナタは『武御雷』の砲撃に強い違和感を覚えた


ーーなぜ、黄色の雷を纏っているのか?


グラニアスの弱点は雷属性だ。しかし……雷属性は他属性の中でも1、2を争う程に。雷系は放電現象のように雷撃が周囲に拡散してしまう…それによって遠くに飛ばす程極端に威力が落ちてしまうのだ


己の手で編んだ魔法や、さらに小規模ならば成立させられるが『武御雷』程の巨大砲ではこの難関をカナタは突破出来なかった。故に、『武御雷』はただの魔力砲なのである


だが今はそれを気にしてもいられない…外れたのなら『武御雷』による一撃必殺のプランAは失敗だ


凄まじい速度でグラニアスの居た場所を通り抜けた…完全にグラニアスを外したのだ


砲撃の余波が周辺を舐め尽くし、カナタの兵器も、魔物も、魔神族も、カナタすらもその衝撃に身構える中で…



『……はっ?』



素っ頓狂な声が、カナタから漏れた




外れた『武御雷』の砲撃の先端…それが突如としてそこに現れた、空間をゴムのように押し固めたような、まるで空気の層とでも見える謎の存在に命中したのだ


あまりにも意味不明な光景…だが、それだけに留まらず


砲撃が強烈な音を立ててその空間の壁に受け止められた数瞬、次の瞬間……






外れた『武御雷』の砲撃が、上向き斜め45度に


まるで鏡に当てたレーザーポイントのように、極太の巨大ビーム砲が謎の透明な空間壁にしたのである


『武御雷』は狙撃砲であって誘導弾の類ではない…そう、カナタはそんな機能を付けていない。そして、そもそもこれほどの破壊力を持つエネルギー流の方向を鋭角に跳ね返すなどこの世の法則として不可能な筈なのだ


斜め45で跳ね返った砲撃はさらに同じように空間の壁に衝突し、その軌道を真上に向けて変換した



そう、真上に……グラニアスが高度を上げていったその先に向けて



「馬鹿な……!?」


「嘘……っ!?」



ギデオンとレイシアスの息を呑む声と共に、2回の反射現象によって真上に軌道を変えた『武御雷』の砲撃は、そのまま高度を上げるグラニアスの首の真下から……





直撃した





悲鳴を上げる暇すら無い。弾ける雷撃と光が炸裂し、あまりの威力はグラニアスの首を……根元から完全に貫通して吹き飛ばし、胴体と頭部は綺麗に別れ、高度を上げようと羽ばたかせる翼は…完全に動くことを止めた


力を失った首から下の胴体は、そのまま落下に抗うことなく……地面へ地響きとともに墜落し、目を見開いたままの頭部が遅れて落ちる



しばしの沈黙が横たわる…その中で、グラニアスが動き出すことは無かった


その命が散ったことを表すように…巨大な砲撃による光の柱がまっすぐに空へと伸び…消えていく



(なんだ今の…本当に『武御雷』の砲撃だったのか…?しかも命中したのに爆発じゃなくて貫通した…そんな風に創った覚えはない…。武御雷は直撃時の破壊と爆裂でグラニアスの肉体の8割を吹き飛ばす為のモンだ。でも、あの螺旋状の魔力放射は間違いなく武御雷の…)



その光景はカナタの頭を僅かにフリーズさせた


自身が手ずから創り上げ、設定した兵器なのだ。どのような物なのかは細部まで知っているが…どう間違えても武御雷は兵器ではないのだ


本来はない雷属性に、爆発ではなく徹甲弾のような貫通する砲撃…挙げ句、意味不明な空間の壁を利用した反射現象…



(……雷……空間を反射……貫通……なんだこの既視感…どこかでそんな情報を見たことがあるような………………………………………………………っ、おいこれって確か……でもなぜ…!?)








「ッ………やられた……ッ!しかしッ!この場の数の利はこちらにある!全軍、奴の兵を押し潰せ!ジンドーを始末する!」



ギデオンは目の前で仕留められたグラニアスに歯を食いしばりながらも……それでも目の前にある戦況の好機を見逃さなかった


四魔龍が初めて、完全に殺された…その衝撃はあまりにも大きい。だが、この場を囲み送り込み続けている魔物の軍勢は数十万という規模に上る。まさに大地を埋め尽くすような大軍勢、魔物の洪水…それが既にこの場へと到着を果たそうとしているのだ


カナタがこの場に持ち込んだ兵力は限りがある…力の殆どを回復させたガヘニクスも居る今ならば、数の利によって押し潰せる



『くく…っ…は、ははっ…っははは!まぁいい、確かめるのは後だ!グラニアスが居ないなら、もう気にする必要は無いな!アマテラス!』


『ええ、その通りです。私の力をお見せしましょう』



周辺全てを魔物の海に囲まれた中で、カナタが機嫌よく高らかに笑った


どう見ても桁違いの魔物の数に全ての方位を取り囲まれながらも素敵に笑うその姿に、猛烈な悪寒を感じ取ったギデオンの耳にレイシアスの悲鳴のような声が届いたのは同時だった






『加減は無しだ!薙ぎ払えッッ!!』


『了解、マスター。「スターダスト」、全砲門斉射します』





「っ……上よっ!!全員避けなさいっっっ!!」






ーーレイシアスの悲鳴に似た叫び声と共に


  空の果てから光が降り注いだ



どこかから放たれた物が放物線を描いて落ちてきたのではない、空の向こうの彼方から真っ直ぐ落下してくる


まるで流星群のように光の隕石のようなエネルギーがジュッカロ魔棲帯の全域へ豪雨のように空の果てから落ちてきたのである


地上に直撃した光の隕石は一発一発が大爆発を引き起こし、50m以上のクレーターを抉り開ける程の威力を持つ…それが、無数


星々が落ちてきたかのような、空から光が降る幻想的な光景に反し、大地では地獄が形成される


地上を進む魔物はこれに巻き込まれ跡形もなく消し飛び、砕け散り、それでも大軍をもって進む魔物達にさらなる光が降り注ぐ


周囲一帯、何もかも


爆発に飲み込まれ無事な大地は存在しない


連続して爆ぜる破壊によって、地上を埋め尽くさんとした魔物の大軍勢は…為す術無く粉砕された


あまりにも広範囲を破壊していき、地震のように大地は悲鳴を上げて揺れ、壊れていく


まるで光で作られた破滅のシャワーがこの一帯にかけられたかのように…



時間にして僅か40秒



大地を埋め尽くす魔物は一匹残らず、跡形もなく蒸発した



ただ1つの、その魔物を除いて



『…余裕で耐えるか、流石に硬いな』



とぐろを巻き、体を丸めるから頭を起こした巨大蛇ガヘニクスは頭に積もる岩石片や砂を頭を振って落としながら動き出した


その岩盤のような鱗には…嵐のような光の豪雨を受け続けたにも関わらず傷らしきものはどこにも無かった


そのとぐろを巻いた巨体の下から…5人の姿が現れる


ギデオンとレイシアス、そして意識を落としたキュリアを抱えるゼウルとバウロ…彼らはガヘニクスの下に入り込み、空より降る破壊の嵐をやり過ごしていた



「なんスか今の……ッ!どこからあんな攻撃ばら撒いて……!!」


「分からん…。あんな非常識な範囲の破壊兵器があるとは…この周辺のジンドーの兵器は感知出来ていた筈だ。特に広範囲を潰す砲撃兵器は事前に下調べもしていた筈…」



バウロが混乱する中、ギデオンが表情を歪めた


カナタがジュッカロの地とその周辺に兵器群を配置して防衛線を組み上げたのは彼らが襲来するよりも更に前…つまり、魔人族は偵察の段階でカナタの兵器群がどこをカバーしているのかを調べてあった


だが、こんな範囲を吹き飛ばせる兵器の存在は周辺数十kmを超える範囲で調べたが、確認出来ていない


だが…ただ一人、レイシアスだけがたった今…それを感知した



「……空よ」


「馬鹿な…!奴の飛行兵器であんな真似は、あの『バハムート』でも不可能だ。グラニアスを押さえていた兵器も既に居ない…どこにそんな物が…!」


「今もあるわ、私達の真上に……あの砲撃が来るまで気が付けなかったの…。……グラニアスを意地でも殺しに来た理由は、恐らくよ」


「真上………だと……?」



ギデオンが彼女の言葉と視線を追い掛けるように真上へ…空へと目を向けた


何も無い…青い空だけが広がっている


ギデオンには、そこにカナタが操る兵器の影は一つも見えない


彼女が何を示しているのか…最初は理解できなかったものの、徐々に嫌な予感と共にその正体へと考えが向かい始めた





そう…それはカナタが己の相棒として作り出し、見下ろす全てを監視する彼の目でありながらその手下である鋼の軍勢を彼の代わりに操るもう一つのブレイン


大戦を終えてからまる2年の歳月を掛けて建造され、空へと放たれた最高傑作、頂点の一角


は最長の建造期間をもって創り込まれた三機のみ存在する最高決戦兵器の1つ


創造主の無意識と繫り半ば自我を獲得し、己の判断と思考を持ちながら創造主と同程度の考えを行うことが可能となった、文字通りの半身




「まさか……空の上、文字通り…ッ!?そんな場所にまで……レイシアス、届くか!?」


「あの砲撃の魔力でようやく私も完全に認識できたの。私では……あんな場所へ攻撃するのは無理よ。あれを攻撃出来るのは……いえ、出来たのはグラニアスだけだった…星の海まで届く翼を持つグラニアスにしか、あれは攻撃出来なかったのよ。ジンドーはそれを分かってた…」




彼の出身である故郷の神話から、太陽神の名を付けられたこそが普段カナタが会話し、指示命令を下していた存在にしてこの広範囲をたった今灰燼へと化した張本人


この星の上空、約1500kmの衛星軌道上に存在する大規模戦略兵器にして創造主に代わって大部分の兵器郡の司令塔とマザーコンピューターの役割を果たしている


全長1660m  全高660m  


中心部は漆黒のクリスタル型のような巨大な要塞であり、それを取り囲むように8つの同形状基部が連結した形をし、星に向けた要塞底面には様々な戦略兵器が搭載され、様々なセンサーやカメラの役割を果たす部位が目立つその姿




宇宙ステーションではなく、まさに巨大要塞




戦略衛星兵器兼空中決戦機動要塞『アマテラス』




『私の元へ飛翔可能なグラニアスはもう居ません。最早、隠れ潜む必要は無い。ーー殲滅します、全てを』


『あぁ。トラブルはあったが結果オーライだ。グラニアスは死んだ。お前を止められる奴はほぼ存在しない…防衛線の魔物を鏖殺しろ、アマテラス』


『了解です、マスター』




彼女に搭載された広範囲殲滅用の魔法素粒子カノン砲『スターダスト』によって、ジュッカロ魔棲帯の魔物はガヘニクスを除いて文字通り一掃された


言葉が表す通りの、地球ではSFによる空想の産物である衛星支援砲サテライト・ブラスターによって






とぐろを巻いた防御姿勢からガヘニクスが動き出した


がぱり、と大口を開けると…己の主たる魔人族の5人を丸ごと口に入れたのだ


呑み込んだ訳では無い、口の中に入れたまま地面に頭を突き刺し柔らかい砂に潜り込むかのように大地を掘り進み瞬時に姿を地に潜めていく…彼らを匿ったまま撤退したのだ


流石のカナタと言えども瞬時に逃げに徹したガヘニクスを瞬殺するのは不可能。ガルガンチュアも同じである


この場は見送る他ないカナタの前からガヘニクスの姿が完全に地中へと消え…沈黙が周囲を支配した


様々なトラブルや予想外はあったものの、グラニアス抹殺は…完了したのだった


しかし、タダでは終わらない



『マスター、報告です。封印中枢「AUTUM」が完全に破られました。内部よりエデルネテルが逃走、『エンデヴァー』はガランドーサからの妨害により主砲「ルーラー」を中破。私のレーダーから完全に消失しました』


『面倒なのに逃げられたな……一体潰して一体取り戻されたか。エデルネテルがマジで隠れる時の保護色は俺の持つレーダー系だと捉えられない……ガヘニクスの地中潜航も同じだ。はぁ……索敵探知系の魔道具は要研究だな…」



カナタが肩を落としてため息を漏らし、同時に身に纏っていたリベリオンを解いた


魔蟲龍エデルネテルが封印より脱走したのだ


手引をしたのは三魔将『絶壊』のガランドーサ


封印地にて防衛とエデルネテル迎撃に出ていたガルガンチュア型3番機、エンデヴァーはこれを殲滅するべく戦闘行動に出たが弱っていたとは言え四魔龍と三魔将を同時に相手にするのは分が悪かった


封印の地であるユピタ紅葉林は大規模炎熱系兵器で文字通り焼き払われ破壊しつくす程の戦闘を発生、しかしガランドーサ相手では大型兵器の鈍重さは相性が悪い。結果、エデルネテル殲滅用の専用砲『ルーラー』をガランドーサに発射不能にされてエデルネテルは逃走


駆け付けたカナタの兵器群でも最速の戦闘機『ブラスター・ウィング』四機も追撃に合流したが、魔人族最速のガランドーサはこれを迎撃


一機を撃墜され逃走を許してしまったのだ


グラニアス討滅は成功した


だが、新たな暗雲に気落ちするカナタは今、無性に仲間達に会いたくなるのであった





ーーオペレーション『バードストライク』


  完了






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【Database】



〘名称〙アマテラス



〘兵器呼称〙戦略衛星兵器兼空中決戦機動要塞



〘諸元〙

『全長』・1660m


『全高』・660m


『主機』・無時限機巧炉心クロノスギア・リアクター×2(主機関メインコア×1・戦闘機関ウエポンコア×1)


『補機』・魔法素粒子吸気魔導炉心エーテリックマギアス・リアクター×6


『兵装』

終極砲ジ・エンド「ブルー・ノア」×1


魔法素粒子直変換爆縮魔動砲エーテリック・インプロージョン・ストライク・マギアブラスター「ミーティア・フォール」×4


四連装魔法素粒子高速射エーテリックラピッドカノン砲『スターダスト』×8


・大口径魔導炎熱グレネード投射機『ソニックメテオ』×3


・貫通狙撃光線魔導砲『ギャラクシア』×8


・高圧増幅型熱レーザー魔砲『プロミネンス』×6


・三連装70cm魔砲素粒子砲エーテリック・カノン×8


・三連装43cm魔砲素粒子砲エーテリック・カノン×15


・二連装炎熱速射砲×248


・三連装雷撃旋回砲×248


・大八型魔障領域エーテリオン・フィールド出力魔導コイル×12


・他搭載機材多数



〘概要〙

魔神大戦後期から彼方が構想していた戦闘衛星兵器を大戦終了後に様々な兵器製作の傍らで地道に創り、打ち上げた


2年という最長の建造期間によって建造された三機ある最終決戦兵器の1つであり、常日頃から彼方をサポートする役目を任され常に彼方の上空1500kmの位置に存在しながら、高性能観測魔道具を数多搭載して地上の様子を観測し続け強力な魔導通信兵装によって他魔導兵器郡の統率を行う


人格に近い物を持っており、これら精霊召喚の技術によって召喚した精霊を元に彼方自身の判断、思考を時間を掛けて学習させて自我を獲得。その後は常に彼方の無意識領域との接続をする事で彼方とほぼ同等の思考と判断が下せるAIに近い存在へと進化した


その本体こそが全長にして1.6kmにも及ぶ巨大な空中要塞であり、本体の殲滅能力は尋常ならざる物が搭載されている


特に広範囲破壊兵器の類を多く搭載し、衛星軌道上からの支援砲撃や戦略爆撃を行い地上目標を粉砕する役目を負っておりその他の大口径砲から近接防御火器の類を大量に搭載した重火力偏重の武装を扱う


だが、支援がメインであり他の二機と違って直接の殴り合いはそれほど重視されていない面が弱点となっている


が、そもそも衛星軌道上に攻撃可能な者など殆どアルスガルドには存在せず、ましてや直接乗り込んでこれる者も存在しないに等しい事もあり事実上の無敵に近い


その中で唯一と言って良い直接攻撃可能かつ1500km先のアマテラスを感知出来る存在こそが四魔龍の一角、星の海を渡る翼を持つ魔鳥龍グラニアスだった


もしもグラニアスが居れば、弱った状態ですら1500kmへの飛翔は簡単に可能であり衛星軌道上で戦闘機並みの機動力を誇るグラニアスに有効打を与えられる兵装はアマテラスには搭載されていなかった。


重厚な装甲と凄まじい出力のエネルギーシールドを装備してはいるが、重火力偏重の弱点がグラニアスとの相性を悪くしており、アマテラスによる一方的な戦況有利を作り出すべく最重要抹殺対象としてグラニアスを殲滅する為の大規模作戦こそが『バードストライク』であった


しかし、その探知機能も万全とは言えない


地中や海中までは潜航されれば感知が非常に難しく、これによりガヘニクスとルジオーラの居場所をアマテラスは上空から捕捉することが不可能となる。さらに、魔力探知よりも広範囲を光学探知が担っている事から擬態や保護色に特化した隠密性を持つエデルネテルの補足も困難であり隠れ潜む四魔龍を見つけ出すのは至難の業となる





創造主である彼方のちょっとチキンで奥手な所に前々から背中をゴリ押す言葉をかける程度には彼の幸せを願っているらしく、もしも生身があるならば溜息が止まらないんだとか



〘一言コメント〙


『やはり破壊力のある魔砲を撃つ瞬間が一番生を実感します。マスターはもっと私に射撃許可をくれるべきです。「ブルー・ノア」は撃つとかなりよろしく無い事になりますが、他の兵装は撃っても多少広範囲の地形が変わるだけですから安心安全。私の火器管制システムは完璧です、地上の蝿一匹すら撃ち抜いてみせます。まぁ蝿と一緒に周辺一帯も消し飛びますので意味はありませんが。ちなみにオススメは「ミーティア・フォール」です。事あるごとに発射の提案をしていますが、マスターはなかなか撃たせてくれません。いつの日か、形振り構わず乱れ撃ちが出来る日を、楽しみにしています』



※彼方は教えていないのだが、何故かトリガーハッピーな部分があり事あるごとに大威力砲を撃とうとしてくる。あと彼方がデータに纏めた自身の兵器や試作の類いをネットショップのカタログのようにいつも見ているらしく、何かと新武装(特に大威力兵器)のおねだりをしているらしい


これでもマシになったらしく、少し昔は週に一度は彼方から「いいか?絶対に勝手に撃つなよ?絶対だぞ?絶対撃つなよいいな?」とまるでフリの如く釘を刺されていた

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