第113話 『バードストライク』Ⅶ

ーーそれが動き出した時、大地は震え、火は怯えた


  兵を上げて鬨の声を上げた時、地より這い出た      

  その姿を黄泉でも忘れはしないだろう


  その身を螺旋に巻き積み上げ、冷酷なその眼が

  見下ろす先、我々はあまりに非力と知る


  奴は大地の悪魔、星に身を埋め住まう帝王


  進むだけで人の積み上げる文明と命と、そして

  希望の火を擦り潰す


  もしも私に来世があらば


  奴に神なる罰が下りていることを祈るのみ


  その名は忘れることは無いだろう…


  〜〜亡バンバス公国遺言書より

      ドリュー将軍の遺言抜粋
















アルビオンの巨体が完全に宙を舞い、背中から地響きと共に大地へと落下するのが見えれば思わず舌打ちを漏らすカナタ


全長80mを超える巨大マシンをかち上げて浮遊させるなど尋常の力ではないが、その犯人は地面を突き破ってアルビオンへ向けて体当たりをしてきていたのだ


地面から抜け出してきた赤褐色の長大な巨躯が、ぐるりぐるりと、とぐろを巻く


びっしりと並ぶ岩のように鋭利に隆起した分厚い鱗に、頭部の下の方には太く三本指の両腕、まるでトンネルのように太い胴体、尾の先端は槍のように長く鋭く、縦に割れたような瞳孔が周囲を睥睨する…その姿は腕があることを除けば巨大過ぎる蛇のように…



ーーsyyyyyaaaaaaaaaaaaaaa

aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!




2本の牙をむき出しにして、空気を音波が押し寄せるほどの咆哮を響かせたその怪物


ビリビリと大気を震わせる魔力の波動は側にいるグラニアスの比ではない。まるで子供と大人と言える程に、その魔力の高まりはレベルが違う物があった


苛立ちを隠さないカナタが…その名を叫ぶ





『チッ……!邪魔をするなッ!ガヘニクスッッッ!!』




四魔龍の一角、大地の悪魔、溶炎の帝王




魔蛇龍ガヘニクスが、今ここに出現した




そこに怒りを見せるカナタの手元に光とともに出現した「コ」の字型の長砲身を持つ兵器が現れそのグリップを握りしめ、即座に砲口を闖入者へと差し向ける


菱形のパーツが砲口の前に円を作り膨大な魔力を黒紫のスパークと共に放てばガヘニクスの眼が素早くギョロッ、とカナタへと急いで向けられた



『鎧装、魔砲ブラックパールッ!!お呼びじゃねぇぞ蛇ッ!大人しく地面に埋まってろッ!!』



即座に回した魔力と共に引き金を引き、白と黒の混ざり合う破壊の奔流が巨大蛇へ向けて放たれた


これに対し、ガヘニクスは大顎を開きマグマのような灼熱のエネルギーを溜めもなくブレスとして撃ち放った


まるで溶岩の奔流にすら見える煌々と白熱したエネルギーの一閃はカナタが放つ魔砲ブラックパールと正面から衝突し、押し合う程の威力を見せつける


手にした魔砲ブラックパールが「キィィィィ」とエネルギーを吐き出す凄まじい音を響かせるが…ガヘニクスのブレスは押されることはない、完全に拮抗してしまう


その隙に……後方から杖を向けたレイシアスの魔法が何十発もの魔法の榴弾を放ち、カナタの背中へと全弾を直撃させた


流石のカナタも無防備にそれを受ければ不動とはいかない


魔障領域エーテリオン・フィールドが青白い光を放って削り取られながら大爆発を引き起こすその魔法に吹き飛ばされて地面に叩き付けられる…その寸前でブースターを噴かせて体を立て直し両足から着地



『っテぇな…!アマテラス!ロッタスに回したカーゴウィング大型輸送機は来てるか!?』


『既に上空へ到着しています。何とか間に合いましたね、当たって欲しくない予想ではありましたが』


『わざわざ遠路はるばる運ばせた甲斐があったな…!牽引ワイヤー連結解除、降下開始!武御雷のロックオンまでの時間を稼がせる!』


『了解、カーゴウィング六機の牽引ワイヤーを解除します。・・・解除完了。タッチダウンまで11秒』



ガヘニクス……おおよそ数ヶ月程前、まだ学院に行きたての頃に封印を抜け出した四魔龍


今まではロッタス山の地下に眠る膨大なマグマの熱量を浴びて封印により失った力を取り戻すべく休眠状態だった


それが今、この場に現れた


グラニアスと比べても圧倒的な魔力とアルビオンを撥ね飛ばせる程の馬鹿力を発揮しているのは、それだけ本来的の力を取り戻してきている証拠だ


爛々と輝く蛇眼が、背中から巨大なブースターを使って起き上がるアルビオンに向けられる…かつて、ただ一体だけこのタイプの巨兵と戦ったのがガヘニクスだ


その眼にはかつての忌まわしき怨敵の姿が被さって見える…


しかし



『この魔力……戻した力は80%ってところか。随分とよく休めたみたいだな、ガヘニクス…でもそれはこっちも同じ事だ…!』



空から巨大な影が降ってきたのをガヘニクスはその目で捉え、舌を小出しにしながらシュルシュルと声を鳴らす


一瞬、陽の光さえ遮る巨体が地響きを立てて勢い良く…着陸した


アルビオンと基本的な形態は同じ、戦車型の巨大下部に人型の上半身が乗った姿。

しかし、装甲はアルビオンよりも分厚く、両肩にはマウント式の大砲が付けられていない。背中に背負うような追加のバックパック型装甲から繋がって肩上から砲口が覗く無砲身の兵器が見えており、両椀の上部から見える砲口や胸部中心に見える宝玉型の大型パーツが特に目立つその姿


ガヘニクスの頭部にある冠鱗が逆立ち、全身の鱗を擦り鳴らす警戒音が鳴り響いた



『タッチダウン完了しました』


『第1戦闘出力!ガヘニクスを黙らせろ、ガルガンチュアッ!』



空からやってきたもう一機の巨兵…ガルガンチュアがその機械質な駆動音を鳴らして動き出した


カナタが大戦中に建造した巨大兵器の1つ、ガルガンチュアは当時ただ1機のみしか存在しない機体であり、当時このガルガンチュアが戦った存在こそがガヘニクスである


戦果は上々、ガヘニクスを勇者パーティとの連携も合わせてノックダウンさせ、戦闘不能へと追い込むことに成功したのだ。しかし当時は一品物の名付きネームド機体であったガルガンチュアはまだ完成とは遠く、文字通り勇者パーティの「タンク」として前に立ちガヘニクスの猛攻によって大破…自走不可能な程の損壊を負うに至った


それから3年と余りが経過し…四魔龍対応機として三機の姉妹機がロールアウトした後にその技術の集大成として1番機ガルガンチュアを改修


つまり最新にして技術的、性能的に僅かであるが最も性能が進んだ機体こそが最初にロールアウトして最後に改修されたガルガンチュアである


ロッタス山にてその地下に眠るガヘニクスが復活した瞬間に始末するべく待機させていたのを、カナタが急遽計画を変更して大型の輸送機を六機も運搬用に向かわせてこの地に持ってきたのだ


もしも魔神族が全力でグラニアスを確保しに来るならば…この戦場に出てくる可能性がある、と踏んだカナタの勘は命中した




かつて己を抑え込み生涯唯一の敗北に追い込んだ巨兵を目前にしてガヘニクスの殺意が魔力と共に膨れ上がり、咆哮を鳴き上げて凄まじい勢いで突進を開始した


その全長400mは下らない巨体を猛烈な速度でうねらせ、大口を開けて突き進むガへニクスに対し、ガルガンチュアは4基の巨大なキャタピラを唸らせて正面から前進を開始する


両者一歩も引かない突撃は直ぐに双方の距離を食い潰し、3年余りの時を超えて再び真正面からの激突を果たした


山と山をぶつけたような衝撃音を響かせて巨兵と魔蛇龍が互いへ襲いかかった。

太い三本指の両腕を立てて掴みかるガへニクスがガルガンチュアの両肩部を掴みその頭部を噛み潰さんと大口を開けて迫り、その頭部を巨手で掴み抑え込むガルガンチュアが下半身の戦車部に備えられる多数の無砲身砲が、多量の砲撃を浴びせた


ガヘニクスは巨体へ炸裂する砲撃に怒りを見せ、尾の先端にある剣のような尾部を真っ直ぐに突き出し巨兵の胸部を刺し貫こうとするが、上半身部分を回転させてこれを回避したガルガンチュアがガヘニクスの頭部と尾部を掴み上げ、逆に剣状の尾部を持ってガヘニクスの頭部を貫こうとする


が、片腕だけで抑えきれなくなったガヘニクスの頭部は大顎を開いて溶岩のような熱弾をガルガンチュアの頭部に乱射し始めた


爆発がその頭部を覆い尽くす中でガルガンチュアが尾部を手放し、頭部を両腕で掴み上げると…ガヘニクスの巨大な上身をバーベルのように、前方に投げ付けたのだ


爆炎が消えたガルガンチュアの巨体は…未だ無傷


魔障領域エーテリオン・フィールドのエネルギー装甲はその巨躯に見合う桁違いの出力によって全身を覆っており生半可な攻撃では貫通しない


だが、ガへニクスとてその強靭な鱗の強度はグラニアスの比ではない


飛行を考えなければ怪力、防御共にガへニクスは四魔龍の中でも一番と言える強さを誇る地上の怪物。ガルガンチュアが浴びせた砲撃も近接防御や副砲レベルのものであり、ガへニクスにとってはダメージ足り得ない



両者が距離を離して睨み合う…その少し離れた場所で、グラニアスが再び空へと飛び立とうと翼を撃ち始めた


掴まれればアウトというのを思い知らされたグラニアスにとってアルビオンが居る地上に居ることはあまりにも不利。空中にて攻撃を浴びせかける為に今一度宙へと舞い上がる…


が、これに対してアルビオンが両腕をグラニアスに向けて突き出した


手首部分の装甲が展開したかと思えば…グラニアスに向けてなんとのである。虚を突かれたグラニアスの首と右翼の付け根に両手が直撃して掴み上げてしまい、バランスを崩すグラニアス


射出された両手は四本の極太鋼鉄製ワイヤーで繋がれており、これによりそれ以上の空中へと飛翔は不可能となっていた。挙げ句、アルビオンの戦車部の各所からアンカーが地面に発射されて機体を地面に固定…これによりグラニアスに持ち上げられてしまうことを防ぐ



「っ……離しなさい!」


『させると思ったか!』



これに焦るレイシアスが空中でアルビオンに杖を向け背面に多数の魔法陣を展開するが、真正面に迫るカナタがこれを阻止にかかった


レイシアスが操る多量の魔物を、カナタの周囲を飛び回る異色の戦闘機が片っ端から撃墜していくのが見えた


滑らかな曲線で構築された漆黒の戦闘機…それが機体各所からブースターを噴いて強烈な機動力を発揮しながら放つレーザー機関砲で魔物達を蜂の巣にしているのだ


その数、たった五機…カナタが量産型のハイエンドモデルとして創り出した『イクシオン』シリーズ…それが今、カナタの露払いとして猛威を振るう


その五機が開いた空の道を駆け上がり、魔法を構えたレイシアスへと襲い掛かった


右腕の追加装甲に内蔵された魔法『フロライト』がドリル状に螺旋回転する風の弾丸をライフル弾のように単発で放ち、両脚の追加装甲に内蔵された多連装魔法射出機構『ジャスパー』がミサイルのように魔法弾をばら撒き意思を持つようにそれがレイシアスへと追尾していく


レイシアスはフロライトの魔法弾を即座に降下することで回避し、展開していた魔法陣から放つ多量のレーザー系魔法によって自身を追い縋るジャスパーの魔法弾を片っ端から撃ち落としにかかった


距離を詰めるカナタの目の前に金剛級の鳥類型魔物が数匹躍り出て襲撃にかかるも、これを両腕のブレード『イガリマー』『シルシャガナ』で両断、目にも止まらぬ速さでバラバラの肉塊へと解体し、他に集る魔物の群れを左背面から左肩にマウントされたガトリング砲に似た魔砲『カルセドニー』が雷撃の魔弾を乱射して蜂の巣にしていく


本来ならば出現するだけで国や街が非常事態に陥る金剛級や白金級の魔物の軍勢をボトボトと屍に変えて地面に叩き落としてレイシアスに迫るカナタだが…ここに来て違和感を感じ取った


地上の方…ジュッカロ魔棲帯の内部でそこら中に感じる大量の反応は…



『魔物…?防衛線は生きてる筈……いやまさか…ッ!』



魔物、それも莫大な量の反応がこの場所を囲むように出現していくのだ


転移阻害の結界は先程まで生きていた…ジュッカロ魔棲帯の周囲を囲むように展開させたカナタの防衛圏は押し寄せる魔物を駆逐し続けその機能を維持している


ならば何故、その防衛圏をすっ飛ばしてジュッカロ魔棲帯の内部に、この中心部を囲む形で魔物の軍勢が突然反応を示したのか…?



『あんの蛇……転移阻害の魔道具を壊してここに来たのか…!面倒な事しやがって……ッ…初っ端からこの場に向かわなかったのはこんな事してたからか…!』



答えは簡単だ


ガヘニクスはこの場所へ地中を潜航しながらやってきていた。転移阻害も地上の防衛も関係ない移動方法…本来ならばグラニアスが解放された瞬間に妨害へ現れるのが効果的だった筈だ


それをしなかったのは…十剣隊が転移阻害を無効化出来なかった後処理として三箇所ある転移阻害結界の起点を破壊してからここに来たのからであった


転移が可能とならば、このジュッカロ魔棲帯へ直接魔物を転移させてしまえば良い。周囲を取り囲むように莫大な量の魔物を転移させてから一斉に突撃させていたのである



「さぁ!その命を燃やしなさい!貴方達の王を、その身を以て解放するのよ!全軍、突撃っ!」



レイシアスの声に、はっ、と振り返れば彼女の号令は天を覆い尽くすような数の有翼の魔物達へと下だされた後の事…




その命に従い、空を駆ける有翼の魔物達は全てが飛行することを止めた




重力に身を任せ、羽ばたく力を真下への推進力にのみ変換して弾道ミサイルのように空から猛烈な勢いで落下を開始したのだ


その全てが…




アルビオンへ向けて




『チィッ……!!全機、対空防御!片っ端から撃ち落とせ!』




その意図を察したカナタが号令を重ねる


地上に巻き込まれないよう散っていたカナタの兵器群がその砲口を一点に向けて、魔力を開放する。空に降り注ぐ光の弾幕と化した凄まじい砲撃は一瞬にして百、千、数千という魔物を粉砕して叩き落とすものの…魔物の数が多すぎた


突撃する魔物の一群がアルビオンに体当たりを敢行したのだ


青白のエネルギーシールドに当たり、自身のあまりの速度で魔物の肉体はひしゃげて砕け、一瞬にして二度と動かぬ屍へと変わる…だがそれを恐れる様子はない


次々とその身を弾頭として体当たりを仕掛けてくるのである


アルビオンが放つハリネズミのように張られる対空弾幕すらも対処できない数の魔物が命と引換えに大型の体躯を質量弾へと変えてそのシールドを削り取る…文字通りの特攻


ただの鳥ならば問題ないが、突っ込んでくるのは最低でも胴体5、6mは下らない魔物達だ。その威力は単純ながらに高い…アルビオンの巨体も揺れ動かされ始めていた


加えて、アルビオンの両手から逃れようと暴れまわるグラニアスが狂ったように風のレーザーブレスや羽根のダーツを乱れ打ちしており、それがさらにアルビオンのシールドを削り取る…一部は既に飽和して消失し始めており、分厚い装甲に風のレーザーブレスがガリガリと削り跡を刻んでいた



『こんな作戦名バードストライクなんて付けたからって、そんな攻撃してくるか……!?アマテラス!ロックオンは済んだか!?』


『標準、完了。射線固定、完了。発射軸ロック、完了。いつでも撃てます』


『よし…全員聞こえてるな!戦闘中断、すぐに合流ポイントまで撤退!迎えを出す!巻き添え食うなよ…!』



勇装通信の能力により、カナタお手製の装備を身に着けた5人はその連絡を聞き取った


シオン、マウラ、ペトラは魔神族の3人への追撃を停止


ラウラとレオルドは地形を変えながら戦い続けていたギデオンとの戦闘を中断し、距離をとる


カナタの側を飛び回っていた5機の戦闘兵機イクシオンが踵を返して猛烈な速度で戦場を離れ始めた。戦場に散る仲間達を回収し、速やかに安全地帯まで運び出す為に



『マスター。アルビオンの拘束に8%の緩みが検出。拘束可能時間はこのままいけば42秒しかありません』


『それだけあれば問題ない!一一式・武御雷……発射ッ!』




それを確認したカナタの命令が下り…この戦いを終わらせるべくその一撃の引き金が、ついに引かれた






ーーー






「撤収ですわね…」


「おう。やれるだけやった筈だ。しかしまぁ、あのギデオンを俺達2人で足止めとはなァ」


「借り物の力とは言え、ですわねぇ。昔から考えもしませんでしたから、この力を素で引き出せなければいけませんのに…」


「ダッハッハッハ!欲張んなよラウラ!カナタのヤツと居て感覚狂ってると後々大変だぜ?」


「そんな事ではありませんわっ。…今一度、カナタさんの戦いを見て己の力不足を感じただけですのよ」



遠くで巻き起こる大戦闘を見詰めるラウラとレオルドはカナタからの通信を聞いて策を講じた。周囲を取り囲んでいた結界を、レオルドとギデオンの戦闘の破壊に合わせてわざと崩壊させたのだ


グラニアスが巨兵に首を掴まれる姿を見ていたギデオンは一目散にこの場を離れて戦いの中心地へと向かって行ったのである


元より少女3人を護るための足止めだったが、グラニアスがあそこまで打たれているのを見れば直接の援護を選ぶ…そう踏んだのは正解だった


無傷の二人に見えるが、その実かなり体中傷だらけであったのだが…そこはラウラの聖属性魔法の一振りで綺麗さっぱり元通り


だが、その視線の先で巻き起こる大規模な戦争を目の当たりにすればこのまま自分達だけ退く事に抵抗を覚えるのも無理はなかった


そんなラウラの心中を察してか、豪快に笑うレオルド


カナタの立てた作戦…というよりグラニアスの抹殺方法を聞けば自分達は逃げる他無いのは確かな事だったのがラウラにとってもやりきれない部分なのだ


間もなく、このジュッカロ魔棲帯を縦断する形で超遠距離からの巨大魔力砲撃が射線上のあらゆる物を消滅させながら放たれる…そこに味方など居てもしょうが無い


その沈黙を割くように、スライディングのような地面を擦る音と共に彼女たちの声が聞こえてくる




「ラウラさん!レオルドさん!無事でしたかっ!?ギデオンは……っ!?」


「落ち着けシオン。…どうやら、終わった後のようだ。無事のようで安心した…我らが言えたことでもないが…」


「ん……大丈夫……?…あ、その格好……っ!」



見れば息を僅かに荒くしたシオン、マウラ、ペトラの3人が慌てたように走ってきたようだ。遠目からギデオンが中心場へと去って行ったのが見えていたのだろう


顔合わせて一番にマウラが2人の身に纏う装備を見て反応を示した


3人がラウラとレオルドが纏っている戦闘装束、黄金纏こがねまとい戦纏いくさまといを見るのはこれが初めてのこと。2人はこれをとっておきとして密かに使い熟そうと僅かな時間ながら修練を積んでいた



「3人とも、大丈夫そうですわね」


「おう!確かラウラに喝入れられたんだったか?ダッハッハ!効くだろ、コイツのは!」


わたくしを鬼教官のように言わないでくださいな。それはともかくとして……恐らく状況は悪い方に移りましたわね」


「そうであった…。あの巨大な蛇龍はまさかとは思ったが、やはり…………あれがガヘニクスなのだな」


「し、正直こんな近くで四魔龍が2体も見えているのは驚愕です…。それにあれは……グラニアスより強く見えます」


「それは封印の解放時期の問題ですわね。カナタさんの封印は生命力を魔力ごと引き抜いて地下の魔力脈…龍脈に投棄する仕組みでしたから、封印解放後は言わば『命と力を吸われ続けた直後』…もっとも弱体化してるタイミングですのよ」


「逆に言えば、封印から出ちまって時間があれば四魔龍は本来の力を取り戻す…ってこった。カナタのデケェ兵器が余裕でグラニアスを抑えつけられてるのはそういう事だな」


「……でも確か…もう最後の攻撃が来るって言ってた……っ。…な、なんか長い名前の大砲…っ」


「『武御雷』、ですわね。3年前にグラニアスを撃ち落とした魔砲…その進化版とお聞きしていますわ。直撃すれば今のグラニアスなら恐らく…一撃で片が付きますわね」


「問題はガヘニクスの野郎だ。カナタの奴、ガルガンチュアをロッタスからここまで持ってきてやがった…ただそれでも抑えつけられるかは五分だ。昔は俺達とガルガンチュア総掛かりでガヘニクスを潰したんだが……」



視線を向けた先で巨大な蛇龍と鋼鉄の巨兵が衝突、大規模な肉弾戦を行っているのが見えた


その胴体にガヘニクスが巻き付いて大顎を食い付かせようと何度も迫り、これを巨腕で防ぎながら副砲をゼロ距離で放つガルガンチュア


規模が大き過ぎる戦い、しかし互いに相手のエネルギーフィールドと装甲、分厚い龍鱗を突破するには至らない


恐らくはアルビオンへの邪魔をガヘニクスにさせないように、敢えて距離を離させず肉弾戦をメインで行なっているのだろう。アルビオンは武御雷を直撃させる為の拘束兵器を持って一定の高度にグラニアスを縛り付けたままにしている


だが、その体に多量の上位魔物が砲弾と化して体当たりを仕掛けているのが見えた


形振り構わない、金剛級や白金級の魔物すら使い捨てにする特攻…それは確実にアルビオンの姿勢や拘束を削り続けていた


カナタはこのジュッカロ魔棲帯とカラナックの街に魔物の軍勢を近付けさせない為に莫大な戦力を配置した一方、この戦場には四魔龍と魔将との戦いに巻き添えとならないよう少数精鋭を連れ込んでいた


…それがここに来て裏目に出たのだ


高性能機故に負けることはないが…相手の数による飽和攻撃があまりにも分厚すぎて落とし切れなくなってきていたのである


アルビオンが姿勢を崩す前に決着を着ける…その為にカナタは武御雷の引き金を即座に引いたのだ



風を切る音と機械的な駆動音が空から迫り、見上げれば漆黒の戦闘空戦機が5機、ゆっくりと滞空しながらこちらへ降りてくるのが見えた


カナタが5人の輸送に出した戦闘空戦機イクシオンだ


黒く滑らかな曲線は地球の現代戦闘機にも似通った特徴とも言えるが、形状はイクシオンの方が翼が短く、胴体部分がかなり厚みのある形状をしている。兵装は全て内部に搭載されているのだろう、表面上に見えるのは機首部分に見える穴状の光線系魔砲によるパルスレーザー機銃のみだ


ゆっくりと着地を果たしたイクシオンは大きさにして18m近くある大型の戦闘機である


通常ならばコックピットにあたる部分の装甲が展開していき、内部に乗り込めるためのスペースがあるあたり、かなりマルチな役割を持たされている事が伺えた



「おぉ……これに乗れってか。なんつうか……アイツの兵器に触るのって初めてじゃねぇか?」


「確かにそうですわね…よく考えればここまで間近で見たことは無かったかもしれませんし…」



ちょっと感慨深くイクシオンを見つめる勇者パーティの2人


学院で目の前で見ているシオンは別にしてペトラとマウラも目を丸くして「おー…」「……おっきい…」とぽかーん、としていた


そんな彼らの背中を押すように、5人の脳内に機械的な警告音が響き渡る



『警告。遠距離狙撃砲、『武御雷』が発射されました。射線上の友軍は速やかに退避してください。繰り返しますーー』



「ここまでですわね…!さぁ、早く行きましょう!」


「やっべェ!?とっとと逃げんぞ!…とは言え、俺の体じゃせめぇな…。なぁお前、上とかに乗れねぇのか?」



ここに来て、遂に終戦の決戦兵器『武御雷』のトリガーが引かれたのだ


間もなく飛来する高エネルギー魔砲の余波によりこの周辺は灰燼と化す…その前に離れなければならないのだが、ちょっとコックピット部分がレオルドの図体には狭かった


「もしかしたら話せば分かるんじゃねえか?」と思ったレオルドが試しにイクシオンに向けて言ってみると、少しばかり考えるような機械音の後にコックピットが閉まり、機体の背面部が一部展開してあからさまに掴まる為のバーが出てきた


4人が思った…「え、そんな事も出来るの?」、と…


レオルドだけが「よっしゃぁ!言ってみるもんだな!」と機嫌よくイクシオンの背に飛び乗り、馬の鞍のように曲線の背に跨ると騎馬のようにバーへと掴まり……その直後に滑らかな動きで発進、上昇を開始したイクシオンの上で「うぉぉぉぉぉすげぇぇぇ……………」とドップラー効果による引き伸びた声を響かせて空へと飛び立っていく


それを見送り、ラウラ、シオン、マウラ、ペトラはお互いに顔を合わせるとそれぞれ近くのイクシオンに向けて同時に言った



「我も上が良い!」「私もです」「んっ!」「上でお願いしますわ」



イクシオン、ちょっと考えた


考えた末に、仕方ないから背面に安全バーを展開した…


だって、早く飛ばないと巻き込まれるし…


そんな声が聞こえてきそうであった


4人がイクシオンの背に乗り、バーに掴まればジェットブースター部分から光を噴いて空へと発進する。体にかかるGと強い風を感じながら上空へと飛び遥か下に見える地面は見たことのない世界…まるで鳥の視界にすら見える景色に感動を覚えたのも束の間


ジュッカロ魔棲帯外縁部から尋常ならざる量の魔物が中心地に向け洪水のように押し寄せる光景が真下に見えてきた



「あれは……!まさか転移阻害の結界が破られたんですか!?」


「ガヘニクスにやられましたわね…!残念ですけれど…今の私達では一部を止めても足止めにすらなりませんわ!」


「だがっ!あれが押し寄せればカナタが…!」


「アイツを信じろ!何体いようと魔物に殺られるタマじゃねぇ!逆に俺達が居たら範囲攻撃が出来ねぇんだ!」


「……す、すごい数……っ。……見たことないよ……いくら何でも……っ」



勇装通信の機能によってシオン、ペトラ、マウラの届く声は不安と焦燥に追い立てられたものであったが、ラウラとレオルドはこれを一蹴する


周囲360°から迫る魔物の洪水だ、自分達がどこかを止めても意味が無い…それを2人は理解していた


だが、その進行方向を見送り、視界の先に戦場の中心地に向いた瞬間…



「…ッ、おいマジかあれ…!!」



レオルドが目を見張った


その視線の先で……



ガルガンチュアが何かによって体勢を少し崩しており、これにより掴みが緩んだガヘニクスの剣状尾部が伸び、アルビオンがグラニアスを掴んでいる手を繋ぐ計8本のワイヤーを……ばっさりと切断してしまったのであった





『武御雷』の発射直後にグラニアスの拘束が…解けたのである





ーーー





『凄い…!これは凄いな!どこが何のパーツなのかさっぱり分からないのに興奮してくる!まるでデス・◯ターの中って感じだ!あ!あそこ、魔力が流れてる、行ってみよう!』


『なぁ……良かったのかよ、中に入って』


『俺ゃ知らね〜よ?後でトラブって黒鉄からボコボコにされても』


『とか言いながら全員入ってるあたり、言い逃れは無理よねー。何も触らないでよ?私、死んだ後でまで殺されたくないんだから』


『あー…黒鉄なら霊魂から殺し直すくらいしてきそうだな。マジで何も触るなよ雷導?あの害鳥ぶっ殺す為の切り札だぞ?何かあったら…』


『あれ見てみろ!凄い魔力だ…収束機か?あっちに続いてるな…きっとこの先に射撃統制とか術式制御をしてる場所があるはずだ!行ってみよう!』


『『『…駄目だこいつ…』』』



頭を抱える百合恵、禅、義也の3人が浮かれ立つ理斗に肩を落としてため息を漏らした


3人の忠告を聞き流し見事にスルーした理斗が巨砲の砲台施設内へと入り込んで行ってしまったのを「やれやれ…」と呆れながら着いていくが…3人もなんだかんだで様々なSFとファンタジーが入り混じる『武御雷』内部に目を奪われていた


先程、武御雷が魔力の充填を最終段階に進めていったのを見て我慢できなくなったSFオタクの雷導の勇者は霊魂の身を生かして壁を通り抜けたりしながらするすると深部へと進んで行ってしまい、その持ち前のSF知識で武御雷の内部構造を何となく把握しながら目指している


本来ならば幾つもの隔壁が存在する筈の内部施設なのに、霊魂特有の魔力を宿さない物質を透過する体て全て通り抜けてしまう…流石のカナタも、幽霊の侵入者までは想定していなかった…



『これ見てみろ皆!凄い…夢みたいだ!なんて規模の術式制御だ…まるでコンピューター回路…!複雑すぎて訳わからない!』



その先で、声高く楽しそうに辺りを見回す理斗に追い付いた3人も部屋の内部を見れば『うわっ』『なんだこりゃ!?』『め、目眩がするわ…!』と驚愕を隠さなかった


それ程に、辿り着いた数年でもこの世界を生きた彼等にとって部屋は常軌を逸した物だったのだ


巨大な部屋の周りに金属板や棒が張り巡らされ、その全てに溝を彫るようにして魔法の術式が刻み込まれており、地面にも青白く光る回路のような術式が隙間なく明滅しているのだ


そして、それらが全てたどり着く部屋の中心に…まるで某遊園地の巨大地球儀のようなサイズの正十六面体の結晶質な物が安置されており、そこに虫眼鏡で見なければ細部まで見切れない程の魔法術式や制御術式がこれでもかと刻み込まれ、光を放っているのだ


明らかにこの巨砲の重要な機関…事実、この部屋こそが武御雷の心臓部であり龍脈と魔導機関から生み出した莫大な魔力が集結して破壊の力へと変換するべく魔法術式を魔力が通される…言わば魔力を破壊の一撃へのエネルギーに変換する為の術式が収束した場所であった



『な、なんかメチャクチャな魔力がぐんぐん集まってきてるわよ?ぜっっっったいヤバい場所だと思うんだけど…』


『た、確かに…どう見ても重要なシステムだよな。おい雷導!早く引き返すぞ!』


『こんな馬鹿みたいな魔力で魔砲なんか撃ったらどうなっちまうんだよ…!?早く逃げるぞ!こんな馬鹿魔力の余波食らったら霊魂の俺達だってどうなるか分からな……ーー』






『なぁ、これ……さ、触ってみたら駄目か…?』






『『『駄目に決まってんだろ!』』』






3人の怒鳴り声がぴったりハモる


あの雷導の勇者と言われた理斗が目を輝かせながら中心の正十六面体に近寄りながら明らかにワクワクした様子で3人を見てきたのを、全力で怒鳴りつける


ここまで入ってきただけでもマズイ可用性があるのに、挙句の果てにこんなどう見ても重要なパーツを触るなんて…霊魂に触れられても物質に影響は無いとは言え、余計な事はしないに限るのだ


なにせ、今はカナタがグラニアスを抹殺するべく戦闘中


この巨砲はそのグラニアスを…勇者達が殺すこと叶わなかった怪物を始末するためのとっておき。トラブルなどあっていい筈もないのだ


それを触るなんて…



『おい…あいつあそこまでネジ外れてたか?もっと落ち着いてたと思うんだが…』


『いやぁ、多分百年以上見れなかったSFアイテムで頭空っぽになってるよな』


『はぁ…これだからオタクは…。さっさと引き摺って帰りましょ。私達のせいであの鳥を逃がした、なんて言われたくないわよ?』


『だな。ここは強引に首掴んで出るか…』







『おおぉぉっ…!凄い魔力が集まってる…!3人も触ってみろ!背筋が震えるくらいの魔力だぁ…!』




『『『って、もう触ってるぅぅっっ!?!?』』』






もう既にめちゃくちゃ触ってた!


それはもうベタベタ両手で触り、感触を確かめるような動きで、まるで点字を指で感じ取ろうとするように細かに刻み込まれた術式をすりすりと触り込む…


なんの遠慮も躊躇いもなく、掌までべったりとくっつけて子供のようにはしゃいでいた


3人の悲鳴がまたもぴったり重なった



ーーこいつ、何も聞いちゃいねぇ!早く連れ出さないと……!



予想以上にネジが抜けてしまった理斗を慌てて引き剥がそうと詰め寄る3人、だが……




青白い光が灯っていた部屋の中は突如として赤い光が頭上で明滅し始め、地球の人間ならばどう聞いても緊急事態なんだろうなぁ、と思わせる警告音がけたたましく響き始め、これには全員が固まった




『警告。警告。術式中枢制御体に異物混入を確認。加算された要素の排除・・・排除不能。警告。警告。術式中枢制御体への不正アクセスを検知。不明要素がアップロードされました。繰り返しますーー』


『『『だから言ったのにぃぃぃ!!!?』』』


『あ、あれ?なんかヤバい感じか…?一体何が起きたんだ…』


『『『いいからその手を離せぇぇぇ!!!』』』



理斗の頭と首と肩をこれでもかと力をいっぱい掴んだ百合恵、禅、義也の3人はようやく目の前の正十六面体から理斗を引き剥がそうとしたが…


正十六面体は青白と赤を交互に点滅させながら




『警告。警ーー・・・マスターからの射撃命令を承認。武御雷、発射します。』





『ちょっ、待て待て待てっ!このまま撃ったらどうなるんだこれ!?』


『このバカ雷導っ!何してくれてんのよ!どう見ても壊れたじゃないのよ!』


『てか、いつまで触ってんだ!早く離れろっての!言わんこっちゃない!』



ようやく3人が力尽くで理斗を引き剥がそうと彼の頭や肩を鷲掴みにしたその瞬間…





『『『『あ……』』』』





凄まじい衝撃と壊れたかのような眩い黄色の雷を轟音と共に撒き散らし、響かせて…武御雷はその力を一点に集め、遥か彼方の怪物に向けて破壊の力を解放してしまうのであった







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【Database】



〘魔蛇龍ガヘニクス〙



〘全長〙433.7m



〘全高〙16.6m



〘体重〙45199t



〘通称〙四魔龍 大地の化身 地に住まう災い 溶炎を支配者  (一部地球人からは)クソ蛇 デカマムシ メガツチノコ 脳筋スネーク



〘概要〙

世界を滅亡の淵へと落ち込んだ最強の魔物の一体。

四魔龍の一角であり、かつて幾つもの国と都を破滅へと追う込い込んだ正真正銘の怪物。

僅か4年前までは撃退の事例1件のみしか人類が反撃を加えられた例はなく、幾度と送り込まれた何万、何億という討伐隊を討ち滅ぼし、異界の勇者17人を抹殺した蛇体を持つ魔の王。

大地を抉り、進むだけで地震と隆起を巻き起こして崩れ去った人々の文明の前に大地より現れる災害そのものと言える怪物であったが、4年前のその日に120人目の勇者が建造した巨兵と共に激戦を繰り広げ、これを見事に撃破、極寒の大地の奥底へ封印されるに至った


〘容姿〙

腹側を除いてその全てが赤褐色の岩盤のような分厚い鱗で覆われており、蛇の鱗というよりも明らかに龍の鱗となっている。鋭く剣山のように体の後方へと鋭く尖り、動くだけでも大地や山を削り落とす龍鱗は並大抵の攻撃で傷一つ付けられない程に頑強。

腹皮は滑らかな灰色の蛇鱗となり、これにより巨体からは想像もできない動きを可能とする。

大きな角状鱗が頭部に2枚あり、これが角のように見えている。

蛇、とは名付けられているが両腕があり、2本の腕で地や山を掴み、その長大な巨躯をさらに俊敏に動かせる。

尻尾の先端には鋭利で、他の鱗と一転して金属質に光を反射する剣状に変化した鱗が備わっており、これを自在に振り回すことで様々なものを切断、貫通する事が可能となっている。


その龍鱗はあまりにも頑丈であり、四魔龍の中でも随一の堅牢さを誇る強靭な鎧となっている。極低温以外のあらゆる魔法や物理攻撃に高い耐性を誇り、この龍鱗を突破してダメージを与えるには同等の質量による打撃や度を越した魔法によるダメージでしか不可能。

腹部の蛇鱗の一部に2箇所の裂傷痕が塞がった形で残っているのは彼方によって付けられた物と、その巨兵ガルガンチュアと相打つ形でつけられた物である




〘戦闘力〙

四魔龍の中でも随一の耐久性と怪力を誇り、それに反して猛烈な速度を実現する理不尽の塊。

その頑強な龍鱗と全身が筋肉と言える肉体の構造そのものが兵器であり、肉弾戦による圧倒的タフさと殲滅力により全てを破壊する。

ある意味、四魔龍の中でも最も汎用性が高く、特殊な能力を抜きに素の能力が抜きん出ている為に対策が難しい。

俊敏性が桁違いに速く、長大な巨体からは考えられないほどに素早く動く。これにより全身筋肉の馬鹿力と頑強な龍鱗の耐久力を押し付けてくるパワープレイな戦い方をしてくる。

飛行するグラニアス、数で押すエデルネテル、潜水するルジオーラ…3体がそれぞれの環境的強みを持つ中、フィジカルだけで最強の一角を誇るのがガヘニクスであった


硬く、速く、強い。この3つを極限のレベルで備えるガヘニクスに対し、弱点は極低温しか存在しない


かつて、ガルガンチュアすらも力で押し負け、その巨体から撃ち出す攻撃をもってしても龍鱗の上からダメージを与えることは叶わなかった


突進や巻き付き、噛み付きなどの肉弾戦がメインであり尻尾の剣状鱗によって切断、貫通攻撃も仕掛けてくる。

全身の筋肉を使った締め付けは山すら絞れる程の力があり、鋭利な牙は鋼鉄や特殊鋼すらも容易く貫通する。

頭部の角のような角状鱗と尾の剣状鱗は特別頑丈であり、突進や尾撃は桁違いの威力を誇る。


炎を司り、特に溶岩のような重たく異常な破壊力を誇る特殊な炎『溶炎』を吐き、魔法として操る。

そのブレスはフルパワーで放てば一撃で広範囲を焼き尽くし、大草原を死の大地へと変えてしまう。ガヘニクスの怒りは火山と繫り、火山帯でガヘニクスがその力を解き放てば広範囲の大地は噴火により灼熱の地獄へと変貌する。


地面の中を進む事で地震を引き起こし、火山帯で大噴火を頻発させる事から国からの軍隊を寄せ付けず、それを潜り抜けられる猛者でしか近づくことも叶わない厄介な面があり、いざ街や国へと現れれば縦横無尽に暴れ回るガヘニクスを止められる者はいなかった


…かつて居た、勇者達でさえも



〘顛末〙

5年前の時点でフォブス火山帯を根城としていたガヘニクスはラヴァン王国南西部へと侵攻を開始しており道中にある中規模の街や集落は進行から10年で3箇所が壊滅していた。

これを旅に出てから1年後の黒鉄の勇者が迎撃。


あまりの頑丈さと怪力、俊敏さは彼方がそれまで産み出してきた兵器群では刃が立たずこれに対して特別製の兵器を建造するに至った。


同じ規模で、同じ土俵で抑え込める…新たな次元の兵器が必要となったのである。


大型魔物との戦闘優位を確立するべく建造された試作大型機動兵器『ガルガンチュア』はこれを理由に誕生し投入、正面きっての決戦となった。

フルパワーのガヘニクスが誇る力は凄まじく、ガルガンチュアは押され次第に損傷。分厚く作られた装甲は幾度と受ける剣尾と牙に貫通され、溶炎のブレスにより表面装甲は融解し搭載武装のほぼ全てが破壊され、強力な大顎に頭部を半ばまで噛み潰され…それでも残りの動く半分のキャタピラと両腕でガヘニクスの前に立ちはだかった


その攻撃を勇者パーティへと通すことなく、奮戦する彼らを守り切り、猛攻を仕掛ける彼方と反撃するガヘニクスの中でガヘニクスを戦闘不能にするまで正面に立ち続けた事でパーティメンバーは誰一人欠ける事なく生還出来たのである


逆に言えば、当時最大の兵器であったガルガンチュアですら単騎で敵わなかった怪物こそが魔蛇龍ガヘニクスなのだった


この時に腹の蛇鱗を斬り裂いた兵器をきっかけに作り出した切断兵器こそが彼方が身に纏う漆黒の鎧『リベリオン』右腕追加装甲兵装に内蔵された高振動波硬質ブレード『イガリマー』である


だが、それでも背面の分厚い龍鱗を貫通することは敵わなかった



今再び、一新、改良され、かつての戦いからは次元の違うレベルのパワーアップを遂げたガルガンチュアが、全力を取り戻しつつあるガヘニクスの前に立つ


今一度、創造主である黒鉄の勇者と共に

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