#07

 だから、神になるのは諦めて、長い間、地球の王として世界のトップに君臨した。


 それは永い時だった。その間中、地球を治め(※実際には部下に治めさせ)、好き勝手やって愉しんだわけだ。しかし、いくら変身能力が在るとは言えど不老不死ではない。寿命が尽きる。こうして楽してウハウハな人生が、ゆるりと幕を閉じた。


 変身能力を手に入れた男の人生、ここに完。


 うむ。……なるほど。


 閻魔大王が、天井を見つめて一つ息を吐く。


 件の奉仕悪魔の狙いは、これだったのだな。


「では改めて聞こうか。主はゲームが嫌いだったな。特にRPGというジャンルが嫌いだったのであろう。では、一体、何故、このような変身能力を手に入れた?」


 静かにも落ち着いた口調で淡々と紡ぎ出す。


 言葉の端々に呆れたという感情が見え隠れして吐きそうになる。


 圧が、半端ないのだ。


 つまり、


 ステータスの事を言っているのだろう。手に入れた変身能力がステータス変化であったからこそステータス絡みでゲームの話題を持ち出したわけだ。ただ、それが分かったとして、どんな受け答えが良いのか分からない。視線が揺れる。左右上下。


 いや、ここは正直に応えるのが、吉だろう。


 別に悪い事をしたわけじゃない。単にラッキーで紳士君と出会って変身能力をもらったに過ぎない。それに変身能力を手に入れれば、それが、たとえ俺じゃなかったとしても同じ道を辿るのは自明の理だろう。だったらウソなどつく必要もない。


「楽して努力もせず、楽しい波瀾万丈なる激動人生を送りたかったからです。はい」


 思わず、最後に、はいと言ってしまったが、多分、これで良い。


「そうか」


 と一言で、黙る大王。


 いくらかの間、沈黙が静かに入場してくる。


 重苦しい雰囲気になり、俺も黙るしかない。


 永遠とも思えるほど永い時間、押し黙っていた閻魔大王が、ゆっくりと口を開く。


「でもな。……魔王(独裁者)となって、勇者(世界)を倒しにいったのであろう」


 無論、ゲームのそれとは立場が逆であるが。


 しかし、


「……主の人生が、まるで主が嫌っているゲームに見えるのだ。ゲーム機にソフトをセットして(※変身して)、お手軽に冒険できる、それではないかと思うわけだ」


 ファンタジー世界での英雄譚ではなく現実での偉人伝という違いはあるのだがな。


 つまり、


 件の悪魔は、主が嫌いなゲームをなぞらせる事で、主の人生を冒涜したわけだな。


 ふうむ。


 と閻魔大王は敢えて大事な事を隠して言う。


 あ、確かに。気づかなかった。盲点だった。


 ゲームじゃん。俺の人生って……。マジか。


「まあ、それは良い。それよりも沙汰を下そうか。とりあえず努力が足りんな。ゆえにステータスを考え得る限り最低にして、もう一度、別人として人生をやり直せ」


 もちろん変身能力は没収する。その上で底辺から始めるわけだ。


 次は、苦しくも辛い人生になるやもしれぬ。


 しかしながら、努力を怠らねば、きっと光は見えてくるだろう。


 良いな。


 と厳かなる閻魔大王の声が遠くで聞こえた。

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お手軽な冒険 星埜銀杏 @iyo_hoshino

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