第57話 「迷子の凍鬼」

翌朝、いよいよ四組に別れた仲間達は

四怪守護獣しかいしゅごじゅうの解放と協力を求めて出発した。


――永劫凍渡鬼えいごうとうどきを目指す者達――


ユキマサ、サヤ、アカネの三人は

永劫凍渡鬼レイホウキトヒメの封印場所を目指して

北の立ち入り禁止区域に入る為の氷山へ。


数日かけてようやく氷山の麓まで辿り着いたが、

何故かそこには衣服を何も纏ってない状態で

身体から冷気を放ちながら倒れている少年がいた。


額には一本の角が生えているのと首飾りのタブに

夢月凍鬼むげつとうきヤショウビコ』と名前が彫られていて

鬼である事は間違い無さそうだ。


異形がいなくなったこの世界で、何故か冷気を放ち

衣服を纏わずに倒れている異常な状態に

ユキマサ達は周囲を警戒せずにはいられない。


「この子が倒れている理由はなんだか

分からないが、一先ず手当を!」

「分かったわ!」


サヤは持ってきていたバイオパックでヤショウビコを

包もうとしたが放たれる冷気で中の液体が氷付き

使い物にならなくなってしまう。


「どうしましょう……」

「仕方ない……荒療治だが……」


ユキマサは腰の刀を抜いて炎を纏わせる。


「ちょ!おっさん何すんの!?」

「心配するなアカネ!手加減はする!」

這炎はいえん』!!


倒れているヤショウビコ目掛けてユキマサの

刀から放たれた炎が地面を走る。


「荒療治……何も焼くことないじゃない……」

「冷えきった身体を温めてやろうと思ったが

ちょっとやり過ぎだな……」


「何するんだ……」


「なんか言ったか?」

「私は何も」「ウチも何も行ってない」


その声は燃え盛る炎の中から聞こえてきた

ヤショウビコの幼い少年の声だ。


「ひどいよ……どいつもこいつも……」


ヤショウビコは炎の中で立ち上がると

地面が凍てつきユキマサの炎は一瞬で消える。


「ほら、身体が温まって元気に――」


ヤショウビコに近づいたユキマサは冷気に包まれ

一瞬にして全身氷漬けになってしまった。


「ちょ!?ヤバいヤバいヤバい!!」

「一旦退くわよ!!」

「でもおっさんは!?」

「私たちでどうにかなると思う!?!?」


サヤとアカネはユキマサを一瞬で氷漬けにした

ヤショウビコの放つ冷気から逃れ様とするが。


「疲れた……お母さん……どこ……」


ヤショウビコは再びその場に倒れた。


「この子……迷子……?」

「こんなヤバいやつ迷子にさせんなー!!

お母さまー!!息子さんが迷子ですよー!!」


「ウヲォォォオ!!!!」


ユキマサ覆っていた氷が割れてなんとか抜け出し、

そして近くに倒れているヤショウビコに歩み寄る。


「待っておっさん!!」

「心配するな、氷の中でも声は聞こえた……

お前達が私を置いて逃げようとした事もな」

「いや、それは、その……」

「ハッハッハ!!冗談だ!!」


ユキマサはヤショウビコを抱き抱えて

来た道を少し戻り、建っている個人宅に入りって

ベットに寝かせた。


「この子のお母さん……もしかしてだけど……」


「あぁ、恐らく永劫凍渡鬼レイホウキトヒメ……

たが……途方も無い年月の間、彼はずっと一人ぼっち

だった事になる……ずっと氷山の向こう側で

母を探し回っていたのかもな……」


「でも……その途方も無い年月の間、

子供のまま……どうなってるの……」


「鬼化すると人間とは比べ物にならない寿命になる、

それが狂鬼化や豪鬼化すればより老化が遅くなる、

半妖もそうであり、恐らく神格化したお前達人間も

同じ事だろう」


「それほど長い寿命、あってないような物ね……

私が探していた物がこんな形で見つかるなんて……

にしても、神の身勝手でこの子はずっと一人だった、

許せないわ……」


「必要な事だったと思うがな……黒神の話しでは

レイホウキトヒメが半妖に殺された子を求めて歩き

彷徨った挙句にあの凍土は出来たと言っていた……

それ程の鬼だ封印せざるを得ない……だかその子が

この子だとしたら、解放して協力を仰ぐのは

難しくなさそうだな」


「そうね……でも先ずは、この子に

協力してもらわないとね」


「あったあったー!これ良くなーい?」


アカネがヤショウビコの身の丈に合う

服を持ってきて服を着せてあげた。


子供らしい服装を来たヤショウビコを見て

やっぱり子供なんだなと心が締め付けられた。


「私がこの子を見ているから、二人はお菓子か

何かを探して来てもらってもいいか?」


「ダメよ、ユキマサさんは完全に敵視されてる、

この子は私が見てるからユキマサさんとアカネで

探して来て」


「いやしかし……危険だぞ……」


「大丈夫よ、私の技は」

火ノ丸ひのまる

ブヒッ!ブヒッ!

「子供受け良さそうでしょ?」


ミニブタの形をした火がサヤと少し戯れ

ボウッ音を立て消えた。


ユキマサとアカネはサヤにヤショウビコを任せ

食料やお菓子を探しに行った。


「ヤショウビコ君……言いづらいからヤショウ君で

いいかしらね……」


サヤはヤショウビコの頭にそっと手を乗せて

優しく撫でる。


「うぅ……お母さん……」

「ヒィッ!!…………なんだ寝言か…………

寂しかったよね……ずっと一人で……」


サヤは目に浮かぶ涙を手で拭って

ヤショウビコの隣に入り身を寄せて添い寝をする。

よく見るとヤショウビコの目元には涙の後が

染み付いていた。


「やっぱり許せない……お母さんを封印しといて

この子を放置するだなんて……神って最低ね……」


しばらくして眠たそうに目をゴシゴシと擦り

ヤショウビコは目を覚ます。


「うわぁ!?!?人間!!」


目を開けるとサヤの顔があり、思わずベットから

飛び出て再び冷気を放とうとする。


「ま、待って!!私は敵じゃない!!」


「人間はみんな敵だ!!どいつもこいつも

僕を殺そうとする!!」


「私はそんな事しないわ!!なんなら今から

あなたのお母さんを助けに行く所だったの!!」


「僕の……お母さんを……?生きてるの!?

僕のお母さん生きてるの!?どこにいるの!?」


思ったよりも簡単に戦闘を避けられたサヤは安堵して

ヤショウビコに永劫凍渡鬼の封印解放の話をする。


「――僕のお母さん、そんな名前じゃないし……

僕もヤショウ何て名前じゃないよ……」


「そうなの……?じゃあ違うのかな??

でも、首のタブに書いてあるのが君の名前じゃ

なかったら、君の名前はなんて言うのかな?」


「分からない……思い出せない……

やっぱり……僕を殺しに来たんだ!!」


「何でそうなるの!!それは絶対にない!!」


人間に対する異常な敵意にサヤは不思議に感じ

ヤショウに話を聞くと、どうやら大陸防衛軍が

凍土開拓の為に度々侵入しては危険視された

ヤショウは何度も軍に殺されそうになったとか。

全員逆に冷気で殺してしまったそうだが。


「サヤ~戻ったよ~」

「ついでに俺達の分の食料も――!!」


ヤショウビコは再び冷気を放とうとする。


「待って待って!!二人は君の為に美味しい物を

探しに行ってたの!!」


「美味しいもの……?」


「そ、そうだぞ~、ほら!お菓子もあるし!

缶詰もある!それに保存食のパンだってあるぞ~?」


「あげるから落ち着いてマジで!!」


ヤショウビコは口元から唾液が

滝のように溢れている。


ヤショウビコは母とハグれてから

一切何も飲まず食わずで生きていたらしい、

久々の食事に涙を流しながらかき込んでいる。


「いったいどうやって生きて来たんだ……」


「この子の放つ冷気はもしかしたら

永劫凍渡鬼……母の力かもしれないな……

その力がこの子をギリギリ生かしていたのかもな

四怪守護獣の力だと言うなら私が一瞬で

氷漬けにされたのも納得がいく……」


「でも、この子のお母さんの名前も

この子の名前も違うみたいよ……」


サヤはユキマサ達が戻ってくる前の

ヤショウビコとのやり取りを話した。


「二人の名前は確かに元は別の名前だろうな、

私も元から炎狂飢鬼えんきょううえきユキマサという名前ではない、

ウタカタや他の鬼、半妖も元は違う名前だからな」


確かにと納得のサヤは夢中で食べ続ける

ヤショウビコが落ち着くのを待って

名前の事を説明した。


ヤショウビコは名前の事を何となく理解し、

三人を受け入れて一緒にレイホウキトヒメの

封印解放を目指す事になった。

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KAMITUKU 木南 鷹 @unineko_kanenashi

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