何故か大雪の中後輩が俺の部屋にやって来たお話。

くすのきさくら

大雪の日の出来事 ~真っ赤なきつねがやって来た~

カチ。


静かな部屋に普段はあまり聞こえないであろう小さな音。

俺が棚に置かれていた置き時計の上部にあるボタンを押した音が部屋の中にちょっと響いた。


「十二月三十一日午後二十二時二十五分」


これは現在俺の部屋に置かれている時計が表示している時間だ。

置き型時計の上部にあるボタンを押すと、暗い部屋でも時刻がよくわかる。

さらに細かく言うと三十三秒三十四秒と時間は進んでおり。時間の下には室温が五度と表示されている。


時刻が表示されている時間だけ時計の周りが明るくなる。


が、数秒後。

時計の表示が消えるとまた真っ暗な部屋に……っか何故俺は大晦日の日にこんな暗く寒い部屋に居るのか。


理由は……大雪。吹雪の影響なのか今日の昼過ぎから家が停電しているからだ。

暖房も止まった部屋はみるみる気温が下がっていっていた。もしかしたら外はすでに氷点下かもしれない。


雨戸を閉めているからあまり風の音は聞こえてこないが……多分外は吹雪だろう。


ちなみに俺が住んでいる地域は豪雪地帯ではないが。聞いた話によると何年かに一度大雪が降るらしく。今年はその年だったらしい。夕方の時点では、俺の腰くらいの高さの積雪がすでにあった。


「ふー。寒いなぁ……」


何度目だろうか。俺は毛布に包まりつつそんなことを言った。


俺は大学ニ年生。アパートで一人暮らし中であるので、俺がつぶやいたところで返事をしてくれる人は居ない。

まあ友人らが遊びに来ていれば……寒く暗い中でも賑やかだったかもしれないが。今日は大晦日。ほとんどの俺と同じく一人暮らし中のお仲間たちは地元へと帰っているらしい。冬休みになった時にそういう話を結構聞いたんでね。多分居ない。


っか「お前はなんで実家に帰ってないんだ?」と言われるかもしれないが。これは俺が遅れてきた反抗期「誰が帰るかボケ!」とか……そんなことがあるわけなく。普通に両親との関係は好調だ。

のだが。俺の両親は仲良すぎだ。今でも2人はラブラブ。むしろラブラブしたいから俺は大学に合格すると同時に実家を追い出された。いや通学できない距離じゃないんだよ。うん。まあでも追い出された。両親曰く「早く彼女を作れ。それなら実家より一人暮らしの方がいいだろ?」的な事を……まあうん。謎な理由で一人暮らしになった。うん……まあそれは置いておこうか。


でだ。別に今年も普通に年末年始は実家に帰る予定だった。

だったのだ。そしたら俺が帰る予定だった数日前。


「悪い悪い。今年の年末年始は母さんと二人で旅行行くって伝え忘れてたわ。だからそっちで楽しく過ごせ」


……親父にそんなことを言われたのだった。


だが、先ほども言ったように俺の周りの友人はほとんど実家に帰っている。


さらに俺は帰る気満々で一週間くらい部屋を留守にする予定だったので、冷蔵庫の中などを空にした時にそんなことを言われた。

そして運の悪いことにその日から雪も降り出し。気が付いたら大雪。積雪もかなりあったため。俺は本当に家にあった食料を綺麗に食べつくし。昨日の昼以降は食糧難となっていた。


いや、電気が来ていた時は米があったんでね。まだよかったんだが。今は電気がないから炊飯器が使えなくてね。停電する前に多めに炊いておけば……。だったのだが。それをしなかった俺は現在腹減ったー。であった。

ちなみにガスは使えるんだが……スープ系の備蓄が一つもなかった俺。

歩いて15分くらいのスーパー、コンビニまで行けば食料はあるだろうが。先ほどから言っているように外は吹雪だ。家から出れん。買いに行けん。が現状だ。


まあスマホやパソコンの充電があるうちはゲームや友人とメールのやりとりをしていたから過ごせていたが。今はそれらの充電も無くなり真っ暗。

することが無くなると「ずっと寒い。腹減った……」と頭の中で言葉がまわっていた。


でも何もできないし。寝る。っていうことを少し前にはしたんだがな。全く眠くならなかったため。現在は毛布に包まり俺は机につぶれていた。


「マジで雪が降り出した時に買い物に面倒くさがらず行けばだったか……」


少しして俺がそんなことをつぶやきつつ。冷たいが残っているペットボトルのコーヒーでも飲むか。と立ち上がろうとしたとき。


コンコン。


「うん?」


コンコン。


玄関の方から戸を叩く音が聞こえて来た。風?と俺が思っていると。


コンコン。


再度音がしたため。俺は玄関へと向かいつつ「もしかして停電でインターホンが鳴らなかったのか?っか、こんな日に誰だ?もしかして両親が何かを送ってくれた?いやいやこんな時間に荷物は来ないか。そもそも送ってこないよな」とか俺は思いつつ。


「……はい?」


誰も居ないかも……と思いつつ玄関のドアの前で声をかけてみると……。


「あっ、せ、センパイ。かなです。凍えます」

「えっ?あー、待ってくれ」


ガチャ。


俺は聞き慣れた声が外から聞こえたため。鍵を開けドアを開けると……。

一気に部屋の中な冷たい外の空気と雪が入ってきた。って、ドアの前に雪だるま……ではなく人。セミロングの黒髪にちょっと全体的にまだ幼さの残っている小柄な少女。現在俺の通っている大学の一年生。川西かわにしかなが雪まみれで立っていた。


「何やってんだよ?吹雪の中」


俺はそう言いながらとりあえず奏を室内へと入れドアを閉めた。ドアを閉めると室内へと入って来ていた風と雪は収まった。

って、停電していて真っ暗なので、ドアを閉めたらお互いがぼぼ見えない……と俺が思っていたら。急に足元だけ明るくなった。


奏がスマホのライトを付けてくれたのだった。


お互いの顔がわかるようになると奏は雪を払いながら……ちょっと口を尖らせて。


「センパイ。ずっと連絡していたのに何で無視するんですかー」


……。いきなり後輩に怒られたのだった。


「いやスマホ充電切れでな」

「あー、なるほど。まあずっと停電してますからね。私もモバイルバッテリーとかないんでもうすぐお亡くなりです」

「っか、奏どうしたんだ?」

「いや数日前にセンパイがメールで今年はこっちに居ることになった。って言ってましたから。どうしてるのかなー。って」

「にしてもなんでこんな時間に……」

「私は夕食時からお邪魔する計画でしたが。センパイ全く反応しないので。だから年越し前に乗り込んでみました」

「悪い。あれ?でも奏は大晦日の日に実家に帰るって言ってなかったか?」

「大雪の中自殺行為はやめました」

「……。正しい判断だな。うん」


すると奏は靴を脱いだ。靴を脱いだということは室内へと入るという事らしいので、俺は奏を室内へと入れた。

奏とは学年こそ違うがよく大学でも話す仲だ。同じ建物。俺が一階。奏は三階だ。あと学科も同じだったため。何度か話していたら普通に仲良くなった。今では俺の友人らと混ざり普通にこうして俺の家に遊びに来ることも多々ある。余談だが。俺のお友達の中では奏はなかなか人気である。普通にかわいいからな。それにこの前のハロウィンの時にきつねになっていた奏は……何人もの男子を射抜いたらしいからな。


とか思いつつ奏が室内へと入ると俺が先ほど居たところに座り……。


「センパイは何していたんですか?」

「何もだな。寒いし腹減ったしで毛布に包まっていた」

「?晩御飯まだなんですか?」

「炊く前の米しかなくてな。鍋で炊く能力は俺になかった」

「えっ?じゃあセンパイ何も食べてないんですか?」


奏がびっくりしつつ聞いてきた。


「ああ」

「ちょ、ちゃんと食べないとですよ」

「仕方ない。雪が悪い」


すると奏は持っていたトートバックから……。


「ホント仕方ないセンパイですね。本当は年越しうどんを半分こするつもりで持って来たんですが。センパイに進呈しましょう」


そう言いながら俺の前に、赤いきつねうどんのカップ麺が置かれた。


「……えっ?マジ?」


まさかの食料に大騒ぎしそうな気持ちを押さえて俺は奏に聞く。


「はい。ガスは大丈夫ですからね」

「マジか……やべー泣ける。奏、マジありがとう!感謝!またなんかお礼させてくれ何でもしてやるわ」


俺はそう言いながら奏の手を握った。


「お、大げさなセンパイですね。ただのカップ麺ですよ?あっ、ちなみに年越しそばじゃないのは。私はうどん派だからです」

「大丈夫だ。俺もうどん好きだからな」


俺はそう言いながら握った奏の手を放し。奏にスマホを借り、赤いきつねを持ってキッチンへと移動しお湯の準備を始めた。すると奏も隣へとやって来た。


「火使うと暖かいですね」

「だな。っかそうか。お湯沸かせれるんだからティーパックでお茶飲めたか」

「ふふっ。センパイってたまに馬鹿ですよね?」

「悪かったな」


俺ははそう言いながら粉末スープと七味唐辛子をカップの中に入れた。


「七味ももう居れるんですか?」

「後入れは忘れるからな」

「焦らなくてもいいのに」

「いやマジで腹減っていたし。寒かったからな」

「なら……」


ギュッ。


「ちょ。か、奏?」


いきなり俺の背中に奏が抱きついてきた。


「暖を取るならこれですよ?」

「いや……そうかもだが……いいのか?」

「はい!」


そう言いながら奏がさらにギュッと抱きついてきた。確かに暖かいと言えば暖かいが……と俺が思っていると。


「センパイ。お湯沸いてますよ?」

「あっ、ああ」


俺は「あとは5分待つだけか」と思いつつカップ麺にお湯を注いだ。


「あのセンパイ」

「なんだ?」

「センパイさっきお礼に何でもしてくれる。って言いましたよね?」

「えっ?ああ、そりゃ空腹と寒さの時にこんなもんもらったんだからな」

「じゃあ一ついいですか?」

「早速か?まあ何でもいいぞ?」

「……なら、センパイ。大好きです」

「はい?」


何を言いだすんだ?と振り返るとカップ麺の表紙みたいに顔を赤くした奏と目が合い。


「センパイ。私と……付き合ってください!」


棚に置いていたスマホのライトに少し照らされつつ満面の笑みで奏が言ったのだった。


この後赤いきつねはちょっと伸びたが2人で美味しくいただきましたとさ。

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何故か大雪の中後輩が俺の部屋にやって来たお話。 くすのきさくら @yu24meteora

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