第5話 

デートらしいデートをしたわけではなかったけど。


ショッピングモールをぐるりと回り、ゲームセンターでちょっと遊んで、またちょっとお喋りして、夕方には帰宅した。


「ただいまー」


洸と2人並んで吹雪の家に入ると、意外な人物が出迎えた。


「おかえり」


「お兄ちゃん?」


聖哉せいや? おまえも帰ってたのか?」


「うん。お母さんが洸が帰ってくるからみんなで一緒にごはん食べようって連絡来たから」


1人暮らしをしている兄が久しぶりに帰省していたことに驚く。どうやら母親が吹雪たちに内緒で呼んだらしい。


「こうやってみんなで集まるの久しぶりだしね」


おっとりした口調で笑う聖哉は昔と変わらないなと思う。


「もうすぐごはんの用意出来るから、2人とも荷物置いたら手を洗ってきなよ」


「うん」


靴を抜いで吹雪が先に洗面台へと向かうと、聖哉がにこにこと洸を見ていた。


「なんだよ」


「別に」


「…………」


このなんだか見透かした感じはたぶん、お見通しなのだろう。

吹雪と洸のことも。


昔から大人しい性格の聖哉だが、その分、観察眼が鋭いところがある。


「ほら、上がって。お母さんも洸が帰るの楽しみにしてたんだからさ」


洸の家は隣だが、洸が大学の寮生活をするようになったので面倒を見てくれていた祖母は田舎にいる祖父のところへ行ってしまった。

だから寮から帰省する時は吹雪たちの家に泊まるようになっている。


「よかったね」


「…………」


……こいつ、ちょっと会わないうちにいい性格になった気がする。

昔はおどおどして洸や吹雪の後ろに隠れているような性格だったのに。


こっちの気を知ってか知らずか、変わらずにこにこと笑う聖哉をじろりと見る。


でもなにを言っても無駄な気がして諦めた。気弱なくせに強情なところは兄妹そっくりだと知っている。


と、そこに吹雪が戻ってきた。


「洸ちゃん、お兄ちゃん、なにしてるの? ごはん食べようよ」


「うん、そうだね」


兄妹一緒に並ぶ姿を見て、複雑な気持ちになりつつも結局こうなるんだな、と苦笑した。



その夜。


「なんか久しぶりだね、洸がうちに泊まるの」


「そーだな」


就寝の準備をして聖哉の部屋に布団を敷いてやっと落ち着く。子どもの頃はよくこうやって泊まるのが当たり前だったが、だんだんその機会も減っていった。


「昨日吹雪が洸と出かけるのにはしゃいで大変だったって言ってたよ。それで寝坊したみたいだけど」


「…………だろうな」


昔から、吹雪が洸に対して好意を寄せていたのは薄々気付いていた。兄妹みたいに育ったからいつも一緒にいるのが当たり前の環境で、そんなふうに考えるようになったのはずいぶん後だが。


「気付いてたんだな」


「まあね。僕じゃなくてもみんな知ってると思うよ」


「…………」


「僕はね」


ぽつりと、聖哉がこぼす。


「君にあこがれてたんだ。うらやましかった」


「なんだよ、急に」


「まわりのみんなが洸に惹かれるの、すごく分かる。僕にはないものを君はたくさん持ってた」


大人しくて目立たない聖哉は友達が少なかったけれど、洸や吹雪の存在にすごく助けられた。


だからこそ、今がある。


他人から見たらちっぽけなことでも聖哉にとってはすごくすごく大切なことで。


「僕は洸も吹雪も大好きだから」


聖哉はにっこりと笑った。


「大好きな人のハッピーエンドを見たいって思うよ」


「……なんだよ、それ」


洸は呆れつつも聖哉につられて笑った。










































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぼくらのかたち ミヤノ @miyano38

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ