第4話 

早く追いつきたかった。


同じ場所に立って同じ景色を見たかった。


『妹』じゃない吹雪ふぶきを見てほしかった。



涙が止まらない。


泣きたくないのに勝手に溢れてくる。


胸が、ずっと痛くて。


こうちゃん、ごめん、なさい……」


今日、こんなはずじゃなかったのに。


きっと変に思われた。


でも、あの時。洸が他の女の人と話すのを見ているのが我慢出来なかった。


吹雪にはそんな権利、どこにもないのに。


「なんで吹雪が謝るんだよ」


「だっ……て……」


「ちゃんとこっち見ろ」


両手で顔を挟まれて無理やり目を合わせられる。涙でぐしゃぐしゃになっているから視界がぼやけていて、すごくひどい顔になっているはずだ。


でも洸はお構いなしに吹雪に言った。


「おまえがそうやって泣いてたらちゃんと話出来ないだろ」


顔を挟まれたまま、こつん、と額をぶつけられる。


洸の、真っ直ぐな目が吹雪を見つめる。


「だから、泣くな」


「こ――――」


吹雪は目を見開いた。

唇に触れた温もりがなんなのか一瞬分からなくて。


気付いた時には洸の顔は離れていた。


「人の話をちゃんと聞かないのはおまえの悪い癖だっていつも言ってるだろ」


夢かもしれない。


今まで、洸が吹雪に対してこんなふうに触れたことはなかった。


だって。


「俺は、吹雪が妹だなんて1度も言ってない」


また涙が溢れる。


「わた、し……洸ちゃんを好きでいていいの……?」


「うん」


「ホントに?」


「うん」


「ホント?」


「しつこい」


洸にしがみついて胸に顔をうずめた。嗚咽が漏れる。

今度はちゃんと温もりがはっきり分かる。


「うう……ぅ」


ごめんなさい。

ずっと不安だった。

いつか離ればなれになる日が来るのが怖かった。


それ以上に洸に聞くのが怖かった。


言葉にならない不安が本当になってほしくなかった。


だからごめんなさい。


吹雪が泣き止むまでずっと、洸の大きな手が頭を撫でてくれて、少し安堵した。




ようやく涙が止まり、落ち着いた頃。


洸の服を涙と鼻水で汚してしまったので、財布を渡されて服を買いに行った。適当でいい、と言われたけれど、ちょっと迷って動きやすそうなスポーツ系のパーカーにした。


それと。


「サンキュ」


買ってきた服を受け取ってすぐに着替え、脱いだ服を袋に仕舞おうとしたところで気付く。


「ん?」


袋の底に小さな別の袋があった。

ちらりと吹雪を見てから袋を開けると、中からリストバンドが出てきた。


「自分で買ったのか?」


「……本当はね、もっと早く渡したかったの。誕生日プレゼント」


なかなか渡したい物が決まらなくて悩んでいるうちにタイミングを逃してしまった。

さっき洸の服を見に行った店で目についたので自分で買った。


「そっか」


そう言って洸はすぐにリストバンドを着けてくれた。


よかった。


「……んじゃ、おまえも手、出して」


「え?」


「いいから」


よく分からないまま両手を出すと、洸は吹雪の左手になにかを通した。

ブレスレット?


「まあ俺も、あんまり時間なかったからな」


ワンポイントのチャームが付いただけのシンプルなブレスレット。

決してかわいいとは言えないけれど。


「遅くなったけど、誕生日おめでとう」


吹雪はまじまじとブレスレットを見ていた。


「……なんか、同じの選んでるな、俺たち」


洸がちょっとだけ笑ったので、吹雪もちょっとだけつられて笑った。


「ありがとう、洸ちゃん」










































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