第3話 

こうは両親を知らない。


生まれてすぐに亡くなった、としか聞かされていない。

育ててくれたのは父方の祖父母と、隣に住む吹雪ふぶきの家族だった。


吹雪の兄、聖哉せいやとはほとんど歳は変わらない。ただ、生まれた月が違うことで学年は別々になってしまったが。


なにをするにも3人一緒で、いたずらをして怒られるのは専ら洸と吹雪で、聖哉は巻き込まれるパターンがほとんどだった。


けれど、そんな当たり前の日常はいつまでも続かなくて。


高校まで3人一緒だったけれど、さすがに進路は別々になった。


聖哉は地方の大学に通うため1人暮らしを始め、洸も今年から大学の寮生活を送っている。


寂しくない、といえば嘘になるかもしれない。


それだけ洸と吹雪と聖哉は一緒の時を過ごしたのだから。



「それで? おまえはさっきからなにが不安なんだ?」


今にも泣きそうな吹雪と落ち着いて話が出来るように人気ひとけの少ない場所に連れ出し、テイクアウトしたホットカフェオレを手渡す。


「…………」


はしゃいだり落ち込んだり、波が激しすぎのは明らかに彼女らしくない。が、


まあ、理由はたぶん、これだろう。


「俺が声かけられたからか?」


びくりと吹雪が反応する。


やっぱり。


「別になんでもなかったし、そんな気にすることじゃないだろ」


実際なんでもなかったのだが。


「で、も」


「ん?」


顔を上げた吹雪はこらえていた涙が一気に溢れたように泣き出した。


「わ、私……洸ちゃん、好きだもん……」


そう言ってさらに泣き出す。


「でも、私っ……妹だから……洸ちゃんの、1番に、なれ、ない……」


小さな子どものように泣く吹雪を洸はじっと見つめた。


今日の様子がおかしかったのはこれだったのか。

まあ確かに、今までずっと一緒にいすぎて兄妹の感覚で育ってきたが。


吹雪の気持ちに本当に気付かなかったかと言えば嘘になる。


知ってた。


いつか、こんなふうになることも。


でも、吹雪をこんなふうに泣かせたのは自分の責任なんだと改めて思い知った。


中学時代、あまりに吹雪が洸にまとわりついていたため、一部の女子の反感を買ったらしいと噂で聞いた。


陰でいじめらしき場面もあったとか。


けれど吹雪はそんな様子をまったく表に出さなかったから洸は気付かなかった。


たぶん、その頃だろう。

吹雪の中で洸に対する『幼なじみ』と『妹』の意識が強くなったのは。



























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る