第2話
家が隣同士なので実質2人の兄がいるような関係で育ってきた吹雪にとっては兄妹同然だが、年齢差の説明は少し難しい。
学年は別れているが、吹雪と2人の兄の年齢差はほとんど1歳と少しだったりする。
兄が3月生まれで、幼なじみ――
だから3人の中ではあまり年齢とかは関係なかった。
けれど大きくなるにつれて学年の違いはだんだん意識せざるを得なくなる。
みんな同級生同士で遊ぶのに、どうして? と聞かれることも少なくなかった。
でも吹雪にはそんなことは関係ない。
誰がなんと言おうと、吹雪が洸を『好き』という気持ちは偽りない事実なのだから。
「あ、洸ちゃんあっちあっち! あっちのお店かわいい!」
待ち合わせに遅れて反省したのかと思っていたのに、カフェで食事をして腹が満たされたからか、吹雪の機嫌はいつも通りに戻った。
一瞬様子がおかしかった気がしたのは気のせいだろうかと思うくらいの吹雪のはしゃぎっぷりに洸はため息をついた。
ショッピングモールを順番に見て回り、自分の気に入った店を見つけては洸の腕をぐいぐい引っ張っていくので、抵抗するのはとっくに諦めている。
どうせいつものパターンだし、今回は洸が大学に行ってから初めて遊ぶとあって、吹雪がすごく楽しみにしていたのは見なくても分かった。
「はいはい。分かった。分かったから引っ張るなよ」
今回、吹雪と出かけるのは久しぶりではあるが、一応、洸にもそれなりに理由があった。
だからこうやって付き合ってるわけだが。
さすがに女ばっかりの店に何度も連行されるのは嫌気が指してきたのでささやかな抵抗をする。
「俺はここで待ってるから行って来いよ」
店の前にちょうど座れるスペースの椅子があったので腰をかける。
「えぇー」
明らかに不満な声を上げる吹雪になだめるように言った。
「逃げたりしないって」
まだなにか言いたそうにしていたが、渋々1人で店に向かう吹雪を見送ってようやくひと息ついた。
店の中できょろきょろしている吹雪を見てちょっとだけ笑う。
幼なじみでずっと一緒に育ってきた間柄なので周知の仲ではあるが。
洸が大学に行ってからは以前のように頻繁に連絡を取り合うことは少なくなった。
というか、今回のお出かけも吹雪から誘われたものの洸の都合がなかなかつかなかったから、先延ばしにしてようやく実現したので、多少のことも吹雪の好きにさせるつもりでいた。
結局昔からわがままを言う吹雪に折れるパターンになるのがいつものことだからだ。
でも。
吹雪の兄も洸も別々の大学に進学したし、来年には吹雪も高校を卒業する。
こうやって会うこともこれからだんだん少なくなるだろう。
もしかすると今日の吹雪はそれを敏感に感じ取ったのかもしれない。
変なところは動物的に鋭いし。
「――あの、すみません」
ふいに横から声をかけられ、洸は視線を移す。
いかにも派手に遊ぶ友達同士、な女2人組がそわそわしながら立っていた。洸と同じか少し歳上くらいだろうか。
「お1人ですか? よかったら私たちと一緒しませんか?」
分かりやすい声のかけ方に内心苦笑しつつ、
「悪いけど連れがいるから」
と吹雪がいる店の中を指差す。
それで察したかどうかは分からないが、彼女たちはあっさり去っていった。どうやらいろいろ物色しているらしい。
「洸ちゃん」
視線を戻すといつの間にか吹雪が目の前に立っていた。
ぶすりとふて腐れた様子からすると、さっきの場面も見ていたらしい。
俯いたまま洸の服の袖を捕まえて、ぽつりと呟く。
「……洸ちゃん、今日は迷惑だった?」
「なんだよ、急に」
「だって」
きゅっと、服を持つ手に力が込められる。
「私、洸ちゃんの邪魔してる……?」
なにを言ってるか分からず洸は首を
けれど吹雪はだんだん表情が見えないほど深く俯いてしまう。
洸は座ったまま吹雪を見上げる。
「吹雪」
「…………」
袖を握っている吹雪の手を握り返す。立ち上がって引っ張る。
「とりあえず、あっちに行くぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます