史上最低のラブコメ
蒼風
一章
0.プロローグ
0.そうだ、寝取ろう。
いつだっただろう。俺が自分の人生にラブコメなんてものが転がっていないってことに気が付いたのは。
いや、それは嘘だ。きっと最初から気が付いてたはずなんだ。だけど認めたくなかったんだ。ラブコメなんてものは基本強者のプロットだ。俺みたいな平凡な男子高校生におとずれるようなもんじゃない。
良い人ではあるんだけど。
それが、俺こと、
一見よさそうに見えるだろ?褒めてるように見えるだろ?違うんだな、これが。この評価のポイントは「良い人」じゃあない。「ではあるんだけど」の部分だ。
ではあるんだけど。
この言葉で接続された前後の内容は基本的に内容が真逆になる。反対の接続詞ってやつだ。「でも」とか「だけど」とか、その辺の仲間なんだ。
どういうことか分かるか?要は「良い人」が前にある以上、後に続く言葉は否定的な内容になるんだ。そこを言葉にしないでお茶を濁す表現が「良い人ではあるんだけど」なんだよ。
そして、大抵の場合、その後ろには口にしないだけで、「地味」とか「恋人としてはつまらない」とかそういう言葉が続いている。それを口にしないことで、俺を傷つけまいとしているんだ。
だけどね、一つだけ教えておくとね、その努力は全部無駄なんだよ。
だって、君たち「俺と付き合うってなったらどう思う?」って言ったら一同に皆言葉に詰まるじゃないか。結論なんて分かり切ってるんだよ。「付き合うのはない」って答えなんて。最初から見え透いているんだ。
だから、俺は言うんだ。
ラブコメなんてのは勝ち組だけのものだって。
俺みたいな平凡な男子高校生には訪れる者じゃないって。
もし訪れるとするならば、成績も優秀で、野球部では一年次からエースを務めている
第一なんだよ、皇って。もう最初から負けてるようなもんじゃないか。俺なんか田中だぞ、田中。しかも名前だって英太郎だ。ラブコメの主人公の名前じゃないだろ?概ねモブの一人がいいとこだ。
それに比べて皇は名前まで一輝と来てる。一番輝く。良いじゃないか。存分に輝いたらいいよ。輝いたら輝いただけ、君の元には人が集まってくるはずだ。例えばそう、学年一の美少女との呼び声高い、
笹原さんはマネージャーで、皇はエース。二人の仲が進展し、恋人同士になるのにそう時間はかからなかったと聞いている。実によくできた幸せ物語だ。
皇はプロ注目の右腕だという話も聞くし、きっとこのままゴールインするんだろう。それでいい。世の中そんなもんだ。上質なラブコメは、一部の優れた人間にしか訪れない。それが世の理だ。
と、そんな風に諦めていない人間が一人いた。
幼馴染、といってもそんなにいいもんじゃない。俺のことを両親以外の、下手したら両親以上に知っている環は、俺にとっては天敵中の天敵みたいなもんだ。
弱みなんて握られまくっているし、俺がラブコメ的な恋愛に憧れながらも、そんなものなど転がっているものじゃないと諦めていることも良く知っている。
なのに、環は言うのだ。
「エータ。手を貸しなさい。あのカップルを別れさせるわよ」
環曰く。皇と笹原のカップルは最近余り上手く言っていないというのだ。
彼女はずっとこの時を待っていたともいうのだ。皇のことは気になりつつも、あまりにも付け入るスキのない状態で笹原と付き合うことになってしまったため今まで手が出せなかったのだともいう。
そして、
「エータ。あんた、笹原のこと、気になってるんでしょ?私が協力してあげるから、この機会に
「言い方よ」
「いいじゃない、別に。彼氏彼女と別れた傷心状態の時に話を聞いてあげてるうちに、仲良くなったなんてそんなに珍しいことでもないでしょ?」
かくして、俺と環の、これ以上ないくらいクズな下心を持った、最低の同盟による戦いがスタートしたのだった。
……スタートしていいのか?これ。
史上最低のラブコメ 蒼風 @soufu3414
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。史上最低のラブコメの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。