居酒屋にて

「また愛する人を死なせてしもうた……。」

 居酒屋で嘆息する妙齢の黒髪美女、トウコ。彼女の向かいの席には、俳優のように整った顔立ちの青年と、その隣には袖と襟の部分が擦りきれたジャケットを着たガリガリの冴えない中年男性が座っている。

「元気出してください、トウコさん。きっとまた素敵な出逢いがありますよ」

「いい加減諦めてくれた方が世の為なんだけどな」

「テツオさん」

 青年は、中年男性……テツオをたしなめた。対してテツオはガシガシと頭をかく。

「んだよ、本当のことだろうが」

「デリカシーが無いですね。好きになった人の首を愛さずにはいられないのに、妖力使っても3日と持たないトウコさんの悲しみがテツオさんにはわからないんですか」

「いいこと教えてやる。人間は首を切られると普通は死ぬんだよ」

 テツオはそう言うと、生ビールを追加注文した。今日は青年のおごりだというので、注文に遠慮がない。

「人間の首と恋人になるのが難しいなら、ためしにコイツと付き合ってみりゃ良いじゃん」

 言いながら、テツオは隣の青年を指差す。

 すると青年とトウコは、二人そろって深々とため息をついた。呆れてものも言えない、といった様子でテツオはいらっとした。

「トウコさんにはお世話になってますし素敵な女性だとは思いますが恋愛は違うんですよ。わかってないですねえ」

「コイツはかわいい弟分で、恋愛は対象外じゃ。私は年上が好みなんじゃ」

「えっ? 人間はみんなお前より年下なんじゃ」

「年上っぽくて頼りがいがある大人の男性が好きだと言う意味じゃバカタレ」

 トウコがレモンサワーについていたレモンの切り身を器用に搾って、テツオの目に汁を噴射した。

「グワアアアァ!? 何すんだ首斬り女!」

 目を押さえて悶絶するテツオを青年がたしなめた。

「テツオさん、女性に年齢の事言うのは失礼でしょ……」

「えっ、これ俺が悪いのかよ!?やりすぎだろ!」

「……若造、今度は清掃員ぬきで飲もうな」

「あ、お帰りですか。じゃあ送らなくちゃ、」

「よいよい。じゃあの。」

「待ちやがれトウコーー!」

 まだ目が開けられないテツオの叫びを無視してトウコは立ちあがり、店を出ていってしまった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あなたの首がほしい 藤ともみ @fuji_T0m0m1

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る