第5話

朝食を摂るべく屋敷にある長い廊下を歩く。ここへ連れてこられた時は気を失った状態だったから知らなかったが、実際に歩いてみれば正直物凄く疲れる距離だ。

「こんなことなら朝食は自室で食べると言えば良かったわ」

「でしたら今からでも自室へ戻られますか?」

「大丈夫よ。遠いと言っても体力がない私だからそう感じるのかもしれないし、貴女や妖精たちとこうやって話しながら行くのも楽しいもの」

それにアレクとどんな顔をして話せばいいか分からないし、またあんな態度で話されたらこちらの方が気が滅入りそうだわ。

だいたい昨夜見た夢?と言ってもあまり詳細には憶えていないし、夢は記憶が絡んでいると言っても私自身がこういうことがあったらいいなあとかの願望も含まれているはずだ。

『あの夢は本物だよ。ちゃんとアナの記憶を基づいて作られているもん』

|(どうしてあなた達が知っているの?)

『ボク達とアナは魔力で繋がっているの。夢というのはよりボク達とキミたち人間の境を曖昧にしてくれる唯一の場所だからキミが見た夢の情景を読み取るなんて簡単さ』

|(でも…私自身でさえ憶えていないものをどうやって夢で再現すると言うの!?)

『キミは忘れたんじゃないよ。ただ思い出したくないだけ…キミがあんなことをしてしまうだけのことが起きてキミ自身が心に受けた傷がまだ癒えていないだけなんだ」

私が何をしたと言うの?まず状況を思い出してみよう。

確かアレクに呼びかけられる前は夜間着どころか自分自身も濡れていた。つまり、こんな寒空の中私はわざわざ寒中水泳をしていたみたいな状況で、事情を知っているみたいにもかかわらず口を噤む人達。

(もしかして…私は冷たい湖に身を投げたの?そこまで追い詰められるって一体何があったと言うの?)

私は真剣な表情で見つめてくる妖精に問いかけた。

しかし彼らからの返答は私の予想を上回るものだった。

『キミは何者かの手によって湖に突き落とされたんだ。でも…ボク達の身体は小さくてキミを助けられない。だからキミの婚約者に知らせて助けてもらったんだ』

『でも目覚めた後のキミは記憶が曖昧になっていて魔力を不安定になっていたから哀しかったけど、翌朝にはボク達を視認できるくらいには回復していて良かったよ』

「心配と私の婚約者に知らせてくれてありがとう」

そう、私は妖精たちに礼を伝えたのだった。

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記憶を失った聖女は、婚約者を跪かせる。 結咲さくら @ichico_love

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