第4話

何だか夢を見ていた気がするがよく憶えていなかった。

まあ記憶が戻るなんて期待していなかったがアレクの反応が気になった。

コン、コン、コンと規則正しく自室の扉がノックされた。

「アナスタシア様ご朝食の前の身支度のお手伝いに参りました。」

そう言って現れたのは栗色の髪をお団子状にまとめ上げ優しげな風貌だが、意志ははっきりと持っていそうな瞳が印象的な侍女だった。

「ありがとう。えーとお名前を教えていただけるかしら?まだしっかり思い出せないみたいで…」

私がすまなそうな表情を浮かべながら訊けば、侍女は少し同情したような表情になった。

「アナスタシア様、そんな顔をなさらないでください。私がただ名乗り忘れていただけですから。私の名前はミーアと申します」

「ミーアね。素敵な名前だからすぐに覚えられそうだわ!」

私がそう言えばミーアは花がほころんだような笑顔を見せてくれた。

「そういえばアレクシス様はどんな感じ?」

「アレクシス様はアナスタシア様に思い出してもらえなかったらどうしようとか、治癒魔法は健在だろうかと心配されておりました」

「治癒魔法?それってどんな力なのかしら?」

「ああ、アナスタシア様は記憶障害を患っておられたんでしたね。治癒魔法というのは言葉通り、何かを癒す力の総称です。しかし治癒魔法は周りの妖精の力を貸してもらって行使することが常ですので彼らとの親和性が大切です。一人でそんな膨大な魔力を使用すれば命に関わりますから」

(妖精?治癒魔法?よく分からないけれど…)

「ミーア、その妖精ってこの蝶々みたいなもののこと?」

そう治癒魔法について知った途端、私の目の前にはふよふよと蝶々のような…それでいて小人のような可愛らしい存在が見えるようになったのだ。

(どうして急に見えるようになったのかしら?)

『アナだ!どうしたの?いつもみたいに一緒に話そう』

一人で思案していると、その妖精?の一人から話しかけられた。

(急に話しかけてきた!?どうしよう敬意を持って話すべき?それとも友達みたいに接したらいいの?)

『友達みたいで大丈夫だよ。だってボク達は気に入った人間にしか力を貸してあげないんだから』

(そう、それは良かったわ。ってどうして声に出してないのに分かるの?)

『それはボク達の言葉を君の頭の中に直接語りかけているからだよ。』

(そうなの、それは良いわね!一人で話していると精神を病んだかと思われるもの)

「あの…アナスタシア様?急に黙られて如何されましたか?」

私が急に黙ったからかミーアが遠慮がちに話しかけてきた。

「大丈夫よ。少し考えごとをしていただけだから!確か妖精について訊いたのだったわね。」

「はい、アナスタシア様に見えているというその小さな存在が妖精です。通常妖精は小さな光のつぶでしか認識出来ませんが、親和性が高い人ならば妖精の姿を視認でき、妖精側が友好的な場合は会話が成り立つと言われております。そのため彼らを視認できるだけでもすごいことなんです」

(つまりこの存在は誰でも見れるわけではないのね…)

「教えてくれてありがとう。朝食に遅れてはいけないからそろそろお手伝いお願いできるかしら?」

「はい。お手伝いさせていただきます」

ミーアが選んでくれたドレスは堅苦しいものではなくほとんどワンピースと言っても過言じゃないものと髪は緩く結っただけの髪型だった。

「こんな簡単な格好で大丈夫かしら?」

「平気です。アナスタシア様は何もしなくてもお美しいですから!それに…病み上がりなんですからこういう格好でも誰も文句なんて言いませんよ!」

「そう…ミーアが言うなら信じるわ。さあ朝食に向かいましょう」

そうして私は侍女と妖精?を伴ってアレクも待つであろう場所に向かうのだった。

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